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111Affronta  作者: 白米
第二部 Mondiale del RPG Eroe
12/73

012 若返りの証明談

「ちょ、お前歳幾つだ?」


「……さぁ?」


 俺の常識知らず発言に対し、ベルンハルドは慌てた様に言う。

 だが俺は、111歳ではないとすれば自分の年齢など分かりはしない。

 俺の容姿から観測する年齢程信用ならないものはない。

 元来日本人が童顔というのもあるが、それとは真逆に俺は若い頃から背が高かった。


「……お前、孤児って訳じゃないんだよな?」


「あぁ、違うな。家系的には武士になると思う」


 武家、が正しいがな。


「武士?」


「この国で言う騎士、だった筈だ」


 武士と騎士。

 その違いは結構大きなものであったが、他に説明のしようがない。

 家柄が関係してくる観点から、兵士よりは騎士よりかとも思うのだが。

 ただ、ある意味でいうのなら俺は千壌土家で最も武士らしい存在であったが。

 齢14歳で当時、現当主であった俺の父を圧倒した事実。

 最強、という観点から言えば。


「ん? 何だお前、ボンボンだったのか? 俺らと同種かと思ってたんだが」


「家に帰った回数は数えるほどしか無い。そもそも俺の住む国では騎士の位は廃れていた」


「ふーん、没落貴族みたいなもんか」


「そんなものだ。ただ違うとすれば、全ての家が没落したってところ位だ。一時、兵力は民兵のみで賄われていた」


 ただ、貴族様のように高貴な存在では無かったがな、なんて言って笑う。


「ほぉ、統制も何もあったもんじゃないな」


「全くだ。最終的には戦争に負け、武力放棄を強要されてしまったからな」


「……敗戦国の末路、か」




「…………」


「…………」


 静寂。


「話、逸れてるな」


「あぁ、何時から俺の母国についてになった」


 話の脱線の仕方が尋常じゃない。

 何で俺の年齢の話から打って変わり、国の歴史の勉強に早変わりしている。

 俺は別に、日本と言う国を憂いてはいなかったというのに。



「取り敢えず、お前年齢は分からないってことで良いのか?」


「あぁ、調べる方法があればいいんだがな。……しかし、それがレベルと何の関係がある?」


「あるぜ、調べる方法」


「本当か?」


「あぁ、ついて来いよ」


 ベルンハルドはそう言って、席を立つ。


「店主、すまない。酒はキャンセルだ。時間があれば今日の夜にでもまた来るからその時にでも」


「あぁ、分かった」


「おい、早く行くぞ」


 店主は若干残念そうに、酒瓶を戻しに行く。

 俺は多分、お前の何倍も残念なのだ、何事も無ければ絶対に来る。

 俺はベルンハルドに急かされながら店を出た。




 そして徒歩二分。


「ここだ」


 思いの外の近場で、会話が盛り上がる前に到着した目的地は、特権的同業者組合。

 ここはその中の、傭兵を生業とする人間の組合だった。

 扉を潜り、ベルンハルドは来慣れた風にカウンターの方へと進んでいく。

 中は、数人の男女が居るだけで、傭兵稼業に身を投じるような荒くれ者が闊歩する場所であるとは到底思えなかった。


「随分と寂しい所だな」


「あぁ、もっと早い時間なら仕事を探しに来た馬鹿共で賑わってるだろうが、この時間だとここは閑古鳥が鳴くな」


「仕事。傭兵稼業の仕事は、全てこの組合を通されるのか?」


「まあほぼな。加盟者が組合を通されていない仕事をこなすことは重大なルール違反とされてるし。便利だぜ? 依頼料は組合に前払いだから依頼人に報酬チョロまかされる心配も無い」


「ふむ」


「失敗すると違約金。依頼料+10%を依頼主に支払わなきゃならねぇ。回収した依頼料は組合が没収するんだ」


「成程、無能な傭兵ばかりの所は組合がぼろ儲け出来ると」


「あぁ、違約金てのは受ける依頼によってはちと高すぎる。この制度が無く無りゃ、傭兵も増えると思うんだがな」


 いや、それはどうだろうか。

 違約金の有り無しに関わらず、仕事の内容によって向き不向きは出てくる。

 そもそも失敗の心配をしている小心者じゃ傭兵はやってけないんじゃないか?


