三、あの頃にはもう戻れない【14】
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心からお礼申し上げます。
心臓が激しく高鳴っていく。
テーブルの下で手や足が小刻みに震えた。
ラドラフ国王がさらにカイルを言葉で追い込んでくる。
「地味な学校生活はエバリング国王の指示か?」
カイルはハッとした。
(そうか! だからアレクはFクラスに──)
その表情を読み取ってか、ラドラフ国王が舌打ちする。
「やはりそういうことじゃったのか、あの策士め」
──え?
嫌な予感が胸中でざわめく。
(もしかして今、カマかけられたのか? 俺)
言い知れぬ不安がカイルを襲う。
ラドラフ国王はカイルを真っ直ぐに見据えると、真剣な表情で取り引きを持ちかけてきた。
「お前さん、国は欲しくないか?」
カイルは唖然と問い返す。
「え……? 国、ですか?」
「そうじゃ。お前さんがワシの聖魔騎士になってくれるのであれば、ワシはお前さんにこのラドラフ国をやろう」
耳を疑う言葉だった。カイルは目を何度も瞬かせた後、首を傾げて問い返す。
「は……?」
「嘘ではない。約束は必ず守る」
「いやあの、そうではなく……国、ですよ?」
「誓約書が必要か?」
「いや、そういうことではなくて……あの……。そんな『はい、ポン』でもらえるほど簡単なことじゃ──」
チッ。
いじけるように小さく、ラドラフ国王が舌打ちする。聞こえるギリギリの小声でぼそりと、
「どうやら国だけでは不満のようじゃな。あの馬鹿デカイ大国のことだ。きっと足枷にするくらいの宝物を与えているに違いない」
急にラドラフ国王はニコリと笑顔になった。
その不気味な心変わりにカイルはびくりと身を震わせ退く。
「ワシはエバリング国の与える、その倍の宝物をお前さんに与えよう」
「ば、倍……?」
「さぁ何が欲しい? 何でも言ってみなさい。お前さんの望む物は全て差し出そう。
おっ、そうじゃ。我が国が誇る最大の秘宝──『スーヤの宝石』はどうじゃ? これはワシの国でしか採取することのできない貴重な宝石じゃぞ。もちろん、どの国も持っていない代物じゃ。
──これ、リドラ。あの宝石を持ってきておくれ」
ラドラフ国王の背後にいたライの父親──リドラは国王の指示を受け、無言で一礼すると部屋から出て行く。
カイルは席を立って慌てて呼び止めた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺はまだ──」
バタンと無情にも部屋の扉は閉まり、彼は完全無視で部屋を出て行ってしまった。
「…………」
無言のままその場に固まっていると、ラドラフ国王が陽気に笑って手を上下に振る。
「よいよい。スーヤの宝石はワシからのほんの挨拶じゃ。まだ欲しい時はいつでもワシに言いなさい。お前さんの為ならいくらでも用意しよう」
な、なんだよそれ……。
カイルは愕然と、力抜けるように椅子に腰を下ろした。
少しずつ見えてくる自分の置かれた立場に今更ながら恐怖を覚える。
そんなカイルを他所に、ラドラフ国王の目がスープ皿へと向く。何事もなかったかのように暢気な口調で話題を変えてくる。
「おや。スープがすっかり冷めてしまったようじゃな」
使用人へ目をやり、軽く指を鳴らす。
「これ、その者たち。入れ直しておくれ」
二人の使用人が動き出す。
置かれていたスープを下げて、二人の使用人は部屋から出て行く。
入れ替わるようにして新しいスープを運んできた別の使用人二人が、カイルとラドラフ国王の前にスープを静かに並べ置く。
「おぉ、きたきた」
にこやかな笑顔に戻ったラドラフ国王が気遣うように謝ってくる。
「すまぬのぉ。お腹がすいたであろう? ワシの話はこれで終わりじゃ。食事をしながらゆっくり考えてみると良い。
期待しておるぞ。シン聖魔騎士の息子よ」