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111Affronta  作者: 白米
第二部 Mondiale del RPG Eroe
27/73

027 誘拐された結果

 ベルンハルドとアニェッラ。

 二人の関係性が大きく変化したであろう出来事の次の日。

 昨日、俺が美味しい晩飯をゆっくり食べれたかは定かじゃないが、エウフラージア(童子)に物凄く感謝されたことだし、俺の中ではこの上なく良い一日だった。

 そして、今更ながらにどうやら俺は、童子に感謝されることにとても喜ばしく感じるらしく、今風の言葉に言い表すなら『ろりこん』という存在になり得ないことを祈るばかりである。

 意味を良く知りはしないが、良い言葉でない事は嫌と言う程伝わってくる。

 さて置き、俺が太陽位置に従い、何時もの時間に起床すると、昨日と同様にエウフラージアが女将に見送られるところだった。


「おはよう。事後に相応しい晴れ晴れとした日だな」


「あら、おはよ。まあ宿屋の客は激減しちまったけどね。でもエウフラージアが無事で良かったよ」


「お母さん……」


 客の激減とは、昨日の奴らが言葉の通りの意味で焼失したからだろうが、悪い噂が立つ可能性が全く無い以上、定期収入が無くなったというだけで、商売には何の支障も無い。

 昨日の火柱を目撃した奴らだって、全てこの町の人間。

 つまりは客になり得ない人間であり、そいつらがあらぬ噂を流さなければ大丈夫だろう。

 女将の性格柄、他人に恨まれている、なんてことはないだろうし、そんな意図的に行われる営業妨害があるとは思えなかった。

 エウフラージアの沈んだ声に呼ばれ、女将は慌てるも、俺は笑いながらに女将の言葉を訂正する。


「フハハ、その心配はもうじきする必要が無くなる。王が条例撤回するからな」


 俺の言葉に、二人は黙して返す。

 その顔は、驚いたようである。


「そんなの、分からないじゃないか」


「そうですよ、私達じゃ謁見も叶わない雲の上の方ですよ?」


 そして、返ってきた答えは何とも否定的で、俺は俺の言葉を少しも信じていない様子の二人にムッとした。

 折角条例撤回を王に約束させたというのに、王をも丸め込んだ俺の言葉を信じないとは。


「王にはそう約束させた。違えるようなら首を撥ねる」


「約束させたって、そんな王様と会って来たみたいな……」


「会って来た。紛うこと無く、な」


「はいはい、分かった分かった」


 女将もエウフラージアも、全く信じた様子が無く、俺の言葉は冗談か何かとされて流されてしまう。

 ……ぬう、元々恩着せるつもりは毛頭無く、それを誇るつもりも無かったが、こうも信じられないと、俺がホラ吹き小僧ならぬホラ吹き爺になってしまうではないか。

 それなりの信用を勝ち取る程度には頑張ったつもりだというのに、全然駄目では無いか。

 まあ、構わぬがな。


 取り敢えず、今日は町の外へ出て見ようか、二人と雑談を交わしながらにそんなことを思っていた俺だが、そんな考えは頭から否定される。


「久遠さん!」


「む?」


「ゆ、優人さん!?」


「あ、エウフラージア。おはよ、今日も良い天気……じゃなくてっ! 久遠さん!」


 宿屋の外から、息切れした優人が現れ、俺の腕を掴む。

 伸びて来た手を回避する事も叶っただろうが、敵意無き優人の手を感じ悪くも振り払おう等とは思わなく、そのままに掴まれた訳だが、当然のことながら、腕を掴まれた意味は分からない。


「どうしたというのだ。そんなにも慌てて」


「良いから! ちょっと着いて来て!」


「着いて来てとは……一体何処ぬぁ!?」


 俺の言葉を全く聞かずに、優人は俺の腕を掴んだままに走り出し、優人の尋常ならざるバネによる疾走で、俺は切り裂かれる風と同様に、宙を舞った。

 その今の俺では到底出せるものでは無い優人の速い走りは、引き摺るどころか俺を地面に触れることさえさせず、俺は布か何かの気持ちを味わわされながらに、流れる朝の景色を見ていた。


