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111Affronta  作者: 白米
第二部 Mondiale del RPG Eroe
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014 失敗は敗因の友

 城への道のりは、徒歩で歩くには遠い。

 俺は時間短縮の為、走ることを提案したが、重い鎧を身に纏うベルンハルドに敢え無く却下。

 若い者がそんなことではいかんぞと折檻してみたところ、お前は俺の爺さんかってツッコミを入れられた。

 仕方が無いので、歩きながらベルンハルドにアニェッラを意識させるよう近く遠い内容の言葉でベルンハルドの心を揺さぶる。

 マインドコントロールじゃあるまいし、ベルンハルドに微塵も好意が無かった場合には完全脈無し状態となるのだが、見た感じそんな事は無く安堵のため息を漏らす。


 完全に脈無しではないが、こいつ鈍すぎだろ。

 美味い酒と飯にしか興味持っていやがらない。


 ……俺は違うぞ、戦いや強くなることにもちゃんと興味がある。



「着いたな」


「着いた。って言ってもまだ城門前だろう」


 城に到着するまでに、『あれ、ひょっとして俺、アニェッラのこと好きなんじゃね?』と意識させることには成功したから、次はアニェッラが高嶺の花であり、早くしなければ他の奴に取られてしまうことを分からせよう。

 ベルンハルドの性格上、思い立ったが吉日が如く周囲の人間に形だけの相談後、すぐに告白へ乗り出すことだろう。


 前に、お前の話術は何なんだよ、と問われたことがあった。

 今の様に、お節介なこと甚だしい行為を行ったことは数知れない。

 その内の何回かに聞かれたことなのだが、俺からしてみればその質問自体が意味不明だ。

 俺はあくまで、背中を押したに過ぎない。


 変わらない結末を早め、得られる筈だった幸せの時間を長くしているだけ。

 恋を知り得なかった老害の、若者達への手助けに過ぎないのだ。


「さて、こっからが正念場だぞ」


「門が閉じてるな」


「前までは開いてた。やっぱ勇者が居ることで警備が厳重になってんな」


「ふむ、どうする?」


 城門が常時開放されてるって、セキリュティも何もあったものではないが、取り敢えず今は閉じている。

 兵士も門の前に立っているし、近寄るなオーラが漂っている。

 ただ、城壁の周辺には何かを祈るような人間が数人。

 あれは……。


「まあいざとなったら、無断で入って無断で使わせてもらうより他ないか」


「……流石に、今の俺では、堀のある城壁を走り切ることは不可能だぞ?」


「いやそこは縄を使えよ。それにそれが駄目でも、まだ手段はある」


「……?」


「まあその辺は俺に任せとけって。んじゃあ取り敢えず当たって砕け散ろうぜ、お前は頭にこれ巻いて」


 そう言って渡されたのは、ターバンだろうか。

 ベルンハルドはのっしのっしと先へ進み始め、俺は渡された白い布を怪しさを最高まで跳ね上げる様な顔を全体的に隠す巻き方をして、ベルンハルドの後を追う。

 城門前まで行き付くと、兵士達の槍に遮られた。


「止まれ。ここは王の住まう宮殿だ。用無き者は立ち去られよ」


「コイツのギフトを受け取りに来た」


「ん? その者は何故顔を隠しているのだ?」


「は? ……うお!? こえぇなオイ!」


「そうです、貴方達を怖がらせぬよう布を巻いております」


 ベルンハルドは、は? と俺の言動に訳が分からないといった顔でこちらを見ている。

 おい、ポーカーフェイスを保てよ。

 バレてしまうだろう。


「怖がらせぬよう……とはどういう意味だ?」


「はい、私はここ数年ずっと眠りに着いておりました。その要因となったのは、村で起こった火事に御座います。私はその火事のショックで時間を、その炎で顔を失ってしまいました」


「と、するとその布の奥は……」


「鼻は無く、皮膚は剥がれ、歯も剥き出し。片目は見えぬ眼球が目蓋無き目に収まっております。とてもお見せできるようなものでは御座いません」


「それは……」


「長年眠っていたせいで、立つこともままならなかった筋力を数年のリハビリで歩けるまでに戻し、若きし頃捧げること叶わなかった歌を、戦神様に捧げる為、この町へ参った次第であります」


