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111Affronta  作者: 白米
第二部 Mondiale del RPG Eroe
23/73

023 自己紹介は7世

「な……国宝を寄越せと申すか」


「それだけじゃない。条例撤回も、近日中に行え」


「ふざけるな! 国宝を個人の手などに……」


「貴様は一度、選択を間違えた。また、間違えるのか?」


 そうなった時が、お前の死だと、そう言う様に俺は拳に力を込める。

 正直な話、俺は聖剣などに興味は無い。

 何故なら剣とは、所詮は他者を殺す道具であり、それを神聖視するなぞ根源から間違っているからだ。

 動物として生まれてしまった以上、他者の死を食い物にして生きていくしかない訳だが、同族殺害を容認していないように、殺しに連なる道具を神聖視するなぞ、気がくるっているとしか言いようがない。

 城と協会が一体になっている程だ。

 きっと神具扱いでも受けているのだろうが、神でさえも死を求めるようになってしまえば、ただでさえ死で溢れた人の世は、死そのものへと姿を変えるだろう。


 だから、聖剣は神具などでは決してない。


 聖剣とは、魔王を殺す為に生み出された兵器である。


 これが結論であり、これ以外の結論は存在しえてはならない。

 もし存在するのなら、俺はそれを虱潰しに潰して行こうか。

 いや、するまでもない、か。


「……分かった」


「あぁ、正解だ。必要の無くなった兵器は即時捨てるべきなんだ」


 戦力増強なんて求めるから、人は戦争なんてするんだよ。

 力が無ければそもそもそんな言葉すら生まれてこなかっただろうに。


「ただし、貴様も魔王討伐に加わって貰う」


「……? 逆に加えぬ気だったのか? 民を守る為であるのなら、使えるものは何でも使え。守るべきは個でなく集。例え自分を捨て石にしようとも、守るのだ」


 もっとも、守りたいと思える国が無ければ、そのような思想なぞ無意味なのだがな……。

 日本に守るべき主君が居ればと思わなかった日は無い。

 俺が日本人でなければと考えなかった事は無い。


 改変が不可能な程に終わってしまった国を守ろうとは、思えない。


「貴様は一体何なのだ……?」


「千壌土 久遠。一度言ったと思ったんだがな」


 軍人だったころの肩書は、日本帝国陸軍大佐であったが、アレはあまり良い思い出が無い。

 というか、俺の昇進は特例のものであった為に、妬みも多く余り良い印象の無い肩書きだ。

 それに、一度は死んだとされて二階級特進してたから大佐ではないか。……中将?


