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111Affronta  作者: 白米
第二部 Mondiale del RPG Eroe
22/73

022 進撃の最強人種

 俺の進撃を一番最初に妨げたのは、女児と結城だった。


 俺の言葉へ俊敏な反応を見せて立ち塞がるそれは、及第点を貰える程度には好手。

 ただ、ただ、だ。


「それは、俺に対する場合にのみ悪手だぞ。人間共よ」


 俺は使い勝手分からない黒剣を振るう。

 振るわれるのは黒剣では無い。

 薙ぎ払うのは黒剣では無い。


 地獄の業火の方がまだ温い、灼熱の炎である。


 剣筋になぞられた炎が謁見の間を焼き尽くす。

 ベアトリーチェから得たこの剣より生み出される業火は、俺次第でどんな炎へも姿を変える。

 ただ焼き尽くす為だけに生み出された炎は、ただ世界を焼き焦がす。

 結城は街道でやった技法と同じ方法で水を放出し、火消しにかかる。

 訳も分からず、何も求めず生み出された炎と理解し、焼くことを求められて生まれた炎が、一緒な訳もなかろうて。


「な……!?」


 結城は絶句する。結城の生み出しし水は、発現させた瞬間に気化し、空気に融けたのだ。

 謁見の間内にある水分が炎に焼かれ、消える。

 そんな炎が、結城と女児、二人の勇者を炭と化すべくその身をぶつけようとした瞬間、横槍が入る。


 もう一人の勇者か。

 そう思い視線を向けた先には、予想を大きく外し、人間らしからぬ容姿をした人型。

 あれが人間なのかは分かりかねるが、兎に角、小さな子供らしき女児がそこに居た。


 俺は人型にターゲットを変更しそうになるのを思い留まる。

 人型は幸いにも、殺気を持たなかった為に、現状何をすべきかを知ったのだ。

 ただ、あの炎を生み出そうものなら、再び鎮静に掛かる事だけは分かった。

 俺は姿勢を低くし、走る。

 黒人のバネという才能は、俺に無い。

 だが、デショーンより教わりしこの走り方は、バネ(才能)が無くとも十分過ぎる力を発揮してくれる。


 ベルンハルドを追う時も、この走り方をすれば間に合ったか、なんて思いはしない。

 才能無き人間には、この走り方で掛かる負担が大きすぎる。

 それに、体力まで削がれた今、長距離走には向かない。

 普通の走り方でさえ息絶え絶えだったのだ、この走り方をしてしまっては、距離を稼ぐことは難しかっただろう。



「何処に隠してたのかしら。そんな爪」


 なんて言いながら女児の手から放たれるのは、目に見えぬ直径50センチばかりの見えぬ弾丸。

 風すらも裂くことなく移動する高速物体とはなんとも非科学的な。

 ただ、それだけだ。


 俺は全て紙一重で回避する。

 避けた先にある床は、弾丸の大きさに消失する。

 成程な、俺が変な動きを見せた瞬間これをベルンハルドへ放つつもりだった訳か。

 だが。


「甘ぇよ」


「っ!?」


 なんだ、この程度の事か。

 この程度の事で俺を脅したのなら、ハッタリにも相違無い。

 こんなもの、放つ前に首を撥ねてしまえば、何の問題も無いんだよ? か弱き女児よ。


 俺は黒剣ではなく、腕を振り下す。

 無論、当然、当たり前のように、女児の命を助けてやる為等と言う生易しい理由では無い。



 女児の身体を切り裂く最中に黒剣が折れてしまったら、大変だろう?



