三、あの頃にはもう戻れない【2】
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昼を少し過ぎた頃、カイルは墓地から学校へと戻ってきた。
校門を通り、校庭を歩いて候補生校舎へと向かう。
すると、候補生校舎の出入り口付近で偉そうに腕を組んでこちらを見ている五人の候補生たちの姿が目に入った。ニタニタと不快な笑みを浮かべている。
無視して過ぎ去ろうとしたが、一人の男が片腕を突き出して道を塞いできた。
「おっと。こっから先は通さないぜ」
どうやら待ち伏せていたらしい。カイルは怪訝に顔をしかめた。
「俺になんか用か?」
男達は互いに顔を見合わせ、企みある笑みを浮かべた。
内、リーダーと思わしき角刈りの頭をした体格のデカイ男が声を掛けてくる。
「お前、アレクだな?」
「違う」
きっぱりと真顔で即答を返す。
「……」
「あ」
さっきまで考え事していたせいでつい口から出てしまった言葉に、カイルは内心で「しまった」と舌打ちした。
後悔したが、もう遅い。
案の定、五人の男達は目を点に呆然とした顔で動きを止めている。
…………。
空気が一気に白んでしまった。
(面倒だからこのまま逃げよう)
何事もなかったかのように、カイルは男達の横を過ぎ去り校舎の中へと入っていく。
「──って、ちょっと待てお前」
むんずと。リーダー格の男が襟首を掴んできた。
カイルは不機嫌な態度で振り返る。
「なんだよ」
「何逃げてんだ」
「面倒だから」
「め……!」
リーダー格の男は引きつる顔を固めて絶句し、そのまま隣の連れの男にヒソヒソと声をひそめて確認をとる。
「コイツはアレクで間違いないよな?」
「はい、間違いないッス」
「本当か?」
「本当です」
「よし」
自信を取り戻したリーダー格の男は満足そうに頷いて、胸を張ってカイルを挑発する。
「裏へ来い。話がある」
カイルは肩を落とすと疲れきった表情でやる気なく言葉を投げた。
「えー。今から?」
リーダー格の男がカイルの顔と口調を真似する。
「『えー。今から?』──って、なんだその態度は! 嘗めてんのか、てめぇ!」
「まぁ別にいいけどさ」
「『別にいいけどさ』じゃねぇだろ! 初対面のくせにスゲーむかっ腹立つ野郎だな!」
「だってこんなの、めんどくさ……」
「あ、今てめぇ『めんどくさ』まで言いやがったな」
カイルは慌てて口を手で塞いで本音を押しとどめた。
リーダー格の男が掴んだ襟首を激しく揺すって、怒り心頭にわめいてくる。
「──って今更その処理遅ぇだろ!」
「…………」
もう何も言うまい。カイルは目を背けてため息をこぼす。
その行動がリーダー格の男の怒りをさらにあおったようで、襟首を離して胸倉を掴んでくる。
「てめぇのその態度がムカツクって言ってんだよ! 何様のつもりだ? あぁ? Fクラスの候補生がCクラスの有力候補生に勝てると思うなよ!」
カイルはふと時を止めた。
きょとんとした顔で数回瞬きをした後、しばし無言の間を置く。
カイルは顔をしかめて首を傾げると、信じられないとばかりに問い返した。
「Fクラスだと?」
実力の高いAクラスじゃなかったのか?
「…………」
言葉を失ったリーダー格の男は目を点にして呆けると、すぐに不安そうな表情を浮かべて隣の男にぼそぼそと確認をとる。
「コイツのクラスはFだったよな?」
「ま、間違いないッス」
「本当に本当か?」
「本当に本当ですよ。なんで味方の情報を疑うんッスか?」
「だってコイツがあまりにも自信に満ちた態度してくるから……」
「逃げの口実に決まっているッス」
「でもありえなくねぇか? 俺達を見下すこの態度」
「こういう人だと思えばいいッス」
「そうだな。よし」
再び自信を取り戻したリーダー格の男が、さきほどよりさらに胸を張ってカイルに言い下す。
「有力候補生には敬意を払え」
カイルはニヤリと余裕ある笑みを返した。自慢じゃないが肉弾戦の喧嘩は得意だ。
相手の見下してくる態度にだんだんと込み上げてくる闘争心。
「いいぜ。案内しろよ」
カイルは強気で、というより本気で勝つつもりで、彼らの誘いに喜んで乗った。