 そして自分が朝食を食べそこなっていることに気が付いた時既に、俺は目的地へと辿り着いた優人の静止により、優人に踵落とししていた。

 当然の様に、宙に舞ったまま急ブレーキを掛けられたせいであるのだが、脳天に踵落としを受けた優人は頭を抑えて蹲る。


「あ、頭……がっ……!」


「……一応問うが、何故ここへ?」


 優人へ踵落としを炸裂させた後の俺は、体に自由を取り戻して何も無かったかのように地面へ降り立ったのだが、朝早くにここへ連れてこられた意味が分からない。

 目の前に聳え立つは、巨大な城門。

 昨日の出来事の主となったこの国の王宮であり、色々やってしまった場所でもある。

 用があるときは呼べとは言ったものの、昨日の今日。しかも、こんな朝早くにである。


「あっ、そうだった。早く中へ!」


 早期回復した優人が、再び俺の腕を掴むと、今度は既に開いていた城門を潜り、城内へと入る。

 俺は城内の構造を良く知らない。

 その為、優人が何処へ向かっているのか、なんてのは知る由も無い訳だが、建物内だというのに優人は速度を緩めることなど決してなく、次の目的地へはすぐに到着した。

 そしてそこで待っていたのは、弔と十、そして二人の見知らぬ女児だった。

 服装から察する事が出来るのは、兵士や家政婦なぞでは決してない高貴な存在であるという事だけである。

 観察するような視線に答えるように微笑んでみたところ、弔には完全にスルーされ、十には目を逸らされる。

 揚句、新顔の二人には奇妙な物を見る様な目で見られ、結構不快な気持ちになった。


「……この方が5人目の勇者?」


「左様に御座います。姫様」


 弔が言う。

 ……姫様? あぁ、となるとこいつ等はあの愚王の子か。

 母親がとても美人なのだろう。二人はとても美しく、本当の意味で姫と呼ぶに相応しい容姿をしていた。

 ただ、今後王となる器を持ち合わせているか問われると、微妙なところだが。

 今の所、王たる素質は微塵も見受けられない。ただ綺麗なだけ。

 言うなれば、既に完成された宝石であるものの、光り輝いてるだけの物にしか見えない、といったところか。

 何故弔が遜った口調で喋っているのか分からない。

 流石はあの王の子。

 王族らしい風格なぞ皆無だな。


「ふーん。随分とみすぼらしい方ですのね」


 言われて、俺は自分を見直してみたところ、確かにみすぼらしい。

 優人に布扱いの案内を受けたせいで、髪はボサボサ、服は乱れ捲り。

 それに、着替えが無いから服はインナー以外3日前と何も変わらない現状である。

 しかし、それにしたってこいつは言葉を選ぶということを知らないのだろうか。


「……優人、説明」


「えっと、こちらの方がアンジェリーヌキャロン姫で、あちらがエレアノールエミリー姫」


 ……俺に名前を指摘する趣味は無いが、長い。

 王族にしても、そこまで長くする意味はあるのかと問い質したい程だ。

 俺をみすぼらしいと言ったのが、アンジェリーヌキャロン。

 未だ一言も言葉を発さないのがエレアノールエミリーか。

 双方共に王へ成り得なかろうが、こうも違う雰囲気を纏われると、育ちが違うのかと思わずにはいられない。

 出生は同じなのだ、それ以外に変化する可能性が見いだせない。


「お初にお目にかかりますわ勇者殿」


「……その礼節を微塵も感じていない心のままに上辺だけを塗り固めるのは止めろ。不愉快だ」


 というか、みすぼらしいとか隠しもせずに言った奴が、今更取り繕おうとするとは、馬鹿なのか?

