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俺がアイツでいる理由。  作者: 高瀬 悠
第二章 俺の体を返してくれ
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二、俺の体を返してくれ【19】

※ お気に入り登録をしてくださった方、ご登録くださりありがとうございます。

  心からお礼申し上げます。


 寮のベッドで、カイルは無気力に寝転んでいた。

 何を思うことなく、ただジッと天井ばかりを見つめ続ける。

 ぽつりと漏れる言葉。

「俺は……死んだのか……?」

 脳裏に浮かぶ、自分の名前が刻まれた墓標。それが他人事のように思えて、とても現実を受け入れる気にはなれなかった。

 俺はアレクの体の中で生きている。だが、戻るべき体はもうこの世にない。

 それはつまり、この先の生涯をアレクとして生きるしかないということなのか?

 カイルは拒むように首を横に振った。

(冗談じゃない)

 俺はカイルだ。これはアイツの体なんだ。

(アイツは俺の体の中にきっと居るはずだ。あの墓の前で何度か話しかけていればアイツもそれに応えて、そしていつかは体が入れ替わり──)

 俺は死ぬのか? あの暗く冷たい土の中で。

 途端に死への恐怖感が荒波のように胸を締め付けてくる。

 カイルは片手で胸服を握り締め、もう片手で顔を覆った。

「どうしろっていうんだよ、こんなの……」

 死にたくはない。だがアレクになんてなれない。

 彼ほど優秀ではない。

 彼ほど真面目ではない。

 彼ほどの才能なんてない。

 彼ほど大人びてはいない。

 彼ほど……。

 カイルは覚悟を決めてベッドから身を起こした。

 入れ替わろう。

 元の自分の姿に。



 ──そんな時だった。

 部屋に呼び鈴の音が鳴り響いた。


「誰だ?」

 気勢を削がれたカイルは顔をしかめてベッドから足を下ろした。

 立ち上がり、気だるい調子で歩いて扉へと向かう。


 そして面倒くさそうに扉を開けた。


 そこには立っていたのはロザリオだった。

 ロザリオは落ち着きのない様子でこちらを気遣ってくる。

「あ、お昼寝中でしたか。ごめんなさい、あの──」

「昼寝で悪かったな」

 何をどう見てそう判断されたのだろう。確かに間違ってはいないのだが。

「何の用だ?」

 整理されていない気持ちのままロザリオに会ったせいで、カイルは彼に八つ当たるように態度も口調も不機嫌になって訊ねた。

 すると突然、ロザリオが深々と頭を下げてくる。

「すみませんでした!」

 カイルは首を傾げた。

「なぜ謝る?」

 ロザリオはそっと顔を上げ、

「僕、何も知らずにあんなこと──」

「あんなこと?」

 しどろもどろと理由を語り始めるロザリオ。

「あの、実はレオが──あっ。レオっていうのはカイルの友人の一人で、その……」

「用件はなんだ?」

「いやその……実はそのレオがあなたを疑っていたらしくて、病院に侵入してあなたのカルテを調べたらしく、その……」

「見たのか? 問診」

「問診?」

「違うのか?」

「問診を見たかどうかはわかりませんが、その……カルテに、事故のショックによる精神障害だと書いてあったらしくて。僕もさっきそのことを聞いて……その……あなたにカイルのことを話しても大丈夫だったのかと、心配になって」

「他には何も?」

「え?」

「他には何もなかったのかと訊いている」

「え、いや、特に何も……」

 首を傾げてくるロザリオに、カイルは冷たく手を振って話題を切る。

「そっか。ならいい、気にするな」

 そして扉のノブに手をかけて閉める。が、

 ロザリオは閉まる扉を手で止めて、無理やり押し開けくる。

「待ってください」

「なんだよ」

「僕はあなたにびたいんです」

「いいよ、詫びなんて」

 素っ気無く扉を閉める。しかし再び止めて、押し開けくる。

「でも──」

「いいって」

 閉め

「しかし」

「だから、いいって言ってるだろ。詫びは」

「僕が良くないんです」

「…………」

 思い返せば昔から、ロザリオはそれで気が済むタイプではなかった。

 懐かしい記憶を思い出して、カイルの頬が緩んだ。

 微笑しながら、つい、癖で彼の肩をぽんぽんと叩く。

「気にすんな。大丈夫だよ」

 瞬間、ロザリオが今にも泣き出しそうな顔でカイルを見つめてくる。

 カイルは口端を思いっきり引きつらせた。肩を叩いた手を素早く引っ込める。

 ロザリオが慌てて自分の袖口で涙を拭う。

「ごめんなさい。カイルのことを思い出して、その……」

 だろうな。

 つい出てしまった癖に、カイルは内心で苛立たしく自責した。

(しまった。コイツを見るとつい肩を叩いてしまいたくなる)

 やがて止まらなくなってしまったのか、ロザリオはとうとう泣き出してしまった。

 カイルは慌てる。

「な、なんで泣くんだ?」

「思い出が……止まらなくて……まだ彼が……どこかで生きているような気がして……」

「わ、悪かった。俺が悪かったよ。だからその涙を止めてくれるか?」

 なんだかすごく罪悪感にかられた。

 

 そこへ、この場を偶然通りかかった見知らぬ生徒──おそらく隣部屋の人──が、冷たい視線を向けながら立ち止まる。

 

 カイルが無言で頭を下げると、その生徒は苛立った表情で人差し指を口に当て、そしてその指をカイルの部屋の中へと向けた。

「はい……」

 項垂れて呟き、カイルは仕方なくロザリオを部屋に招き入れた。




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