 だが、そんな俺の攻撃は、見えない壁によって阻止される。

 今度こそ、もう一人の勇者による干渉。

 壁というよりは、バリアに近いそれを、女児を守る為に使ったらしい。

 しかし、この程度のものでは俺を10秒以上足止めなぞ、不可能だ。


 ただ、バリアに腕を振り下してみて、筋力の低下も著しいことが理解出来た。

 10秒以上の足止めは不可能と思ってみたものの、実際問題はかなり必死にやらないと駄目そうだ。


 どれ、試しに10秒で57回ほど頑張ってみよう。

 俺は短剣を破れた鞄へ引っ掛けて、ブレット直伝拳術を披露する。

 一点集中等と言う技術を、ブレットから教わった事なぞ一度も無い。

 ただひたすらに強く、早く、的確な拳を。


 蹴術を全く使えないあやつは、それ故に最強へなり得なかったが、車椅子でありながらに鉄をも貫く拳戟を何の問題無く使えるブレットは、間違いなく最強の拳を持っていた。

 神は何故、奴に歩く自由を与えなかった。


 繰り出す拳は裂罅の如く、目に見えぬ壁を抉る。

 バリアに守られた女児と結城の目には、一体何回俺の拳が見えていただろう。

 40回以下なら、赤点だぞ童子共よ。


 キッチリ60回で、バリアは砕けた。

 10秒以内に砕くことの出来なんだ壁を創り出したお前は、仲間を守る盾になり得るな。

 そう思い其方へ視線を向けると、そこには女児が倒れていた。

 なんと、精神を削ってこれだったのか。


 なればこれを当たり前の様に出せて初めて一人前だろうな。

 等と考え、バリアを出したであろう女児へ視線を向けていたところ、それに守られていた女児が、俺の懐に手を置いて言う。


「油断したわね」


 いや、油断なぞは微塵もしてはないな。

 ただ単純に、お前の生み出すまだんとやらが、俺の求めていたものの可能性が高い。

 それだけの事なんだよ。


 ニヤリと笑みを浮かべた女児は、俺の懐に入ったままタメに3秒も掛け、まだんとやらを放った。

 お前、俺出なかったら何回死んでるか分からんぞ。


 しかし、良い位置に放ってくれたものだ。

 心臓を伝い、全身に駆け巡る謎の力。

 その終着点には、俺を真に目覚めさせるものがある。


 開門。




「ケフ」


 何分体が弱い。

 全身を駆け巡ったそれにより、完全に全身へ流し切ることも出来ずに体内を傷付け、俺は吐血する。

 ふむ、物理的干渉もあるようで、肋骨も何本か折れてしまったか。

 ただ、得た物はそれ以上にでかい。


 気功。

 気と略すことも出来る。

 骨折や出血等と言った代償なぞは安いものだ。


 これさえあれば、最早戦うひつよすらも無い。



「跪け。雑兵共」


 動けずにいた兵士共、茫然としていた大臣、何もしなかった国王、そして、目の前にいる勇者を名乗る若造共は、全員仲よく平等に、地へ伏した。

 これは言霊でも、暗示でも無い。

 気の放出による威圧。

 それのこれは最高の境地。


 内蔵気量や学んだ技術。この二つさえあれば、気功はどのような軟弱者でさえも最強にする。

 瑞英(ルェイイン)は随分と細かったが、大きな岩も平然と持ち上げられる力持ちであった。

 眉唾ではない、本物の気功とはコレなのだと、俺は地図にも乗らぬ土地の村にて、それを知った。知らされた。


 ……まあ、気功を若造共脅すのに使うのはお門違いということだな、うん。

 要反省だな、若返る前の俺。


「何故……効かない……!?」


「む、この状況で喋れるか。別に聞いていない訳じゃないぞ、見ろこの血を」


 口より吐き出された血液を手で拭い、跪いた女児に視線を合わせて手を見せる。

 その顔は恥辱に溢れているが、気による威圧を受けて未だ心折れぬとは、戦士だな。


「貴様の攻撃は効かなかったのではない。利用されたのだ」


「利用……!?」


「貴様の攻撃がこれを目覚めさせた。……悪い言い方をすれば、お前がこの状況を作ったんだよ」


「そんな……」


「そんなことより、お前……10年位前に俺と会ってないか? 場所は……公園」


 そう、そうだ。

 顔を近くで見て、記憶が呼び覚まされてきた。

 何処でだったか、公園で無く小さな女児を。


「……知らないわ」


「そうか……久遠爺様と慕ってくれたあの童子は今元気にしているのだろうか」


 当然の様に、血縁などでは無い。

 小さな公園のブランコで知り合い、次の旅へ出るわずかな時間で仲良くなった友だ。

 まあ、顔の感じが似ているというだけで、俺の知る友はこんなにも鋭い目つきをしていなかったが。

 良く考えたら、10年。子供の成長は早いのだ。

 もっと良く考えたら、この世界は俺の生まれた場所ではないのだ。

 居る訳、無かろうな。


「え……?」


 目の前にいる女児が、困惑した表情を浮かべている。

 まあ、明らかに十台半場な男児が、爺様などと呼ばれていたなんて、そうそうなかろうからな。

 そんな女児を捨て置いて、俺は歩き出した。


 見知らぬ相手に友を重ねるなぞ、失礼極まりないから、相手が敵で良かった。

 礼儀を重んじる必要なぞ、皆無だからな。


 俺は、跪いた王の前まで歩いて行くと、気による威圧を解き、床へ突っ伏した王を引っ張り起こし、玉座へと座らせる。


「……何故、このようなことをする。貴様の仲間は解放したというのに」


「俺の目的は一つ。外人のこの国への来国許可。つまりは、条例の撤回だ」


 まさか2日目で王と謁見し、このようになるとは夢にも思わなんだ。

 それに、もっと穏便に事を済ませるつもりでもあったのだ。一応はな。

 だが、もし吟遊詩人紛いの布教活動を了承してしまえば、上下関係が確立されてしまう。


 そうなってしまえば、最早どうしようもない。

 それこそ、国を壊すか半年以上の時間を待たねば、この国は鎖国するのを止めなくなる。




「な……それだけの為にこれだけの騒ぎを起こしたというのか……!?」


「それだけ……だと?」


 こいつは理解していない。

 条例によって起こるこの国への厄災を。


「貴様の言うそれだけのことで! どれだけの人間が苦しむと思っているんだ!」


 俺は言う。

 尖り過ぎの目付きで、叫び、訴える様に。


「外人を招き行われる商いは滞らず、行動制限によって激減し傭兵は仕事を取り合い、仕事の無い要人は朝から晩まで酒浸り! しかもそれによって得られる結果はたった四人の安全だと、ふざけるな!」


