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111Affronta  作者: 白米
第二部 Mondiale del RPG Eroe
21/73

021 謁見と隅の勇者様







 見えない鎖に捕縛された俺は、王の前へと突き出された。


 左右に一人ずつ居る兵士の持つ槍により、強制的に頭を下げさせられ、無様に膝をつき、どうするかと頭を廻らせ考えるばかりである。

 ベルンハルドは地下牢へと連行されたらしく、謁見の間にその姿は無い。

 王の顔は見えないが、周囲に多くの兵士が居る事だけは分かった。

 王の前であるが故、ざわめきは一切ないにせよ、隠す気の無い人の気配と此方を見る視線が嫌と言う程伝わってくる。

 結城と、先程の女児の姿を発見した。

 そして、もう一人。同じく日本人顔の女児。

 恐らくはアレが最後の勇者であろうが、何とも覇気のない。

 俺を捕縛した女児の後ろへ隠れ、俺を覗き見る事しか出来ていないようである。


 ……優人は何処だ。

 あの辺で勇者がクソくだらねー自分達の世界を創りだしているというのに、優人の姿だけが無い。

 俺に手を貸したからか? ……ハハ、優人もか。



 …………どうしてくれようか、忌々しき愚者共よ。


 最早この国が今のまま存在することなど決して許さぬ。

 壊し、砕き、殺し切ろう。

 この場にいる人間共全員を皆殺しにし、誰の友に害を無し、誰に膝を突かせているのか。


 思い知らされてやらねばならない。


 自分の足で着いてきたことにより、武器の没収は行われていない。

 その辺は完全にアチラ側のミスだ。欲を言えば黒剣ではなく普通の長剣を欲したいところだが、そんな物が無くとも、この国は滅ぼせよう。

 俺は、千壌土。千壌土 久遠なのだから。


「面を上げよ、俗人」


 槍による拘束が解かれ、従うのは癪だったが取り敢えずは言葉に従って顔を上げる。

 俺の視界へと入って来た王は、醜かった。


 肥えている訳では無い。

 顔が崩れすぎている訳でも無い。


 ただ、どうしようもなく醜い男の姿がそこにあり、俺の中に殺意が湧きあがる。

 町はあんなにも綺麗だったというのに、その国を統べるこいつは何だ。


 豚でもまだ、美しい。


 俺の殺意が、周囲に漏れ出した瞬間、目に見えぬ何かが俺を拘束した。


「変な動きをすることは不可能よ。私は魔力自体を自由自在に動かせる。下手なマネしたら、直接魔弾を打ち込むわ」


「…………『まりょく』だぁ……?」


 恐らくは、まぐの仲間であろうその言葉を、俺は小声で復唱する。

 女児の言動から察するに、それはまぐの燃料となっているものであろうそれを、燃料のまま扱える、というところだろうが、コレは黒剣の生み出した炎とは程遠い。

 物理的に、有り得ないであろうコレは……。

 

 ……気功? いや、違う。

 まりょく……だったか、コレは使えるな。


 そして、さっきの直感がこのまりょくとやらに対するものであったことは理解出来た。

 成程な、女児の口調から察するに、殺傷能力の高い技であるのだろう。



「勇者よ、王の前である。勝手な行動は慎みたまえ」


「……分かったわ」


 俺を拘束していたまりょくとやらが説かれ、動かなかった身体が急に動けるようになり、若干バランスを崩しながらも、すぐに持ち直す。

 女児が行動しなければ、王の首と体は離れていたであろうに、状況判断能力の乏しいであろう人間、大臣辺りの地位に座る人間の言葉により、女児は不機嫌そうに技を解き、俺は再び、王へと目を向けた。