「そうであったか」


「それ故、同郷の子であった彼に付き添って貰い、この城まで辿り着いたのです。どうか戦神様にお目通り叶いませんでしょうか?」


「……分かった、上と掛け合ってみよう。ここに居ては周囲の人間より攻撃を受ける可能性がある、そこの建物の影でお待ち願いたい」


「分かりました。ベルンハルド、行こう」


「お、おう?」


 俺は未だ状況の読めぬベルンハルドを引き連れ、兵士の言う建物の影まで行く。

 ベルンハルドは溢れだしたであろう疑問を、口をパクパクさせて伝えようと頑張っているが、声にはなっていないから分からない。

 俺は溜息をついて「落ち着け」とベルンハルドに言い、ベルンハルドは深呼吸をすると、周囲の目を気にしてか小声で言う。



「……さっきのあれはなんだよ」


「む? 演技させる為にコレを渡したのだろう? 何の理由も無く10歳以後にギフトを受け取りに来ることはおかしいから」


 その為に布を渡してきたのではないのか?

 だから俺は出来るだけ肌を見せぬ形で、右目だけ外に晒しているのだが。

 コレ結構暑いのだぞ。


「いや、俺は単純に髪を隠そうと思っただけなんだが……」


 髪?


「どういうことだ?」


「まあ気にすんな。つかその嘘、ばれたらどうすんだよ」


「ベルンハルドがミスをしなければ問題無い。例え布を解くことを強要されたとしても、逃れる術、誤魔化す術はある」


「……つーか嘘吐く事前提っておかしくね?」


「お前が言いだしたのではないか、いざとなれば無断で使用すると。だが無断で使わない努力も必要だろう?」



 素の俺の場合、単なる怪しい人物に過ぎない。

 出身地が何処にあるか分からず、15歳になっても未だ歌を捧げ終えていない、特殊な民族衣装を身に纏う少年。

 例え先程のカードで身分証明したとしても、その点を拭えるとは思えない。

 俺とベルンハルドはある程度の打ち合わせ後、他人に立ち聞きされる可能性を防止する為無言で兵士を待った。


 そして、一時間を要して兵士が戻ってきたが、その顔は暗い。


「……すまない、怪しい人物を王宮へ入れることは許さぬと、言われてしまった」


「なっ……!」


「ベルンハルド」


 俺は目で、黙っていろと言う。


「それは私がギフトを受け取ることは叶わないということでしょうか?」


 この醜い容姿のせいで。

 兵士の耳にはそう聞こえた事だろう。

 憎らしげに顔の布を握る俺に、兵士は言う。


「そんな事は無い! 神は平等なのだ。……ただ、半年から一年。……それ位待って貰うことになる」


「それは何故、ですか?」


「勇者の旅立ちがその位だろうと言われている。先程の口振りからお前は荷に隠れて入国したのだろう? その頃には条例も取り消される。そうなれば身元もハッキリとする。そうすれば上も何も言えないだろう」