 滞らなくなった商いは、何も宿屋や屋台だけでは無い。

 外から来る商品の激減による輸入を主とした商店の破産。

 わざわざ自国の者が他国へ商品を買いに行かねばならぬ現状、盗賊による被害も少なくない。

 酒盛の場で、少し聞いただけだったが、あの場で酒盛していた奴らは仕事の激減による溢れ者。

 傭兵というのは仕事と命さえあれば羽織りの良い商売らしく、酒飲む金は今の所あるらしい。


 まだ他にもあるが、聞いたところの大きなのはこの辺か。


「国が! 民が! たった4人の雑兵の為苦しめられるなぞ、容認なぞし得ない! する訳が無かろう!」


 王は、黙したままだ。

 返す言葉が無いのか、それとも……。


「剰え国内ですら立ち入り禁止の場を設ける! 城門前に溢れた民達。アレは何だ? 神に祈りを捧げんとする信徒では無いのか? 信ずる者達より信仰対象を奪う。それは貴様の中で、悪ではないのか!」


 最初分からなかったが、城壁前で屯していた人間は全員両手をからめ、祈っていた。

 そのことと、あの人の世と神の世の境界線があるあの場所と、城内に入ってすぐあった協会染みたあの場所は、信徒達の必要としていた場所だった。

 俺個人としては宗教を好かない。

 だが、それを否定する気などサラサラないし、それを奪おうとも思わない。

 しかしこいつは、それを奪ったのだ。


「何が勇者の安全! 何が打倒魔王! 魔王以前に俺すら打倒することも叶わぬ勇者の為に失われていい民の命なぞ、この世には一つたりとも存在しないのだ!」


 俺は言う。訴える。

 しかし、王の言葉は無情だった。


「……それで? 貴様は国を解放しろと? しかしそれで勇者が殺されたらどうする? 魔王を倒す手は無くなるだろう」


「ハッ! 軍に勝てぬ相手に個で勝とうなぞ、夢物語だと何故分からない!」


「聖剣が必要なのだ。魔王を倒すにはな。だが、聖剣は勇者にしか使えぬ。再召喚を行うにしても、後50年は必要となってくるのだ」


 ふむ、成程?

 良く分らないが、聖剣というのは魔王にとっての吸血鬼で言う釘であり狼男でいう銀弾ってことか。

 吸血鬼を殺すのには有り得ない程の労力。

 具体的に言うのであれば日が沈んでから再び日が上がるまでの間ずっと死闘を繰り広げるといったことが必要になったが、太陽の光という別の弱点もちゃんとあった。

 狼男の場合は吸血鬼より楽だ。

 別に不老不死では無かったし、四枝を捥ぎ、心臓を貫けばちゃんと死んだ。


 つまり、弱点は弱点でしかない。

 他の攻撃が効かぬなぞ、有り得ないだろうて。


 再召喚に50年の月日が必要なのに関しては、改良しろとしか言い様はないが。

 俺は結城と二人の女児を一瞥した後に、思い浮かぶ。

 ハッタリだが、あながち間違いでもなさそうな事実を。



「安心しろ愚昧なる王よ。勇者は、そこに居る3人と優人だけではない。ここに、5人目の勇者が存在し得ているのだから!」



 その台詞に、周囲はざわめき出す。

 まさかの勇者追加。

 だが、それと同時に全員が思い出すのだ、俺の容姿が4人の勇者に近く、名前の法則性すら類似していることに。


「まさか、貴様が勇者だと?」


「力の証明は終えた。違うか?」


「……それを今、公表した理由は何だ。まさか例え4人が死のうとも俺が居るから大丈夫だ、なんて言う為ではあるまい? 何が目的だ。何を欲する」


 ……いや、最初に言った言葉で合ってるんだが。

 ただ、この場でそれを言うのは頂けない。王がそうでは無いと言っている以上、何の目的も無く公表したとなれば信憑性は薄れるだろう。

 となればどうするか。


 その答えは、長考するまでも無く出た。



「俺の目的を知りたいか。ならば教えよう」


 俺はそう言い、大仰に宣言する。





「魔王を殺し、役目を終えた聖剣を、寄越せ」


 Q.久遠さんが脚本通りに動かず、暴力に走ってしまいます。さて、どうすれば良いでしょう。

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