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俺がアイツでいる理由。  作者: 高瀬 悠
第三章 あの頃にはもう戻れない
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三、あの頃にはもう戻れない【12】


 案内され、通された部屋は驚くほどの奥行きが広い荘厳な食事部屋だった。

 横長に伸びたテーブルには白い高価なテーブルクロスがかけられ、その上にはいくつもの燭台しょくだい、豪勢な花と器に盛られた果物、そして白い食器類が眩しく光っている。

 壁隅にずらりと佇む女使用人たち。

 カイルは愕然と表情を固めた。

 畏縮し、足が竦む。

 寮にあるアレクの部屋など比ではない。圧倒されるほどの高貴さ、それに似合うだけの品位を問われそうな雰囲気。やはり候補生寮の高級感はこれに慣れる為の訓練施設でもあったのだろう。

 案内していた聖魔騎士──ライの父親がカイルの様子を見て、にわかに顔をしかめた。

「どうした?」

「い、いえ……あの」

 訊きたいことはただ一つ。

「俺はここで何をするんですか?」

「王と食事だ」

 フッと、カイルは微笑して彼から目を逸らすと、そのままくるりと背を向けた。

「俺、やっぱり帰りま──」

「どこにだ」

 がしりと襟首を掴んでくる。

 …………。

 とても逃げられそうにない。

 ライの父親が呆れるようにため息をつく。

「貴様はあの学校でいったい何を学んできた?」

 こんな素養は習っていません。

「まぁいい。マナーに自信がないのなら何も食うな」

 ンな無茶な──!

 反論しようと口を開いたが、彼はすぐにカイルの腕へと掴みかえ、強引に部屋の中へ連れ込んだ。


 テーブルの片端となる席に無理やり座らされる。

 壁隅に待機していた女使用人たちが動き出し、少し慌しくなる。

 戸惑うカイルにライの父親は指示した。

「しばらくここで待っていろ」

 畏縮するように身を丸め、黙って大人しく指示に従うカイル。

 ライの父親は背を向けると、無言で部屋から出て行った。

「…………」

 カイルはテーブルへと視線を落とす。そこに並べ置かれた白いナプキンと左右に分かれたナイフ、フォーク、スプーン。

 それをじっと見つめること、しばし。

 

 ふいに聞こえた扉の開く音に、カイルは目を向けた。


「おぉ! よく来てくれた、待っておったぞ」


 天の助けか、悪魔の声か。

 あの時の年齢不詳の老人がライの父親を従えて部屋に入ってきた。服装もあの時と違って今は華やかで豪奢な王族の衣装に身を包んでいる。

 使用人がさらに慌しく動き始める。

 老人──ラドラフ国王はカイルの向かいである片端の席へと腰を下ろす。

 ライの父親がラドラフ国王の背後で『休め』の姿勢で立つ。

 カイルは緊張の面持ちで向かいのラドラフ国王を見つめた。

 テーブルの端と端同士。

 造りが横長のせいで、カイルとラドラフ国王との間にはある一定の距離ができていた。

「…………」

 必要なのか? この長さ。

 カイルは内心で静かにツッコミを入れた。

 ふと、ラドラフ国王がカイルに声を掛けてくる。

「ここまでの馬車の乗り心地はどうじゃった? お前さんを迎えるために特別に用意した馬車じゃ。

 気に入ってくれたかの?」

「……え?」

 あまりの突然と緊張のせいもあって、内容を聞き逃してしまった。

 問い返したつもりが、ラドラフ国王には違う印象を持たれてしまったようで、とても残念そうに表情を沈ませている。ラドラフ国王は口を尖らせて不満そうに呟く。

「そうか」

 カイルは慌てて手を振り、

「あ、いや、えっと──」

 聞いていませんでしたなんて、口が裂けても言えない。

 ラドラフ国王が傍にいた使用人を「これ」と言って指で呼び寄せ、

「今すぐにあの馬車の座席シートをアーバン系のシルクに替えてきなさい」

 ひぃぃぃ!

 カイルは内心で悲鳴を上げると両手をわななかせた。

 命令を受けた使用人が無言で一礼して部屋を出て行く。

 カイルは慌てて席を立つと、その使用人を呼び止めた。

「ま、待ってくれ! 違う、違うから! 誤解なんだよ、ちょっ──」

「よいよい」

 ラドラフ国王はにこにこと上機嫌に笑って、カイルに座るよう手を上下に振る。

「ワシも気になっておったのじゃよ。ローフ系が良いかアーバン系が良いか」

 違ーう!

「やはりアーバン系の方が肌触りが良いからオススメじゃ」

「違うんです! 俺は──」

 手振りを交えて必死に訴えたが、

「もう座ってよい。食事を始めようではないか」

 ラドラフ国王は話題を変えてきた。

 誤解を解くことができないまま、カイルは使用人から座るように促され、仕方なく席についた。

 周囲もラドラフ国王の機嫌に合わせるように動いていく。

 スープの入った皿が運ばれてきて、カイルとラドラフ国王の前に置かれた。

 カイルの近くにいた使用人が気を利かせてテーブルのナプキンをカイルの膝に敷いてくれる。

 その使用人に軽く頭を下げ、カイルはスープに視線を落とした。

 とろみのある白いスープ。

 ラドラフ国王が喜びの声を上げる。

「おぉ、きたきた。──さぁ、冷めないうちに食べようじゃないか」



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