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俺がアイツでいる理由。  作者: 高瀬 悠
終章 君が想う聖魔騎士
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終章、君が想う聖魔騎士【終】


 ──馬車で、カイルはラフグレ医師とともに墓地へと辿り着いた。

 ラフグレ医師が手を貸そうとしたが、カイルは一人で行きたかった。

 馬車の中で待つよう指示して、エリから預かった魔剣を手に馬車から降りる。

 大きく深呼吸して、腹の痛みを頭から振り払う。

 そしてなるべく平静を装って、カイルは自分の名が刻まれた墓標まで普段通りの足取りで歩いていった。



 ※



 青く澄み渡る空の下。

 墓標の前に佇む、白いワンピースを着たエリの後ろ姿。風になびく長い髪を手で押さえている。

 傍まで近づいて、カイルはエリに声を掛けた。

「エリ……」

 するとエリは泣きそうな顔で振り返り、カイルに抱きついてきた。

「約束、守ってくれたんですね」

 カイルは頷く。

「あぁ。預かっていた魔剣、ちゃんと返しに来たからな」

 離れるエリ。

 カイルはエリに魔剣を差し出した。

「この『お守り』が俺の命を救ってくれた。ありがとう、エリ。すごく助かったよ」

 エリはカイルの顔を見つめた後、差し出された魔剣へと視線を落とした。

 ゆっくりとその魔剣に手を差し伸べる。

 しかし何を思ったか、ぴたりとその手が宙で止まった。

「どうした? エリ」

 訊ねると、エリはカイルの顔を見つめ、

「私と一緒に、故郷へ帰ってはくださらないのですか? カイル・・・

 その問い掛けに、カイルは静かに目を伏せた。

「ごめんな、エリ。俺に会えるのは今日で最後なんだ」

「──え?」

「エリとの約束、まだ守ってなかったからさ。知らない奴の体を借りて今まで生きていたんだ。

 ずっと言い出せなくて……ごめん」

「そんな、せっかく会えたのに」

「もうこれ以上、俺との約束に縛られてほしくなかったんだ」

 エリは激しく首を横に振って否定する。

「そんなことありません。私──」

「きっとこれから、俺よりももっと良い男がエリの前に現れるだろう。俺を忘れろとは言わない。けど、ちゃんと前を見て生きていてほしいんだ」

「嫌です! 私はあなたの傍に──共に生きていたいのです! 幼き頃からずっとあなたのことをしたい、想っておりました。あなたと一緒になれることを夢見て、この瞬間を待っていたのです」

 カイルは拳を握り締めると、懇願の思いで叫んだ。

「頼むから、もうこれ以上過去に縛られるのはやめてくれ!」

 エリの動きが止まった。

 カイルはエリに近づき、真っ向から強く抱き締める。

「俺はもう死んだんだ、エリ。もうすぐ俺はこの世から消えてなくなる。それなのにお前がこんな状態だったら、俺はどうすればいい?」

「カイル……」

「支えてやりたい。傍にいて守ってやりたい。だけどもう二度と、こうして触れることも話すことも抱き締めてやることも全部、何もかもできなくなってしまうんだぞ?」

 彼女の柔らかな長い髪も、花のように優しい香りも、華奢なこの体も、触れているこの感触も、温もりも、可憐な声も全部、記憶から消される。

「俺を想うことが苦痛なら、今までのことを全部忘れてくれてもいい」

「嫌です!」

「だったら、俺の分まで幸せになるって、これからを笑って生きてみせるって、そう約束してくれ」

 約束させないと、エリはずっとここに居続けるだろう。黒い喪服に身を包んだ、あの姿のままで。

「頼む、エリ……」

 わずかに残された時間。最後の最期まで、結局人を傷つけた人生で終わってしまった。

「俺とそう約束してくれ……」


 やがて、エリは小さく頷きを返した。


 エリをそっと引き離すと、エリは急に泣き出してしまった。

(ごめんな、エリ……)

 ずっと辛い思いばかりさせてごめん。けど、これでもう彼女は自由だ。

 エリは泣き濡れた声で、しゃくりをあげながら誓ってくれた。

「あなたの分まで……幸せになります。そしてこれからは……」

 そこで言葉を止め、顔を俯けるエリ。

「エリ?」

 心配に問うと、エリは涙を払うようにして無言で首を振ってから再び顔を上げ、言葉を続けた。

「そしてこれからは、笑って生きると……約束します」

 カイルは安堵するように笑った。

「ありがとう、エリ」

「カイル」

「ん?」

 晴れない顔でこちらを見つめるエリの頬に一筋の涙がつたい、流れ落ちていく。

「この約束が果たされた時……もう一度、あなたに会うことができますか?」

 カイルは無言でエリの体を引き寄せると、唇を重ねた。




 ◆



 痛みと朦朧もうろうとした意識はすでに限界のはずだった。

 馬車が出発して、彼女の姿が見えなくなっても、カイルは平静とした表情で何事なく隣に座っていた。

 ラフグレ医師はぽつりと彼に声を掛けてみる。

「もう大丈夫ですよ、カイル。ここまで来れば彼女からは見えません」

 その直後。崩れるようにして、カイルがラフグレ医師の膝元に倒れ込んできた。

 ラフグレ医師はぽんぽんとカイルの頭を軽く叩く。陽気な声で、

「いやぁ、それにしてもよく耐えられたもんですね。前代未聞の新記録、三十分オーバーですよ、まったく。ははは」

 …………。

 カイルはもう、いつものように言葉を返してこなかった。

 ラフグレ医師は真顔になり、声を落とす。

「ほんと、よく耐えられたものですね」

 ぐったりと横たえて眠る彼の頭を、そっと撫でる。

「あの事故から今日まで、アレクの体でよく頑張りましたね。でももうこれからは、何も悩むことも考えることもありません。

 ゆっくりと休んでください。カイル……」

 カイルとラフグレ医師を乗せた馬車は港町を目指して走る。


 彼らを待つ、エバリング国の船へと向けて──。






■ 最後までお読みくださり、ありがとうございました。

  貴重なお時間をこの作品にいただけましたことを心からお礼申し上げます。


  継続してお気に入り登録くださいました二十二名の方々、感想をくださいました水森様。

  本当にありがとうございます。


  途中、どうでもいい後書きを消したり──自分が見るのが嫌だったので──誤字脱字を変更したりして数々のご迷惑おかけしたことをお詫び申し上げます。いや、完結した後に修正したら完結がまた連載に変更してしまうんですね、これ。


  ──あ。お詫びと言えば。

  途中で不定期連載になってしまったこともお詫び申し上げます。毎日連載に挑んでみたのですが、ものすごく疲れることだけが分かりました。たまに更新が、ちょうどいい。


  とまぁ、またこんなところでいつまでもダラダラと一人語りしても仕方ないので。

  

  最後に。

  良かったら、また次も読みに来ていただけると大変嬉しく思います。



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