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俺がアイツでいる理由。  作者: 高瀬 悠
第三章 あの頃にはもう戻れない
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三、あの頃にはもう戻れない【3】


 入学した頃から、ステイル教師に口癖のようにして言われていたことが一つだけあった。


『あなたに足りない要素は冷静になって物事をよく考えることよ』


 だ、そうだ。

 その言葉の意味を、今ようやく知ることとなる。



 ※



「──って、ちょっと待ってくれ」

 思わずカイルは前を歩く五人の候補生の背に待ったをかけた。

 五人は足を止め、鋭い顔つきでこちらに振り返ってくる。

 カイルは足を止めて恐る恐る確認をとった。自分の足元を指し示して、

「お前らが言う『裏へ来い』は、裏庭じゃなく闘技場のことか?」

 広大な円形闘技場の中心で、カイルと五人は立ち止まっていた。

 何を今更。と、失笑を浮かべる五人。

 内、リーダー格の男が馬鹿にしたように言ってくる。

「当然だろう? 何ビビッてんだ」

「それってやっぱり、魔剣を使っての勝負ってことになるんだよな?」

「他に何がある?」

「肉弾戦、とか」

「馬鹿じゃねぇのか」

 たしかに俺は馬鹿だ。今更気付いたが、俺は本当に馬鹿だ。肉弾戦なら得意だが魔剣となると話は別。

 カイルはごくりと生唾を飲み込んだ。


(この勝負……受けたら死ぬ)


 そう思った瞬間、カイルの心の中で何かが消えた。急に東の空を指差して驚愕に叫ぶ。

「あー! あんなところに空飛ぶ豚が!」

 プライドなんてクソくらえだ。

 五人の視線が一気に東の空へ向く。

 その隙に、カイルは全力でその場を逃げ出した。


 ──が。


 すぐに見破られて当然のごとく追いかけられ、カイルはあっさりと捕まった。

 四人の男に借りてきた猫のようにして捕まえられ、リーダー格の男の前に差し出される。

 リーダー格の男はあざ笑うような目でカイルを見下し、ぱきりぱきりと指の間接を鳴らした。

「幼稚な手を使ってんじゃねぇよ」

 それに引っかかるお前もな。という強気発言は、さすがに言えなかった。

 カイルは口を尖らせて不平をもらす。

「魔剣で勝負なんて一言も聞いてない」

「言ってどうすんだよ。カルロウ教師でも連れてくるつもりだったのか?」

 真顔でカイル。

「当然だろ」

「からかってんだよ! なに普通に返してきてんだ!」

「この戦いはフェアじゃない。教師を連れてくるくらいのハンデがあってもいいはずだ」

「てめぇにプライドはないのか!」

「死ぬよりマシだ。どうとでも言え」

「……!」

 てめぇこの野郎とばかりに声なく胸倉を掴みあげて歯軋りするリーダー格の男。

 うん。あんたの言いたいことはよくわかる。


 そんな時だった。闘技場全体に響き渡るアナウンス。

『いいザマだ、アレク! 僕に手を出したことを後悔するがいい!』


 あ。この三流の悪役じみたセリフ……。

 カイルは一気にテンションを下げると、肩を落として面倒くさそうにため息を吐いた。

「誰の仕業かと思えば、ケツに蹴り入れてやったあのクソガキか」

 わかったところで多勢に無勢。状況が把握できても現状は変わらない。

 リーダー格の男が余裕に笑みをこぼし、カイルの胸倉から手を離す。

「まぁそういうことだ。悪く思うなよ」

 言って、一歩二歩と後退していく。

 四人の男から突き飛ばされるようにして解放され、カイルはよろめくように地面に手をついた。

 そして四人の男もカイルから後退し、離れていく。

 カイルを中心に残し、そこから囲うような形でほどよく後退し続け、五人は足を止める。

 

 円陣型集中攻撃。──本来は強い敵に対して複数で円陣を組み、連携攻撃を仕掛ける技だ。


「冗談だろ?」

 五人を見回すカイルの呟きが、むなしく風に消える。相手が弱いとわかっていてこの攻撃だ。仕返しにも程がある。

 リーダー格の男が右腕を斜め下に真っ直ぐ構えた。ニヤリと微笑し、開始の言葉を紡ぐ。

「さぁ、始めようぜ」

 金属が擦れ合う音をたて、リーダー格の男の右手から刀身を煌かせた魔剣が姿を現す。

 残る四人もそれを合図にするように、同じく刀身を見せた魔剣を生み出した。

 ごくり。

 絶体絶命のピンチを目の当たりにし、カイルは生唾を飲み込んだ。

 魔剣。──それは自然四大元素のいずれかの力を宿す不思議な剣である。当然ただの剣、ましてや拳なんかで勝機を見出すことはゼロに等しい。魔剣で防ぐは魔剣のみ。だからこそ、それを扱う聖魔騎士は王の護衛とされているのだ。

(逃げなければ!)

 魔剣を扱えないカイルは必死に目で逃げ道を探した。

「余所見してんじゃねぇぞ」

 声はカイルの後方から聞こえた。

 危険を感じて反射的に体を捻れば、そのすぐ脇を刃が掠めた。

 体勢を崩す男。

 カイルはそのチャンスを逃さなかった。

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