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111Affronta  作者: 白米
第二部 Mondiale del RPG Eroe
24/73

024 虐殺現場の救



 嘘から出た真とは、このことだろう。

 俺は城から宿屋への帰路を、そんなことを考えながらに思っていた。

 あの後、俺はすぐに宿屋へ戻ることを伝え、場所を知り得ている優人と結城に、何か用がある際は訪ねて着て欲しいと言伝し、急いで城を出た。

 まさか、王の前で大嘘をホラ吹いた人間が勇者とは……いや、別の意味では勇者だろうけれどもさ。

 どうせなら、もういっその事ストレートに『ペテン師』とかだった方が、どれ程良かっただろうか。


 あの場を切り抜ける武器なってくれはした。

 だが、俺がこの国を救う勇者になれるとはとてもじゃないが思えなんだ。

 愛国などでは無かった。しかし、守れなんだ母国を思うと、俺なんかが勇者であるものか、と思う自分が居るのだ。

 日本帝国陸軍大佐。殉職扱いを受け、日本帝国陸軍中将か。

 いや、正直戦友達に呼ばれた『大佐』という肩書の方が、俺にとっては愛おしい。


 死して手に入れた肩書きに、何の意味があるのか。

 帝国軍人の時には思わなかった事柄である。


 教育とは、洗脳だ。

 その国での常識という名の教育者に都合の良い教えを正しいと擦り込む、時間を掛けたマインドコントロールだ。

 それ故に、そう思った故に、俺は常識と言うものを人から教わった事は無い。

 自分の眼で見て、自力で調べて、そこから導き出される正しい道を、俺は常識と呼ぶ。


 万国へ精通する常識を得た俺はその代償として、愛国精神を著しく欠落させた。


 そんな人間が、国を救う勇者に、なり得るのだろうか。



 そんなことを考えながらに宿屋へ辿り着くと、何やら中が騒がしい。

 何事かと思い、俺は即時宿屋へ入り、騒ぎの大元であろう食堂の方へと足を進める。

 そこで見たのは、予想通りにして、醜く見ていられない光景だ。


「止めて……下さい」


「オラ、さっさと脱げよ。宿助けたくねーのかよ?」


 数人の男共が、エウフラージアを囲う。

 エウフラージアの顔は陰り、恥辱に耐える様に歯を食いしばっている。


「お父さんもお母さんも助けに何かこねぇよ? その辺はしっかりしてんだ」


「安心しろよ、殺してねー。殺したら意味ねえし」


「止めて……お願いですから」


 男の手が、エウフラージアの胸元に触れる。

 俺の手が、男の肩から下を切断する。


「ただし、お爺さんは助けに来ましたとさ、めでたくなし、本気にめでたくねーよ。俺の予想した結果がこうも早く巻き起こるなんてな」


「……え……えいぎゅぁぁぁぁらいぁかかかぁあぁぁ!?」


 やれやれ、なんて日だ。

 ここまでドンパチが多いだなんて、ここはアレか? 内戦中のスラムか?

 宿屋の客が、宿の経営が厳しい際にそこの若い娘へ性的暴行を働くというのは、大企業では無いサービス業である場合は、本当にあることである。

 友人であり、ひきこもりである健司曰く、「それなんてエロゲ?」というらしいが、多分それは、実際に有り得るからこそその『えろげ』とやらになったのであって、完全なフィクションとして生まれたものでは無いのだと、色々な場所を見て来た俺は言える。

