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俺がアイツでいる理由。  作者: 高瀬 悠
終章 君が想う聖魔騎士
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終章、君が想う聖魔騎士【4】


(──避けきれない!)

 カイルの心に【風】の魔剣が反応する。

 足が宙に浮いた感覚がしたと思った瞬間には、

「は?」

 カイルの体は空に浮いていた。

 目標を失った攻撃がカイルがいた場所を中心に交錯する。そして──


「なッ!」

「なんだと!」


 観客席へ魔剣の攻撃が一気になだれ込んでくる。

 まともに攻撃を受ける者たち。慌てて【反する属性】の魔剣を出現させて防御する者たち。

 激しい落雷のような音を立てて爆発が起こり、硝煙があちこちで上がる。

 それが乱闘の始まりだった。

 何か運の悪いことでもあったのだろう。攻撃を受けた者が攻撃してきた者に対して報復を放つ。

 再び観客席で爆音が轟き、そこからまた報復の攻撃が放たれる。

 避難する王たち。

 逃げ惑う候補生。

 闘技場はいつの間にか聖魔騎士同士の戦場へ変わり、ごった返していた。

 そんな混乱のただ中を、カイルは元居た場所へと静かに降り立つ。

 きょろきょろと周囲を見回す。

 もう、誰が敵なのか分からない状態になっていた。

 頬を引きつらせてカイル。

(こ、こんなつもりじゃなかったんだが……)

 四方八方を飛び交う攻撃。

 ふいに、持っていた魔剣の一つが反応し、カイルの手から消えた。

(え?)

 瞬間、左方向から土煙に乗じて聖魔騎士が魔剣を振り上げ、カイルに襲いかかってくる。

 気付いて魔剣を構えようとした時には──。

 甲高い金属音を鳴らして、消えたはずの魔剣が虚空に姿を現し、相手の魔剣と刃を交えていた。

 相手の聖魔騎士が驚愕する。

「こっちの攻撃を読んでいたというのか!」

 驚愕したのはカイルも同じだった。

(この魔剣、一瞬先を予測して俺が思った通りの反応を返してくる!)

 だったら──。

 カイルの目が鋭く変わる。

 応えるように、刃を交えたカイルの【火】の魔剣に炎が灯り、一瞬にして燃え上がった。

 それに呼応するようにカイルの持っていた【風】の魔剣が手の中から消え、燃え上がる【火】の魔剣の隣に出現する。

 空中で【火】と【風】の魔剣が呼応し合い、そこから激しい熱風を噴き放つ。 

「──!」

 相手の聖魔騎士は声を発することなく、その魔剣が放った熱風に吹っ飛ばされていった。

 呆然とその様子を見送るカイル。

(もしかして俺、何もしなくていい感じか? これ)

 息つく間もなく、飛んできた風の矢がカイルの頬を掠める。

 カイルは慌てて振り返った。

 目前に突きつけられる鋭い魔剣の切っ先。

(──ってわけにはいかないよな。やっぱり)

 カイルは降参するように両手を挙げた。

 ラドラフ国の聖魔騎士が二人。

 もう一人はこちらの背中に魔剣を突き立てている。

「王命により、貴様を抹殺する」

 もはやこれまでか。

 カイルは覚悟し、目を閉じる。

 その時だった。

 悲鳴が聞こえ、次に目を開けた時には目前の聖魔騎士の姿はなかった。

 背後に突き立てられた魔剣の気配もなくなっている。

 流れるように視線を地面へと向ければ、ラドラフ国の聖魔騎士二人が攻撃を受けて倒れていた。

 次いで飛んでくる聞き覚えのある声。

「こんなとこで何勝手に死のうとしているんだ、てめぇはよ」

 目を向ければ、そこには候補生の制服を着た男──あの時喧嘩を売ってきたリーダー格の男──がいた。

 リーダー格の男は右腕に怪我を負った状態でカイルに近づいてくる。

「敵に助けを求めてくるんじゃねぇっつってんだろうが」

 首を傾げてカイル。

「いや、助けを求めたつもりは──」

「誰が起こした騒動だと思ってんだ? 逝くんだったら騒動の幕ぐらい下ろしてから逝きやがれ」

 言われ、カイルは自分のしでかしたことをようやく自覚する。

 自嘲するように薄く笑って、

「……そうだよな」

「は?」

 間の抜けた顔をするリーダー格の男。

 カイルは視線を移す。地面から起き上がってくる二人の聖魔騎士に。

「悪い。この二人はあんたに任せた。俺はこの騒動を止める方法を探す」

 言うなりすぐにその場をあとにする。

 慌てて呼び止めるリーダー格の男。

「──ってオレは敵だって言ってんだろうが! 守備任せてんじゃねぇッ!」



 カイルは【風】の魔剣に念じる。

 思った通りに魔剣は反応を返し、カイルの体を風が包み込む。

 軽く踏み切ってジャンプしてみれば、いとも簡単に高い塀を超えて観客席に降り立つことができた。

 魔剣の使い方はだいぶ分かってきた。

 カイルはそのままさらに上を目指す。

(まずは状況を把握するのが先だ。来賓席くらいの高さなら闘技場を見渡すことはできるはず)

 しかし、カイルはある光景を目にし、足を止めた。

 観客席の上──その二階の来賓席で、エバリング国の聖魔騎士と対峙するラドラフ国の聖魔騎士の姿を見つける。

 おそらく避難する途中での出来事なのだろう。ラドラフ国の聖魔騎士は自分達の王を背後に庇い、魔剣を構えてじりじりと間合いを取りながら後退している。

 その様子から見て判断するに、どうやらエバリング国の聖魔騎士が優勢のようだ。

(このことを知らせなければ!)

 さきほど襲ってきたラドラフ国の聖魔騎士のことを思い出し、カイルは踵を返そうとして、

「……」

 踏みとどまる。

 ここであの場所に引き返せば、さっきの時間は全部無駄になってしまう。

(どうする?)

 不意に右方向から魔剣を振りかざし、襲い掛かってくる他国の聖魔騎士。

 反射的に顔を腕で覆って防御する。

 鳴り響く金属音。

 そっと防御を解けば、宙に浮いた魔剣がカイルを庇い、刃を交えていた。

 次いで左方向からも聖魔騎士が襲いかかってくる。

 四本の魔剣がそれぞれの聖魔騎士を相手し、カイルを守るように宙に浮いた状態で刃を防いでくれていた。

 判断は一瞬。

 前へ進むか、後ろに戻るか。

 道は二つに一つ。

 迷いは許されない。

 カイルは意を決し、駆け出した。

 目指すは──




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