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俺がアイツでいる理由。  作者: 高瀬 悠
第三章 あの頃にはもう戻れない
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三、あの頃にはもう戻れない【4】


 体勢を崩した男の首元に、カイルは組み合わせた両手を一気に叩き込んだ。

 男は一撃を受け、地面に倒れこむ。そしてそのまま気を失ってか、立ち上がってくることはなかった。

 カイルは内心で安堵し、一息つく。

(良かった。こういう感じにきてくれて)

「この野郎!」

 仲間を倒されたことに苛立ったのか、もう一人の男も魔剣を普通に振りかざして襲い掛かってくる。

 カイルの口に余裕の笑みが浮かぶ。

 腰を落として体勢を低くし、密かに拳を構える。

 寸前まで男を引きつけ、男が魔剣を振り下ろしてくるのを待つ。

 予測通りの行動をしてくる男。

 所詮しょせん、有力候補生とて魔剣を使ってなんぼのもんだ。こんな原始的な戦いとなると優劣がはっきりとする。

 カイルは振り下ろしてきた魔剣をかわすと、瞬時に男の懐に入り込む。

 鳩尾に一撃。

 震える男の手から、力なく魔剣が落ちた。

 そいつの体をいつまでも支えてやるつもりは無い。

 カイルが拳を退けると、男は体を折り曲げたまま地面に倒れこんだ。

(よし。二人目)

 残るは三人──

 と、目を向けてカイルはげんなりとした。

(なんか増えてるぞ、おい)

 今までどこに居たというのだろう。あの時ケツに蹴り入れてやった少年──たしか名前はライだったか──が、魔剣とマイクを手にリーダー格の男の後ろに隠れるようにして姿を見せていた。

 これで残るは四人。

 ライはマイクを口元に運ぶと、魔剣を持った手でカイルを指差し、強気にえる。

『こんなんでいい気になるなよ。本番はこれからだ!』

 わんわんと、エコーのかかったライの声が闘技場に響き渡る。

 カイルは冷静に突っ込みを入れた。

「そこに居るなら、もうマイクは必要ねぇだろ」

 無視される。

 ライはリーダー格の男に鋭い視線を向けると激昂げっこうを飛ばした。

『お前ももっと真剣にやれ! パパに言いつけるぞ!』

 片耳を塞いで小うるさそうにリーダー格の男。

「あーはいはい。わかったよ」

 面倒くさそうに返事をして魔剣を構えなおす。

 どうやら次は本当に魔剣の力を使ってくるつもりだ。

 あと二人も仕方ないと言った表情で同じように構える。

 ライは……。魔剣を構えてもけしてマイクは離さなかった。

(はっきり言って邪魔だと思うぞ、そのマイク)

 内心で静かに突っ込みを入れてから、カイルは無防備のまま戦闘の構えを取った。

 リーダー格の男が口端を薄く引いて笑みを見せる。

「悪いな。そういうことで今度は手加減してやれねぇんだ。死んでも恨むなよ」

 カイルは半眼でぼそりと答える。

「こんなんで殺されたら俺は恨むぞ、思いっきり」

 魔剣を使ってくるなら拳じゃ役に立たない。

 イチかバチかで逃げ道を目で探す。

 その間にも四人の魔剣から淡く白い霧が生まれ、まるで生きた蛇のように刀身に絡み付いていく。

 魔剣に秘められた元素の種類は四つ。──火、土、水、風のどれかである。元素には相性があり、一本の魔剣に一つしか秘められていない。

 人間が持てる魔剣の限度は二本。それ以上は相反する元素の力に身がもたないからだ。

 カイルの顔が引きつる。

「ちょ、ちょっと待ってくれ」

 それ以前にこっちは魔剣での攻防はおろか一本も持っていないという無抵抗の身だ。

「俺は魔剣なんて持ってない!」

 リーダー格の男が「冗談」とばかりに笑ってくる。

「そんな候補生がいるかよ」

 た、たしかに。

 カイルは焦燥まじりに納得した。

 今はアレクの身だし、これでは何を言っても説得力に欠ける。

(魔剣の攻撃から逃げるのは不可能だ)

 ここで俺の人生は終わる。

 カイルの蒼白した表情から冷や汗が流れ落ちた。

 リーダー格の男が雄たけびをあげる。

「行くぜ!」

 それを合図に、四人は一斉に魔剣の攻撃をカイルに向けて放った。 

 

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