 クソ忌々しい、健司の言うとおり、フィクションの世界の中だけで展開してくれれば良かったとしか言いようのない、人間の醜さが表れている。

 俺が女将に言った決断は、こういう状況に陥った際の行動の速さに繋がる。

 宿屋が大事なら、黙認が必要だろうが、娘が大事なら早い対処が必要だからな。

 そして、俺がこの場にいる時点で選択は一択だ。



 切り口から噴き出す赤い液体からエウフラージアを守るのは、現状を創り出したこの老害の出番だろうよ。

 痛みの余り無い肩から先を抑えながらに暴れる男より噴水の様に溢れ出す血液から、エウフラージアを守るように壁になり、手に入れたばかりの袴が、紅く染まって行く。

 まあ、か弱く、力強い女児を汚さぬ為の対価としては、とても安い。




 そして思う。


 ……やっと、間に合った、と。


 79回中68回は事後だった。11回は、手遅れだった。

 ヒーローなんて存在しないと思わずにはいられない。

 余りの無力さに零れ落ちた水分なんて、もう遠い昔に10リットルを超えた。


 80回目にしてやっと、死後にしてようやく、間に合った。


 か弱き少女を暴漢から守る、なんていうヒーロー染みたそれを、事前にやれた。

 出来たよ、出来たんだよ。


 1勝79敗。セシーリア……俺はようやく……ようやく救える。救えるんだよ。





「な、何もんだテメェ!」


「お爺さんと言っとろうが」


 俺にとって、黒剣は玩具に過ぎない。

 優人に剣を返して貰うの忘れたし、あんな何時壊れるか不安の残る武器、俺は武器として使わない。

 気を取り戻したんだ。俺の武器は、俺だよ。


 手始めに、地を撒き散らす男の心臓を貫いて黙らせる。

 これ以上店内を汚して女将に怒られるのはご免だしな。


「久遠……さん?」


「うむ、父母の安否が心配であろうが、そこに隠れておれよ。……そして、絶対に此方を見るな」


 エウフラージアの手を引いて、宿屋出口の前まで行くと、エウフラージアをカウンターへと押し込んだ。

 これから先は21禁です。

 天下の警察様ですらリバース間違い無しのグロ系エンターティナーの始まりだ。

 俺は、誰一人として生かしておく気は無い。

 数は6人。あ、1人殺したから5人か。

 こういう人間は足を引っ張るのが好きだと相場が決まっていて、生かしておいても良い事なぞ無い。

 どんなに言い聞かせようが、強いものに隠れてしまえばあっと言う間にゲロンチョだ。



「だから殺す」



 自己完結だけに、誰一人としてなぜ殺すのかなんて分から無かろう。

 だがしかし、死ぬ人間に理解なぞ必要ではない。


 相手が凶器を持ちだした。だから殺す。

 相手の目に怯えが見える。だから殺す。

 相手は俺が殺すとは思ってない。だから殺す。

 俺は別に人を殺したい訳じゃない。だから殺す。


 まあつまりは考えるのは無意味だと、この程度には理解しては貰うだろうが。

 俺は棒を持てば命中率100%の斬撃を放てる。

 だが、それとは別に刃物を持たずとも、他人を切り殺せるんだよ。


 なるべく床を汚さないように殺すというのは難しい。

 取り敢えず、部位を破損させると血が舞うから、心臓を貫き殺すのが一番手っ取り早いのだが、何分()が大きいせいで、傷口も大きくなる。

 こういう時こそ、細い剣とか有ってくれたら有り難いんだがな。


 襲い掛かる5人。

 殺気は籠っているものの、その濃度は随分と薄い。

 殺す気が足りない、とでも言うんだろうか。


 俺は思わず反射的に、一番最初に俺へ辿り着いた男の頭を掴み、そのまま握り潰してしまった。

 相手の纏う気から、相手が最もされたくない殺され方を予想し、ついそれをやってしまったのだ。


 あー……手が男の脳塗れじゃないか。


「ま、待ってくれ! 分かった!」


「何を? 俺は待たんぞ」


 今度はしっかり、心臓を貫く。

 ついうっかり抜き取りそうになったが、そんなことにはならず、しっかり貫いた後に抜く。

 後3人。ただ、血濡れの俺が怖いのか、3人とも後さずり、食堂へと戻って行く。

 窓でも探して逃げる気か?


 甘いな。一番最初に逃げ口を塞ぐ奴相手に、それは悪手以外のなんだというんだ。


「な……消え……!」


 俺はゆっくりと後さずる3人へ、相手に消えたように見せる歩法で這いより、目に見えぬ速度で鎧通しの応用で覚えた、内臓破壊を実行する。

 良く考えたら、これをすれば良かったのだと、気が付いた。

 これは気功も活用し、外を傷付けずに中だけをズタズタにする技で、欠点があるとすれば、使うと穴という穴から血が噴き出すという位。

 傷口から噴き出す血より、よっぽど少ない被害で済む。


「ふう、さて女将達を助けに行くか」


 とはいっても、このふくそうじゃぁな。

 俺は顔に着いた返り血を拭うと、血塗れの上を脱ぎ、上半身裸という『せくしー(笑)』な格好になり、返り血の少ない下だけで、行動することにした。


「エウフラージア。俺は女将達を助けてくる。お前はここで隠れていれば何も見ずに済むだけでなく、助かる。だから、良い子で大人しくしてなさいよ?」


 頭に手を乗せて笑いながら言うと、エウフラージアは何かを言いたそうに口をぱくぱくと動かしていたが、俺という助けのせいで気が抜けたのだろう。上手く声を出せないようだった。