「お主達の目的は、勇者より聞いている。神に会ったそうだな?」


「……肯定する。その情報は優人によるものか?」


「口を慎め! 質問しているのは陛下である!」


 ……五月蠅ぇな。

 俺の半分位しか生きて無かろう若造が、俺に指図するとは。


「どのようにして会った」


「人の世と神の世の境界線。そこで神ですら聞き惚れる歌を披露した。それだけのこと」


「ほぉ、では『唄の儀』と同じ事を聖域の奥深くで行う。そう言う事か?」


 唄の儀……恐らくはギフトを受け取る際に必要な歌を捧げる行為のことをそう呼んでいるのだろう。

 アレはドミニカの歌であったからこそ神が反応したのだ。


「歌で神を魅了できなくば意味なぞ無い。あれは(ドミニカレプリカ)であったから出来たのだ」


 周囲がざわめく。

 俺の言動はつまり、神を魅了する歌を歌えるということを意味している。

 戯言と一蹴したいところなんだろうが、拷問による取り調べでないところを見ると、眉唾であるとは思えないようである。

 これで、優人の証言から俺がこの場にいることは確定した。

 勇者の、あれほどの善人の言葉を、嘘偽りと一蹴出来る人間は少なかろうな。

 まあ、この城内に限り、だろうが。


「ほぉ、成程な」


 王の目が、俺を品定めする様に眺める。

 無様な様を晒した訳では無いから、身なりは綺麗だ。

 袴という民族衣装を身に纏っているとはいえども、醜い囚人よりは幾分好印象を与えていることだろう。

 後は、俺が弱者に見えるのか、兵士共の気は緩みまくっている。

 黒剣は、持ち物検査もされなかった鞄の中に納まっている。

 ……王も兵士も、自分達の命を捨てているのか?


「では、その歌をここで歌って見せよ」


「……は?」


「その歌によっては、貴様の罪を許そう」


 ……成程な。

 優人は恐らく、監禁まではいかずとも、軟禁されている。

 そして、そんな状況下で大人しくしているのは俺が助かる可能性を結城辺りが提示したせいであろう。

 その可能性とは恐らく、俺の歌。

 正直、ドミニカの歌はそこまで頻繁に公開したいと感じられる物では無い。

 オリジナルであったドミニカ自身が舞台に出なんだのに、レプリカである俺が目立つなぞ、言語道断。

 というか、恐れ多くあるのだ。

 ドミニカの歌を、俺が歌うのは。


 しかし、今は。


「許す罪は俺のじゃない。ベルンハルドのだ」


「貴様! 陛下に向かって……!」


「ベルンハルド? 誰だそやつは」


「お、おぉふ。……俗人と共に城内へ侵入した者のことです」


 言葉を遮られ、調子を崩した大臣が言う。

 恐らく優人はそもそも罪に問われはしないだろう。

 監禁ではなく軟禁である可能性の高い現状が、その証拠だ。


「ふむ、まあ良かろう」



 ありがたき幸せ、とでも言おうかい? なんて、俺が皮肉交じりに言った後、一度咳払いをする。

 これはある意味、好機である。

 ベルンハルドの罪が消え、不本意ながらもドミニカの歌が表舞台を歩き出す。

 眼前には、曲がりなりにも王がいる。

 これ以上の上客は中々望めたものではない。

 俺に愛が分かるなら、愛するその人が俺にとってただ一人の上客となってくれるのだろうが、残念ながら俺にはそんな感情を理解出来る器官は無い。

 ならば打算的に考えられた客で、我慢するしかなかろうて。

 深呼吸。吸って、吐いて。




「レディィィィィィス! アァァァンド! ジェントルメェェェェェェン! さあさあ皆様方、模造品にして、複製品にして、レプリカにして、偽物な、千壌土 久遠によるドミニカオリジナルのコンサートの始まりだぁ!」


 全員、唖然。圧倒。

 唐突、突然な俺の大声にして理解不能であろう言動に、周囲の人間は言葉を紡ぐ事も出来ずに圧倒されながら、唖然としていた。


「今宵、聖歌をも超える唄を披露せしめるのはわたくしこと千壌土 久遠などでは決してなく、本物にして、至極にして、オリジナルとは程遠くも、歌手ドミニカの披露宴である事をご理解下さい!」


