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俺がアイツでいる理由。  作者: 高瀬 悠
第二章 俺の体を返してくれ
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二、俺の体を返してくれ【20】

※ ご評価くださった方、ご評価くださりありがとうございます。参考にいたします。

  お気に入り登録をしてくださった方、ご登録くださりありがとうございます。

  心よりお礼申し上げます。


「まぁ、とりあえず適当に座れよ」

 部屋に入ってすぐ居間の、ソファーを勧める。

 ロザリオが物珍しそうに部屋を見回しながらソファーに腰掛けた。

「広いお部屋に住んでいるんですね。僕の部屋とは大違いだ……」

「ま、まぁな」

 えッ! まさかココだけ? と胸中で慌てふためく自分がいる。

 関心のある目で部屋を見回すロザリオ。

 その視線から逃れるように「とりあえず」と、カイルはぎこちない動きで部屋の隅にある背丈ほどの戸棚へと移動した。

「の、飲み物とってくるよ」

「ありがとうございます」

 軽く飲み物を出して早々にお引取り願おう。

 これ以上コイツとどう話していいかわからないしな。また俺のことを思い出させても酷だし……。

 カイルは戸棚の前で足を止めた。呆然と考え込む。

(それとももうこの際、自分はカイルだと言ってしまおうか)

 事情を話せば──

 カイルは自嘲気味に笑った。首を横に振る。

(体が入れ替わっているなんて誰が信じる?)

 悪質な冗談もいいとこじゃないか。

 もし自分がロザリオの立場だったら、同情されていると思って迷わず拳を見舞っているはずだ。

 カイルは止めていた動きを再開する。戸棚の扉の取っ手を掴み、

(たしかまだ水が二本残っていたはず……)

 飲み物すら残されていなかったこの部屋で、やっとあの時町で買ってきた貴重な飲み物。

(残していても仕方ない、か)

 カイルが扉を開けるタイミングで、ソファーからロザリオがぽつりと呟いてくる。

「意外と何も置いてないんですね」

 ──がすっ。

 カイルは扉に額を打ち付けた。小さな声で涙ながらに情けなく答えを返す。

「ま、まぁな……」

 頼むからもう何も言わないでくれ。

 ロザリオが心配そうにこちらへ振り向く。

「大丈夫ですか?」

「いや別に。何も。平気」

 何事もなかったかのように、カイルは戸棚から水を二本取り出してソファーへと向かった。



「悪いな。これしかないんだ」

 ロザリオは不思議そうな顔で水を受け取る。

「水、ですか?」

「水、しかねぇんだ」

 不機嫌にカイルはそう言って、ロザリオの隣に腰掛ける。

 申し訳なさそうに謝るロザリオ。

「ごめんなさい」

「いやいい。気にするな」

「すみません」

「だから謝るな」

「……いただきます」

 寂しそうに一言呟いて、ロザリオは水を飲み始めた。

 カイルはたまらず喚いた。

「悪かったな! しかなくて!」

「す、すみません!」

「いいから黙って飲めよ! 虚しくなるだろうが!」


 ──黙。


 ごくり、ごくりと。二人の喉を水が通っていく音だけが響く。

 しばらくして、カイルが耐え切れずに口を開いた。

「いや、逆に黙られてもそれはそれで虚しいかもしれん……」

「そんなつもりはなかったんです。ごめんなさい」

「だから謝るなって言っているだろ」

「本当にすみません」

 …………。

 カイルはロザリオから顔を逸らして水を口に含む。

 そのタイミングで、

「アレクさんって、カイルに似ていますよね」

 ぶ──ッ!

 突然脈絡なく言い放たれた一言に、カイルは思わず水を噴き出した。

 慌てた様子で手を振るロザリオ。

「あ、いえ『雰囲気が』って意味なんですけど」

 返す言葉もなく、カイルは誤魔化すように水を一気に飲み始める。

「あ、あの、アレクさん?」

 聞こえない。何も聞こえないぞ、俺は。

 無視して水を飲み続けるカイル。

 やがてロザリオは元気なく項垂れていった。

「すみません。変なことを言い出してしまって……」

 カイルは飲むのを一時止めた。その体勢のまま目だけをロザリオへ向ける。

 数秒ほど様子を見て。

 飲むのを止めて、カイルは静かに水を膝の上に置いた。そしてぽつりと訊ねる。

「そうか?」

「え?」

「だから、その──俺ってカイルに似ているか?」

 ロザリオは懐かしむように笑みを見せた。

「アレクさんのそういうところ、ほんとカイルに似ていますね」

「……そうか」

 カイルはスッと胸を撫で下ろした。安心した、といってもいい。ようやく自分を認めてもらえたような気がして、なんだか気持ちが少し緩んだ。

 ロザリオが言葉を続けてくる。

「あの、アレクさん」

「ん?」

「良かったらカイルの友達に会ってくれませんか?」

「え……?」

 カイルは顔を強張らせた。

 ──仲間に会いたい!

 そんな思いに心が張り裂けそうになる。

「特にレオに会ってもらいたいんです。彼はあなたのことをまだ疑って調べています。レオは、カイルの一番の親友だったから……。だから……」

 しかし、と。カイルは思いとどまり顔を伏せた。声を沈ませて答える。

「どうせ会っても、何話していいかわかんねぇよ」

 ロザリオが残念そうに呟きを落とす。

「……そう、ですよね」

 感情を殺すようにして、カイルは影で拳を握り締めていった。

 内心で何度も自分に言い聞かせる。

 会っても誰も存在に気付いてはくれない。

 目に見えないモノは幻想。

 目に見えるモノだけが現実。

 そう、俺はアレクなのだと……。



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