 俺は王に背を向け、その場にいる人間全てに向かって叫ぶ。


「聞け! 者共よ! 今、契約は成った! 役目を終えし聖剣を代価に私は貴様達に力を貸そう! 魔王は、我が手によって滅ぼそうぞ!」


 突然話を振られ、訳が分からない人間が殆どだっただろう。

 だが、数名の兵士が拍手し始めると、周りもそれに釣られる様に拍手し始め、謁見の間は手を叩く音で溢れかえった。

 貴様らはこの契約の証人だ。

 そんなことを思わせる為に言ったセリフが、何故か演説のような扱いを受けている。

 ただ、そんな中で取り残されているのは、3人の勇者である。

 訳の分からない俗人が、急に勇者を名乗ったのだ。当然と言えば当然だが。







 それから、何時間か経過した時のことだった。

 俺に宛がわれた部屋へ、優人とその他3人が尋ねて来たのは。


「久遠さん!」


「優人、無事だったか」


「うん。でも久遠さんが勇者だったなんて、驚きだよ。言ってくれれば良かったのに」


「あー……それな」


 それは嘘だ。

 なんてのは、友でもなんでも無い奴らが背後に控えている以上口にすることは叶わない訳だが、優人には後で話すことにしよう。

 俺達が今いる部屋。ここは客間だろうか。

 王宮というだけあってかなり立派な部屋であるが、正直王には良い印象を与えた訳も無い。

 身の安全を優先するのであれば逸早くこの場を離れるべきであり、ここで出された飯には手を付けるべきではない。

 恐らくは長年掛けて作り上げた毒への抗体も、今の身体には備わっていないだろうからな。

 先程まで治療を受ける必要がある程度には満身創痍だった俺の身体が毒に耐えてくれるとは思えない。


 ……しかし、『ちゆまほう』だったか。

 コレは凄いな、ボロボロであった全身や肋骨があっと言う間に治癒したぞ。

 包帯要らず、だな。


「私達はそのことについて調べる必要があり、ここまで来たのです」


「調べる事、だと?」


 優人を押し退けて俺の前に立ったのは、最早顔馴染みな女児であり、その後ろにはミノムシが如くもう一人の女児も引っ付いている。


「えぇ、ステータスカードの提示を要求させて貰う」


「……? すてーたすかーど? 何だそれは」


「は?」


「む?」


 それはこの国での必需品であるのだろうか。

 言葉の意味が分からない俺が首を傾げると、女児は信じられないといった感じの表情を俺へと向け、溜息を吐いた後に言う。


「……貴方はギルドへ加入などはしませんでしたか?」


「……あぁ、アレはステータスカードというのか……つまりは、身分証明しろと?」


 つまりは、すてーたすかーどとはStatusCard(ステータスカード)ってことか。

 随分と発音の悪い日本語訛りだこと。日本以外じゃ伝わらんぞ。


「えぇ、まあそういうことよ。勇者はステータスカードの職業欄に『勇者』と表示されるの」


 ……え、マジでか。

 というか、勇者って職業だったのか、なんて職業『武人』の俺が言えることではないが、さて置きそれは拙い。

 言わずもかな俺の職業は『武人』であり、今回の所業から、『ペテン師』にジョブチェンジしている可能性は大いにある訳で、今カードの提示を要求されるのは拙い。

 ただ、手を差し出している女児の申し出を断るということは即ち、俺が勇者でないと言っているようなものだ。


 ……しかし。


「名も知らぬ相手に身分証明しろと言われても、従う気にはなれぬよ。お前は見知らぬ相手に対し、赤裸々に自分の事を喋り続けるのか?」


「……弔よ。私は燦々日々(さんさんひび) (とむら)というらしいわよ。こっちは(にのまえ) (つなし)という美少女。手を出したら殺すわ」


 弔はそう言って、ステータスカードを提示する。

 十も、弔の後ろから恐る恐るといった感じで手に持ったステータスカードを此方に見せる。


 弔はジジイに何を言っているんだ。



 燦々日々 弔 17歳

 職業:勇者 Lv8




 一 十 17歳

 職業:勇者 Lv8




「弔に十、ね。……? …………まあ良いか」


 その件についてはどうしようもない。

 さて置き、自己紹介され、相手方からカードを提示されてしまった以上、俺の提示も義務付けられたに等しい訳だが、どうしたものか。

 今から王殺害するのも手かもしれない。

 いや、それはもう警戒されてしまっている可能性が高いか。

 王を消さないのなら、今この地より離れる訳にはいかない。何故なら条例撤回という口約束が守られない可能性が高すぎるからだ。

 王は自身の行為を悪手と思っていない様子だった。

 俺が勇者では無く、それがばれてこの場を去ったとなれば、約束は無かったことになり、鎖国は続くだろう。


 ……一か八か、勇者に訳を話してみるか。

 ステータスカードを提示し、嘘吐きと罵られた後に、鎖国を解くまで王への報告を避けて貰うことができれば、それだけで目的は達成される。


「俺は千壌土 久遠らしからぬ千壌土 久遠だが、覚えて貰わない限りには親しくなぞなり得ないな」


 言って、俺はステータスカードを提示する。

 恐れながらにカードを見せてくれた十への礼を兼ねて、十へカードを渡してみたところ、小動物が如くあたふたした後に、俺の指ごとカードを受け取ろうとして、再度慌てる素振りを見せ、横から掻っ攫われる形で、弔に奪われた。

 十が完全に弔の背中へ収まり、姿が見えなくなり、弔が渋い顔でカードを見ている。

 そして、素早い動作で後ろにいた優人と結城の方へと向き直り、背中へ引っ付いていた十の背が此方へ公開されてしまっている訳だが、気付いた十が慌て、どうにかしようとした結果、転ぶというオチを付けていた。