 中には、失敗=死亡ということもありそうだしな。


「ベルンハルド、そう言う事を私達の眼前で言うというのはアレかしら? 喧嘩を売っているのかしら?」


「……アニェッラ、受付がそんなんでいいと思ってんのか? 見ろ、新人が引いてるじゃねぇか」


「仲が良いな。ベルンハルド」


「……何処がだ?」


 自分で言うのもなんだが、俺はかなり敏感だ。

 どの位敏感かというと、アッボンディオを始めとした279人の友人から『お前はエスパーか!』と指摘を受ける程に。

 俺は色々な人と出会い、話して来たせいか、他人がどう思っているか、察することは容易いのだ。

 だから、アニェッラという女性がベルンハルドを好いていることを知ることも容易い。

 出会い頭で誰が誰を好きか、なんていう俺とは無縁過ぎる桃色なことを平然と当てることが出来るのだ。

 客観視できるといってもいいかもしれない。

 エウフラージアは……若いせいか、決めかねているせいか、良く分らなかったが。

 でも、気になる男は居るみたいなんだよな。

 もし特定出来たら手伝ってやろう。


 まあ、今回に関しては気性の荒いベルンハルドへ、一見火に油とも呼べるアニェッラに受付させる時点で、周囲の人間の気遣いが見受けられる時点で俺じゃなくても分かるだろう。