 俺はそんなエウフラージアに再度笑い掛けた後、宿屋の外へ出て、そのすぐ近くにある路地へと入る。

 気は、誰しも持つ気配の様なものであり、開門さえしてしまえば人一倍人の気配に敏感になれる。

 だから路地裏に、数名の人間が居る事なぞ、分かり切って居る事だ。


「やあ」


「っ。ンだテメェ!」


「死神だよ。お前らにとってはな」


 案の定、というべきか、そこには女将と店主。そして、数人の男たち。

 やれやれ、ここで二人を拘束していることに、こいつら何の旨味があったんだろうな。

 店主が気を失っているところを見る限り、抵抗したのだろう。



 ……ここは裏路地だし、別に良いか。

 俺は腕を横に振り、男達全員の首を撥ねた。


「よう女将。強いおじーちゃんのデリバリーは如何かな?」


「アンタ……何者何だい?」


「む? 千壌土 久遠。力の一端を取り戻した、ただの老害だ」


 唖然としている女将に、俺は平然と答える。

 気功さえ取り戻せば、あんな奴らを圧倒すること位、容易くて当然だ。

 ただ、気功はあくまで俺の力の一端でしかなく、未だ補強しきれているとは到底思えない。

 何十年掛ければ、再びあの境地へ達せられるのか、今の俺には分からない。


 ……気功さえ使えば最強ならば、あいつらは一度だって負けなかったんだ。



「老害って……」


「フハハ、まあ良いだろう。……それより、俺の忠告は無意味であったな」


 娘か宿か、選んでおけと俺は言った。

 実はあのセリフ、影で聞いていたエウフラージアへ向けていた部分もあったのだ。

 もっとも、エウフラージアの場合は自分か宿か、だったが。


 そしてエウフラージアは、揺れた。

 恐らくあの男共はエウフラージアへこう言い寄ったのだろう。

 『宿を存続させたければ逆らうな』とでも。

 女将と店主を拘束したのは、娘を大事にする2人に余計なことをさせぬ為。

 そして、同じく両親が大事なエウフラージアに、店の為ならと思わせる為だ。


 しかし、年頃の娘に突然屈服を求めたところで、即時受け入れられる訳も無い。

 奴隷じゃ、ないんだからな。


 結果があの、煮え切らない抵抗へと繋がっていた訳だ。

 大仰振って逃げ出す訳にも行かないが、助けて欲しいという意思表示もする。


 選択を求めた次の日に答えを求められたのだ、考えが纏まっておらんでも仕方が無いが、俺もこんなに早くこういう輩が出て来るとは予想外だった。

 もう少し家計がやばい状態になってからだと思っていたのだが、案外考え無しだな。

 そのせいでエウフラージアに結論を出す時間が無かった。


 まったく、笑えないことである。


 しかし、これは良い教訓だったとも言える。

 親が子を裏切らず、子は恐怖を知り得た。



 俺の知る悲惨な末路は訪れず、ちゃんと幸せになれるのだ。


「そうだねぇ。いや、アンタの忠告を聞きながらに、アタシは間違えてしまったのかもしれないねぇ」


「む?」


「本気で、死ぬ気でやれば、こんな奴ら一捻りだった。そう思う自分が居るんだよ」


「…………それが本当なら、次その選択をした場合、俺は貴様達の首を撥ねる」


 つまりは、裏切り掛け。

 女将もまた、選択し終えていなんだか。

 俺が居る時点で一択ではあるが、選択肢に無い選択肢も、確かに存在するのだぞ?


「大丈夫。もう二度と、間違えない」



 その言葉には、親としてのしっかりとした重みがあった。

 だから俺は、二度目は無いぞと言った。

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