 選択肢としては起こしてやるしか無い訳で、十を抱き起して服に着いた埃をほろうと、弔の方へ放ってやった。


 ……何かお伽話に出てくるような喋る小動物みたいな人間だな。



「残念ながら、結城の予想は外れたわね」


「…………」


「ハハ、流石久遠さん」


 俺がそんなことをしている間に、勇者ズの中で、ステータスカードを回し終えてしまったようである。

 どう説明すべきか、なんて考えている合間に、弔からステータスカードの返却が行われる。


「何か、言う事は?」


 そんな言葉を掛けて、相手の出方を見る。


「貴方、歳は幾つ?」


「まさかの切り返しに俺は驚愕を露わにしてみる」


 何だそりゃ。

 その質問に対し、俺が答えるべき年齢は分からないのだが、肉体年齢的に15歳だから、15歳と答えるべきか? それとも、精神年齢である111歳と答えるべきなのか?

 分からん、正直に答えてみるか?


「精神年齢は111歳だぞ」


「何だその超高齢」


「身体は子供、頭脳は老害。その名は」


「サウザンド・ターミネーター7世」


「誰それ怖い」


 いや、マジで誰だソレ。

 国籍どころか生物的に違うのではないか?


「というか、話を逸らすな」


「だってさ結城。久遠さんは結城に土下座しろって」


「言ってねぇだろ」


 言ってないぞ。


「みたいよ結城。千壌土さんは結城に土下座を求めてるみたいよ」


「だから、言ってねえだろって」


 だから、言ってないぞ


「……結城君、土下座……だって」


「やってやんよこんちくしょー。やりゃいいんだろやりゃぁ。……すんませんしたぁぁぁぁ!」


 ベッドに腰掛ける俺の足元に向かってスライディング土下座を決める結城。

 こういう場合にどうすべきか、前に教わったことがあった気がする。

 まだ日本の感覚が抜け切らない頃のことだから、かなり昔の事……そうだ、ジェニファー曰く……。


「……踏めば良いのか?」


「鬼畜だ。鬼畜が居るぞ」


 結城は俺の言葉を聞いた瞬間に素早く横に転がり、勢いのまま立ち上がると、俺との一定距離を取ると、恐れた感じにそう言った。


「いや、ジェニファー曰く、頭を差し出してきた相手に対してはその頭を踏むという行為で返してあげなさいと……」


「ちょっとジェニファーさん呼んできて。おじさん子供への教育でその人に言わなきゃいけないことがあるんだ」


「3年前に亡くなったと手紙が来ていた。陰陽術で呼び戻すか?」


「お、おぉふ……」


 状況がイマイチ理解出来ないのだが、現状俺のすべきこととは何だろう。

 なにやら気まずい雰囲気が流れているが、ジェニファーは天寿を全うして死んでいるぞ。

 手紙が来たのが最近ということは、結構長生きな筈だ。

 彼女は拷問技術に長けていたな、全く知らなかったジャンルだけに、学ぶことは多かった。

 しかし、サディスティックという思想だけは、どうしても理解出来なかった。


 他人を痛めつけるという行為に快楽を感じるとは、一体どういう風なのだろう。

 ジェニファーの事は兎も角、未だ状況を掴めなんだ俺に、優人が言った。



「結城、久遠さんが勇者じゃないって考えてたんだよ」


「そうだったのか……む?」


「え?」


「あ、いやなんでも無い」


 何でも無くなんかない。

 優人の口ぶりだとまるで、ステータスカードを見て俺が勇者であることが発覚したようではないか。

 俺の職業は武人。

 傭兵からすぐに武人へとかわり、俺に相応しい役職だと感じていたし、それだに見間違う筈も無い。


 だが、こいつらの口振りだと……。

 俺は恐る恐るといった風に、ステータスカードを確認する。




 千壌土 久遠 15歳

 職業:勇者 Lv1



 その職業を見て一番驚いたのは、多分俺だった。

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