「そうですか……今は待つしかない、ということですね」


「すまないな」


「いえ、行こうベルンハルド」


「お、おう」


 申し訳なさげに頭を落とす兵士を後目に、俺とベルンハルドはその場を去り、一度アニェッラの居る組合まで退散した。

 無論、場所のチョイスは俺であり、ベルンハルドは酒場を所望していたが、あの場所は人目が多すぎると言うと、納得したようだった。

 組合へ来る途中、建物の陰で白い布は外し、ベルンハルドに返した。

 蒸された顔の汗を拭った時は、サウナ後の様だと思った。


 組合まで戻ると、アニェッラに頼み、相談に適した部屋まで案内して貰った。

 先程、カードを作った部屋とは違う小さな相談室のような場所だったが、三人で話し合うには十分な広さだった。



「その顔だと、駄目だったようね」


「あぁ……折角クオの名演技が炸裂してたってのに」


「名演技かはさて置き、アレは設定が悪かった可能性もある。明日今度は素顔を晒して別の設定を考えるのも手かもしれない」


 幸いにも、今日は身分証明にもなるらしいカードを見せてはいないし、声も布のお蔭で変わっていただろう。

 この目立つ服装さえなんとかすれば、もう一度位チャレンジは可能だ。

 ……ただ、それでも機会を待てと言われる可能性は高い。


「演技って……何かしたの?」


「あぁ、クオがな。敬語を駆使し、可哀想な少年を演じたんだが……」


「駄目だったのね。同情を誘って駄目だったのなら、正攻法じゃ駄目でしょうね」


 ふむ、アニェッラの見解では俺の再チャレンジは無駄、か。

 この町に住む人間の考えなら、恐らくはその通りなのだろう。

 と、なるとだ。

 俺は一人頭を悩ませているベルンハルドの方に向き直る。



「ベルンハルド。お前、何か案があるんじゃなかったか」



「あっ」


 ベルンハルドは、俺の言葉に思い出したように手のひらへ拳を落とす。

 そして、ニヤニヤとした顔付きで此方を見た後、アニェッラに何か耳打ちした。

 するとアニェッラまでもが怪しい笑みを浮かべ、此方を見る。

 俺は激しく嫌な予感を感じた。

 こういう顔をして此方をみる奴は大抵ロクなことを考えていないのだ。


 ただ、現状逃げる訳にも行かない俺は、そんな二人の怪しい笑みに対し、嫌な汗を掻くことしか出来ないのだが。


「おい、何を企んでいる」


「おいおい、企むだなんて人聞きが悪い。なぁアニェッラ?」


「えぇ、そうねベルンハルド。心外過ぎて貴方という愚鈍な筋肉ダルマに同意してしまったわ」


「罵倒される筋合いはねえが、マジに何も企んでねぇよ」


「じゃあ何故耳打ちという手を取った。その内容を俺にも教えろ」


「いや、単に最近一緒に飲んでねぇから夜にでも二人で一緒に飲もうって話しだ。なあ?」


「え!? え、えぇそうね。そうだった気もするわ」


「ほほぅ……ならもし今日二人で飲んでいなかったら、ベルンハルド、お前は俺に片耳を献上ということでよろしいか?」


 恐らくそれは、絶対的に耳打ちの内容とは違うだろう。

 だが俺は、ベルンハルドの口から出た出任せを利用する。

 主に、二人の関係進展に。


「お!? お、おう……勿論だ。だろ? アニェッラ」


「え? 私はまだOKしてないわ」


「て、テメェ……」


「でも、ベルンハルドがどうしてもって言うなら、考えてあげないことも、ないわ」


「お、おう? じゃあ……頼むわ」


「えぇ……わ、分かったわ。仕方なないわね……」


 まるでままごとだな。

 俺はそんな二人を見て思う。

 高々共に酒を交わしに行く約束しただけでもこんな甘ったるい世界を創りだすとは。

 まあ、そんな二人だからこそ俺は応援している訳なんだがな。


 ただ俺が手助けすると展開が速すぎて、傍から見るとどうしてそうなったってことになることが多々あるんだよな。

 他人の事なんかで手を緩めるなんてしない俺だが、その辺に物語性が足りないと思う訳だよ。

 有る筈だった過程すっ飛ばしてる訳だから、仕方が無いと言えばその通りなんだがな。


「クク、それで、話を元に戻したいんだが?」


「お、おう」

「そ、そうね」


 やれやれだ。

 さて、話を元に戻すわけだが、どういう話だったか。

 確か、ベルンハルドとアニェッラが耳打ちして…………それで、そこから俺が話を脱線させた訳だから……。

 えぇと。

 つまり、俺絵は二人の耳打ちした内容を言及することは叶わなくなった訳で。


「クオ、次は俺の作戦で動いてくれよ」


「む」


「絶対、成功するからよ」


 ニヤリ。

 なんて、ベルンハルドとアニェッラの顔はおもちゃを見付けた子供の様に歪んでいた。


 拒否権、あるのだろうか。

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