一、託された願い【4】
魔剣を買い終えたカイル達は、町外れの馬車待合所で定期便の馬車を待っていた。
雨ざらしで古ぼけた木製の長椅子に二人は距離を置いて腰掛け、ただひたすら馬車が来るのを無言でジッと待つ。
野郎が二人。話すことなど何も無い。
カイルは片足を苛立たしく揺すりながら、馬車が来るのを今か今かと待っていた。たまに舌打ち。
しばらくすると、行き先の違う馬車が二人の前で停車した。
乗らないことを確認した馬車は二人の前から過ぎ去った。
「クソ。遅ぇな、定期便の馬車。どっかでサボってんじゃねぇのか?」
予定の時刻ではなかったがとにかく早く来てほしかった。いつまでも男同士二人っきりは気分が悪い。
するとどんなタイミングでか、隣にいた候補生がいきなり声を掛けてきた。
「候補生が親切にするのは……変かな?」
突拍子ない質問に、カイルは座っていた待合椅子からずり落ちた。驚きに大きく目を開いて、候補生の顔をしばしマジマジと見つめる。
やがて候補生は一人で納得の答えを出した。
「やっぱり変だよね」
「な、なんだよ急に……変な奴……」
呟いて、カイルは椅子に座り直した。目を合わすまいと顔をそっぽ向ける。
すると隣から立ち上がった音、そして近づく足音が聞こえ、カイルの前を影が覆った。
候補生がカイルにスッと手を差し伸べてくる。
「僕はアレク。君は?」
カイルはちらりと横目で候補生──アレクを見た後、変な奴だと思いながら差し伸べてきた手を握った。
「俺はカイルだ。──ってか、今頃自己紹介し合うのも変じゃねぇか? それに俺たちはもう二度と顔合わせることなんてねぇんだぜ?」
「そうかな?」
「はぁ?」
カイルは顔をしかめて問い返した。
返すことなくアレクは黙って座っていた椅子の所まで戻ると、詰襟を外して喉元を指で緩め、さきほどの態度から豹変するように足を投げ出してどっかりと座った。背凭れに身を預けるように倒して「はぁ」と疲れた息を吐く。
(これがコイツの本性か。猫かぶりめ……)
カイルは呆れるように半眼でアレクを睨んだ。
突然、アレクが笑い出す。カイルへと顔を向け、
「候補生がこんなことしたら、やっぱり変かな?」
「普通に変だろ。そんなところを誰かに見られたら確実に聖魔騎士候補生から外されるぞ」
「いいよ、あんなの」
表情から笑みを消して、アレクはそっぽを向いた。
カイルの心が少し苛立つ。
「『あんなの』って何だよ。聖魔騎士を必死に目指している俺達は馬鹿か?」
「それじゃ、君が思う聖魔騎士って何?」
「え?」
カイルは呆然とした。
とりあえず当たり前の答えを述べてみる。
「王様を守る職業、だろう?」
「じゃ、僕達が目指す聖魔騎士は正義だと思う?」
「意味わかんねぇよ」
カイルは言葉を投げた。
アレクが陰気臭く頭を垂れる。
「そう……だよね」
「あぁもう! なんなんだよ、さっきから!」
あまりの苛立たしさに、カイルは頭をかき乱して声を荒げた。
「医者って何? 教師って何? 王様って何? 商人って何? 人間って何? お前が訊きたいのはそういう質問じゃないのか? 違うなら違うって言えよ!」
アレクは微笑する。
「もし僕達、このまま学校に戻らなかったらどうなると思う?」
「……は?」
カイルの脳裏を嫌な予感が走った。