 ただ、残念なことにベルンハルドは俺と同種の人間らしく、色恋に興味は薄そうだ。

 花より団子。

 こんな美人に好かれながら気付けないとは。


「ベルンハルド、お前はユニコーンに刺されて死ねば良いと思う」


「酷くね?」


 酷くないぞ。

 というか、お前らの接し方から見るに長い付き合いなんだろ。

 気付いてやれよ、他人に横から掠め取られる前に。


「……それでベルンハルド。今日はどんなご用件なのかしら? こんな時間まで惰眠を貪っていた分際で仕事にありつけるだなんて思ってはいないでしょう?」


「ん? おぉコイツの登録にな……って何で今まで寝てたとか分かんだよ」


「口元、涎を拭きなさい」


「……クッ、クオテメェ。知ってただろ!」


「ベルンハルド、お前はワイバーンに焼かれて死ねば良いと思う」


「酷くね?」


 酷くないぞ。

 まあベルンハルドの色恋には今後へ期待といった感じだが、それよりも気になることがある。


「ベルンハルド、俺がと登録とはどう言う事だ? 俺は何処にも属する気は無いぞ」


 団体に属して良い事があった試しがないのだ。

 軍隊は当然として、宗教団体なんてのにも一回入ったっけな。

 苦しむ人間を更に苦しめる様な団体だった。

 それを知った瞬間に壊滅させたけど。

 その後、その被害者達でクオン教とか意味不明な宗教が生まれてた気もするが、多分気のせいだ。

 教祖……アレは見た目だけの女だったな。


 人に教えを説く立場に身を置きながら、俺という人間を微塵も理解出来ていなかったからな。


 他にも、レジスタンスだとかゲリラだとかロケット団だとか。


 正直、散々な目に会った記憶しかない。


「ま、そう言うなって。入るのは無料だし、銀貨一枚で簡単に抜ける事も出来る」


「…………」


「どうしてもってんなら、俺が銀貨一枚やるからよ。な」


「何故俺が駄々っ子のような扱いを受けているのか問い正したいところだが……必要なことなんだな?」


「おう」


「分かった。受付、アニェッラといったか。登録を頼む」


「かしこまりました。では奥へどうぞ」


「アニェッラテメェ! 何でクオにはしっかりしてんだよ!」


「黙りなさい単細胞。アンタは留守番してなさい」


「おい! ……クオも何とかいってくれ!」


「ベルンハルド、お前はペガサスに天空より落とされ、内臓破裂させるんだ」


「酷くね?」


 酷くないぞ。



 さて置き、敢えてアニェッラの言葉に逆らうように、ベルンハルドは奥へ向かう俺達に着いてきた。

 アニェッラはベルンハルドの性格を見越してあのような態度を取ったのだろうが、本人はまるで気づいていない。

 今度ベルンハルドにアニェッラへ告白しなきゃ駄目だと思わせる暗示でもかけるか。

 まあ今後の進展に関しては完全に二人任せとなる訳だが。


 奥の部屋。

 そこはなんというか儀式めいた雰囲気を持つ部屋だったが、中はなんてことない組合の部屋だった。

 カウンターで線引きされ、椅子が一つずつ。

 アニェッラとベルンハルドはカウンターの奥へ行き、俺は目前の椅子へ腰掛ける。


「ベルンハルド、貴方は彼の方へ行きなさいよ暑苦しい」


「あぁ? 結果が逸早くわかんのはこっちなんだから別に良いだろ」


「……。クオ君でしたか、この用紙に母国語で名前を記入し、血をこちらに置いてください」


 何も言わなくなったな。


「血?」


「はい、清潔な針はこちらでご用意しております」


 俺はアニェッラに言われるがまま用紙へ宿屋で書いた時と同様に『千壌土 久遠』と達筆に書いた後、アニェッラが差し出してきた針は受け取らず、自分の爪で皮膚を切り裂き、血を置く。


「お、カッケェ。俺も今度する時はそうやるか」


「ベルンハルドには無理よ。馬鹿だもの」


「ンだと!? 何なら今ここでやってみせてやろうか!」


「止めてよ、私の服にベルンハルドの血が付くじゃない」


 俺は孫と嫁の痴話喧嘩を微笑ましそうに見守る祖父の顔で、肩肘をカウンターに置きながら二人を眺め、二人の世界から帰ってくるのを待つ。

 やれやれ、ベルンハルド位の歳でようやく、居たとしたら俺の孫位の年齢か。

 歳を取ったものだ。


 ……若返ってしまったが。






「……クオ、孫を見るじいちゃんの様な目で俺達を見るのを止めないか」


「あっ。申し訳ございません、今すぐ次の工程へ入ります」


 二人が戻って来るのには五分と掛からなかったが、その間ずっと言い争いをしていた二人に、俺は笑みを贈り続けていたら、二人はそんな俺の様子で我に返ったらしかった。


 アニェッラは、用紙を小さくたたむと、横にあった四角い何かへ、それを“食わせると”箱が何かを読み込んだように動き出した。



「それにしても二人は仲が良いな」


「あ? ンなことないだろ。幼馴染でな、まあ腐れ縁だ」


「ほう」


「こいつ……俺が村出る時に着いてきて何時の間にか組合の受付やってやがんだ。まったく、何がしたいのやら」


「……ベルンハルドには関係の無い事よ」


「へいへい」


 ……おいおい。

 鈍い、ナマクラにも程があるぞベルンハルドの感性よ。


 まあ、何も言うまい。


 それからすぐ、箱の動きが止まった。

 そして箱から先程の用紙を取り出すと折りたたまれた用紙を開く。

 すると、用紙は炙り出しの様に燃えながら、紙に火がついたように焼けて行き、最終的に一枚のプレートが残った。

 手品か?

 手品なら俺も出来るぞ。

 トランプがあればそれで人を切り裂くとか。



「……若いな。でも過ぎてはいるな」


「この歳でアレを受けていないのね。じゃあ彼、次はあそこへ行くのかしら?」


「おう」


「……流石に、本人の与り知らぬところで話を進めるのは勘弁して欲しいのだが?」


 俺は登録した意味すら分からないというのに。


「失礼しました。此方が、貴方のカードになります」


 受け取ったプレートの材質は不明だった。

 手触りはプラスチックに近くもあるが、プラスチックではない。

 何だろうと裏表交互に見ていて、表に書かれたプレートの模様として見ていたそれが文字である事に気付く。




 千壌土 久遠 15歳

 職業:傭兵 Lv




「……15歳?」


 若い。

 111年という歳月は無かったことにされている。

 まあ、この容姿で111歳であった場合の方が大変なことになるだろうから、それは良い。

 職業傭兵というのも、今さっき、というか現在進行形で登録していたのだろうと納得できる。

 だが、『Lv』ってのは何だ?


「お前をここに連れて来たのは年齢を知るためだ。そして、これから行くところが出来たぞ」


「何処だ?」


「城」


「は?」


「城だ。この国で一番偉い、王様の居る城へ行くんだよ」


 どうやら疑問の解消は、もう少し先になるようだった。

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