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俺がアイツでいる理由。  作者: 高瀬 悠
第三章 あの頃にはもう戻れない
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三、あの頃にはもう戻れない【5】


 それぞれの魔剣から生み出される【土】の攻撃。

 放たれた四つの攻撃は一つに収束し、大きな土石流となってカイルに襲い掛かる。

 カイルは死を覚悟して、顔の前を腕で覆って防御体勢を取った。


 そんな時だった。


 貫くようにカイルの頭に響く何かの声。

 言葉でも鳴き声でもない、音とはまた違った光のような声。

 その声に、アレクの言葉が重なる。


 ──魔剣は『物』じゃない、『生きモノ』だ──


 鼓動を感じる。


 ──君にしか聞こえない魔剣の呼び声に応えることができた時──


 呼び声を感じる。


 ──君の想いに魔剣が応える──


 感じる呼び声を、そのまま自分の中へと受け入れる。

 その瞬間、

 重圧ある【土】の攻撃が地鳴りを響かせ大地を揺るがし、カイルを呑み込んだ。



 ◆



 闘技場を猛塵なる砂煙が包み込む。

 付近にいる者の姿がようやく確認できるくらいの視界の悪さだ。

 そんな中で、候補生の四人は思い切り咳き込んでいた。

『ごほっ……ちょ……やりすぎ、ごほごほっ!』

「お前ら手加減してねぇだろ、ごほっおえっ!」

「ごほ……力み……過ぎた……」

「相手……馬鹿一人だろ……ごほごほ」

 当分止みそうにない四人の咳。

 次第に晴れていく視界に、四人は目を凝らしてカイルの姿を探す。

「……まさかほんとに死んじまったか?」

「あれでもごほっ、一応候補生なんだから、致命傷くらいは魔剣で防げただろ」

「だが、ごほっ、病院行きは確かだな」

「誰かごほごほっ、医務室の医療師呼んで、やれよ」

『別にあそこまでごほごほ、やれとは、僕も言ってない』

「お前、いつまでマイク持っている気だ?」

 四人で笑って。

 ようやくスッキリと澄んできた視界に、四人はだんだんと笑いを止めていった。

 一人の男がある一点を見つめたまま愕然とした表情で気弱な声を漏らす。

「おい、嘘だろ……」

 もう一人の男が震える手で慌てて魔剣を構え、逃げ腰に後退しながら呟く。

「じょ、冗談じゃねぇ……」

 ライは無言で逃げ出した。

 リーダー格の男もその方向を見つめて、心底怯えるように声を震わせた。

「化け物かよ、アイツ……」

 三人の見つめる先に、さきほど攻撃を物語る痕跡は一切残っていなかった。

 何一つ変わらぬ風景の中でただ一人、両腕で顔を覆って防御の構えを取ったまま微動だにしないアレクの姿があった。

 リーダー格の男はごくりと唾を飲み込む。

「信じらんねぇ……。アイツ、四本の攻撃を消し去りやがった……」


 トン、と。

 

 一本の魔剣が空から降りてきてアレクの前の地に突き刺さる。

 まるで彼を守る盾になるかのごとく。


 それを見た一人が恐怖に悲鳴をあげる。

「冗談じゃねぇ!」

「あんな化け物、相手にできるかよ!」

 一人、また一人とその場を逃げ出す。

「あっ! ちょ、お前ら!」

 取り残されたリーダー格の男が慌てて引き止めたが、二人の足は止まらなかった。

 自分も逃げ出そうかと考えて踵を返したが、リーダーとしてのプライドがそれを引き止める。

 先に喧嘩をふっかけたのはこっちだ。

 リーダー格の男はアレクへと向き直ると、ぐっと胸を張って睨み据えた。

 たとえここで朽ちることになろうとも、騎士道精神として最後までケリをつけたい。

 もう一本の魔剣を出現させ、胸の前で交錯させる。

 頬をつたう一筋の汗。

 相手は四本の魔剣の攻撃をたった一本で消し去った化け物。油断はできない。

 刃の交錯を解き、リーダー格の男は最大限の力を以って魔剣を構えた。

「火には水を、水には土を、土には風を、風には火を……」

 復習するかのように呟き、リーダー格の男はアレクの次なる行動を待ち続けた。


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