一、託された願い【3】
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深くお礼を申し上げます。
──ちょっと町へ買い物。
それは『ちょっと』どころではなく、生徒にしてみれば面倒臭くなるほどの長い時間を要するものだった。
学校は人里離れた森の中にある。町への買い物は学校から出ている定期便の馬車を使って往復するしかない。
馬車に揺られて片道二時間程度、町に到着する。
決まった停留所で馬車を降り、カイルは無口で無愛想な候補生とともに魔剣を販売する学校指定の店へと入っていった。
相談一つ無しに、候補生はとっとと魔剣を選んで店主の元へと持っていく。彼が選んだのはあまりにシンプルで地味な魔剣だった。
カイルは不安を覚えて彼の肩を掴んで引き止める。
「そんな地味な魔剣より、あっちの方がいいんじゃないのか?」
と、壁に飾られていた少々豪華な装飾のある魔剣を指し示す。
候補生は露骨に不機嫌な表情を見せる。怒り曇った声で、
「なぜ?」
「いや、『なぜ?』と訊かれるとすごく困るんだが……」
自信なく戸惑うカイルに、候補生はもう一度言い直してきた。
「僕が訊きたいのは『なぜあんな煌びやかな物を選ぶのか?』ということだよ」
「そ、そりゃだって、教師だし……少しはみんなが憧れるような物を持っていてもらいたいから」
「それだけ?」
威圧するように訊いてくる候補生にカイルは逃げ腰になって弱々しく答える。
「あー……もしかして経費削減、とか?」
「…………」
馬鹿じゃねぇの? と言わんばかりの無言の睨みをされた後、候補生は肩落として疲労のため息を吐いた。
その態度にカイルも不機嫌になる。
「なんだよ。そっちが訊いてきたから素直に答えただけだろ」
「君の教師はこういう重要なことも教えてくれないのか?」
「なっ……!」
怒りたいような泣きたくなるような。今まで授業をサボってきたツケを突きつけられているようで、カイルは複雑な心境で言葉を詰まらせた。
候補生は教鞭のように人差し指を振りながら、説明を始める。
「余計な飾り物がついていると重くてスピードが落ちるし、そのせいで相手からは動きを読まれ易くなる。おまけに一振りするだけで余計な体力を消耗するから、あれは実技の授業に向かない魔剣なんだ」
「じゃ、なんであんな物が売られて──」
「あれは王族や皇族のパーティに呼ばれた時に身に付ける儀礼用の魔剣なんだ。最強の魔剣だからと所構わず持っていればいいってわけじゃない。場所と雰囲気に合わせて魔剣は選ばなければいけないんだ。聖魔騎士にとって大切なマナーの一つだから覚えておくといいよ。──って、なんだい? その顔は」
カイルは唖然と口を開けて間抜けな顔で固まっていた。まさかそんな常識を候補生が親切に教えてくれるはずがないと思っていたからだ。いつライバルに奪われるかわからない候補席。てっきり『だから候補生になれないんだよ』と嫌味の一つ言われた後に無視されるかと思っていたのに。
「し、親切に……ありがとう……」
動揺を隠し切れないまま、カイルは素直に礼を言った。