 一拍。

 今宵は声だけじゃない。

 雰囲気も、気配も、仕草も、全てドミニカになるのだ。

 レプリカなどとは言わせない。

 ドミニカ本人の歌の凄さをこいつらに効かせる様に。


 急に雰囲気の変わった俺に、何人気付いただろうか。

 (ドミニカ)は歌いだした。

 ドミニカとしての俺が、神の前で歌った歌では芸が無いという。

 だが、望まれているのは戦の神に披露した歌。

 歌は、誰かに望まれてこそ輝くのだというのは、ドミニカの言葉だった。

 ドミニカでありながら久遠である俺は、ドミニカの意思では無くドミニカの教えに従って、詩を、音を紡ぐ。


 久遠としての俺が思うのは、ここまで頻繁に歌を披露していると、昔電気屋のテレビで流れていた女児向けの歌を武器に戦う女戦士のようだな。なんていう下らない事ばかりだ。

 唄を神聖視することを余儀なくされているであろうこの国の宗教観の中にいる以上は仕方が無いのであろうが、ドミニカの歌がそれに利用されたらたまらないな、と思う。


 歌詞は明らかこの国の言語ではないし、歌詞の内容がアチラさんに伝わっている可能性は皆無だが、それでも歌は伝わるのだ。

 それが歌が歌である所以なのだから。



 歌い終わった俺に待っていたのは、先程以上の静寂だった。

 拍手も無しか、と俺は思う。

 だが、ドミニカの歌に全員が圧倒されたのは明らかだった。

 最初の俺の言動なぞは、記憶から吹っ飛ぶ程の迫力が、ドミニカの歌にはある。

 楽器要らずのリズム感に、マイク要らずの声量。

 その両方が揃えば更に際立ったりもするのだが、ドミニカの歌はそれらすらも付属品にしてしまう。


「……スゲェ」


 最初に声を発したのは結城だった。

 その言葉で、風船が割れた様に全員が我に返り、全員が俺へと視線を注ぐ。

 ほら、ドミニカの歌は何処の国であろうとも評価を得られる。


 クラッシックと同じだ。

 俺は玉座に座る王を見据える。ドミニカの歌に圧倒された王は、未だ夢心地といった風である。

 しっかりと意識を保つのには、それから数秒後、大臣が王に声を掛けるまで時間が掛かった。

 大臣が話し掛けていなければ、未だ意識を保てていなかったであろう王は言う。


「見事だ。約束通り、ベルンハルドとやらを許そう」


「ハッ! おい! 地下牢の男を城外へ出してやれ!」


 王の言葉に大臣が反応し、大臣の言葉に脇で立っていた兵士の何人かが謁見の間を後にし、ベルンハルドの釈放へと向かった。

 ふむ、どうやら優人の自白から大体の状況を理解し、ベルンハルドを捨て置いても問題ないことを知りえているようだな。

 バイロンの毒牙に掛かる前に助けられていると良いのだが、その辺はどうしようもない。


「クオン、と申したな」


「?」


 宿屋の女将より発音が良いのは、優人達の名前を呼ぶ機会があるからだろう。

 それはさて置き、王の声色に浮つきが感じられる。

 取り敢えず、罪人に向ける声色でないことは確かなのだ。


「貴様に、この国でその歌を広めることを許す」


 ……は?


「以後この国の為よく働くように」


 何を言っているのだ? こいつは。

 命令口調にして決定系。

 この国でドミニカの歌を広める等と、誰が言った? 言わなかったか? 今宵歌うのはドミニカだと。

 もうこの世にいない、ドミニカなのだと。


 ……クハハ。



「残念ですが、それは無理な相談です」


「何?」




「何故ならこれから、ドミニカではない千壌土 久遠によるエンターティナーが始まるのだから」



 俺は、鞄を切り裂きながらに黒剣を抜刀し、玉座へ向かって走り出した。

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