 俺は自分がどんどん不機嫌になっていくのが分かるが、それは相手も同じだった。


「……礼節をわきまえぬは、其方では?」


「ふむ、貴様は礼節を重んじる程の人物であると? 帝王学を学んでいるかも定かじゃない高々血の繋がりで王族を名乗る貴様にか? ハッ! 滑稽だな」


「な……弔さん。この人を不敬罪で牢へ」


「私では力及びません。姫様」


「というか、結城は?」


「結城は……お姫様のお守りはテメーらの仕事だって言って先に学校行っちゃったんだ」


 早々にアンジェリーヌキャロンへ興味を無くした俺は優人に小声で告げられたその言葉を聞くと、あぁと納得した声を上げる。


「何故です。貴女も勇者でしょう」


「私は既に彼へ敗北しています。挑戦は無駄骨ね」


 後半、素が出た様である弔の発言に、アンジェリーヌキャロンは気にした様子も無く体を震わせ、此方を睨み付ける。

 しかし、不敬罪で牢へ、と来たか。

 さてはあの王、昨日の俺の行動を外へ洩らしてないな。

 まあ、今まで守ってきた勇者が、新しく来た一人に圧倒されたなぞ、公表出来る訳も無い、か。

 ただ新しい勇者が来た、とだけこいつ等へ伝えたのだろう。

 俺をどういう存在か認知できていないのがその証拠。


 最早早計に手を出せない俺への復讐も兼ねているのだろうか、こいつ等の様な人の気を逆なでさせる奴らを俺に紹介したのは。

 だとしたら、器は小さいものの、少し好印象だ。

 早くもそんな気を持てる程に神経が図太いということになるのだからな。

 俺を前にして要件は飲んだものの、王の威厳を崩さなかったところをみても、最低限は王の器であったのだろうと見受けられる。


 ふむ、あの王と、仲よくして見るのも面白いかもしれん。

 今度酒盛に誘ってみよう。


「というか、貴様自身は何も出来ぬのか?」


「久遠さん、彼女はお姫様で……」


「いや優人。姫である事は何も出来ない事とは関係ない。むしろ、人とは違う何かを出来なければならないのだ」


 人と違うから王なのだ。

 王とは、人にして人にあらず。そんな存在でなければならない。

 でなければ、無条件で王に従う王政は成り立たない。

 王が人のままであったから、クーデターが起こったのだ。


「……優人様達を呼び出したのは、この私ですわ」


「ほう? 貴様が」


 ……で?

 いや、優人達をこの王国へ召喚したことの凄さ、というのがこの世界の人間でない俺には全く分からない訳で。

 それを誇らしげに言うアンジェリーヌキャロンの態度が、イマイチ理解出来ないのである。

 そんな俺の様子を見て、アンジェリーヌキャロンは顔を真っ赤にして言う。



「不愉快ですわ。顔合わせも終わりましたし、私はこれで失礼します」


「あ、キャロン!?」


 優人はアンジェリーヌキャロンの事をキャロンと呼んでいるらしく、速足で部屋を出て行くアンジェリーヌキャロンを追って、部屋を出て行く。

 残された俺と弔と十。そして、もう一人の姫であるエレアノールエミリーは、そんな二人を目で見送った形のままに時間が止まる。


 正直な話、俺は優人以外の勇者と仲が良いとはとても言えない。

 まず、出会いが最悪なのは勿論の事、そこから巻き返せる程に出会ってから間がある訳でも無い。

 つまり、それなりに気まずい訳なのだが。

 この沈黙がおかしいと感じられるほどに時間が過ぎてしまえば、尚の事気まずい。


「千壌土さん」


「む?」


 なんて、そんなことを考えていた俺に、弔が言う。


「貴方には今日から、学校に通って貰うことになるそうよ」


「は? 学校?」


「えぇ、勇者があの学校へ通うのは義務だそうよ」


 勇者に魔王を倒す以外の義務が生まれるなぞ聞いていない。

 というか、学校? 優人が通っているのは知っていたが、学校なんてのに通っている暇があるなら、さっさと魔王討伐の旅に出ろよ。

 更に勇者という存在に疑問を抱いた俺だが、弔はそんな俺を置いて言う。


「制服は別の部屋へ用意されているそうよ。それじゃ、私達も行くわ」


 弔は十に目で合図をすると、スタスタと部屋を出て行ってしまい、十もエレアノールエミリーを連れて部屋を出て行くが、すれ違い様、エレアノールエミリーが小声で言う。



「御姉様が要らないのなら、貴方は私が貰うわ」



 そんな言葉を残して行ったエレアノールエミリーをもう一度捕捉すべく振り向くが、そこには既に、彼女達の姿は無い。

 ……しかし、学校か。

 何故また学び舎等にと思う反面、若返ったのだなという実感が湧く観点から、そこまで悪い気もしない。

 この世界での一日は長いことだし、勇者になった以上そう易々と国を出る事も出来ない。

 ならばこの国の分化に触れるのも良いか。

 そう思った俺は、エレアノールエミリーの言った言葉を忘れ、学校へ行く事を決めたのだった。





 ……制服が用意されているという別室の場所を、俺は知らない。

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