二、俺の体を返してくれ【17】
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心からお礼申し上げます。
「事故の……真実だと?」
問い返すカイルに、ロザリオは真剣な表情で頷く。
「えぇ。最初から何かがおかしかったんです。
事故後、僕たち五人の仲間はカイルのことが心配で、ステイル教師に何度も掛け合いました。しかし答えは聞けず、しばらくして退学処分通知が一方的に貼り出されたんです」
「なんだよそれ。アイツは自主退学で辞めたんじゃなかったのか?」
「僕たちもそう聞かされていました。カイルは事故の怪我が原因で自ら退学を申し出て、故郷に帰ったのだと。だけどそのことを不審に思った仲間の一人が、退学覚悟で学校を飛び出し、彼の故郷に行ったんです。
そして、こんな手紙を僕たち宛てに送ってきて──」
と、ロザリオが制服のポケットから一枚の手紙を取り出し、カイルに手渡した。
その手紙を受け取って、カイルは黙読する。
そこに書かれていたのは、横転事故でカイルが死んでいたことを知らせる内容だった。
信じられない現実を突きつけられ、カイルの手が震え出す。
「嘘だろ、こんなの……。信じられるかよ」
声も動揺して震えた。
「信じたくないというアレクさんの気持ちはわかります。僕たちも最初は信じられなくて、密かに事故の真実を調べ始めたんです」
カイルはロザリオにすがりつくようにして胸服を掴み、訊ねた。
「それで、どうだった? 真実は」
「当時担当した新人の看護師や研修医、それに馬車の同業者の方たちにあの横転事故の話を聞いて回り、真偽に関わらず、それを学校中に広めました。そのことで全ての謎が解けたんです」
ロザリオは呆れにも似た笑いをこぼし、言葉を続けた。
「風評ですよ」
「風評?」
「学校はあの事故のせいで世間に変な風評が波立つのを恐れ、カイルの死を隠蔽し、あたかも生きて自ら責任を取ったかのように見せかけて退学処分していたんです。
もうすぐ卒業が迫ってきているこの時期に、おそらく王たちの耳に入ることを恐れたのでしょう」
カイルは力抜けるようにロザリオから手を離した。
「死んでいただと……? アイツが……」
一縷の望みも消え失せて、カイルは地面にひざを折った。
「アレクさん」
ロザリオが心配そうに身を屈めて様子をうかがう。
「大丈夫ですか?」
カイルは手で制して断った。
「あぁ、大丈夫だ。気にしないでくれ」
「本当に何も知らなかったんですね。すみません」
「いや、いい。大丈夫だ」
本当は大丈夫ではなかった。平常心を保つのが限界でいた。
ロザリオの手を借りて、立ち上がる。
「悪いな、ロザリオ」
「いえ。──あの、アレクさん。最後にこれだけは教えてください」
「なんだ?」
「なぜ、あなたもカイルも定期便の馬車に乗らず、行き先外れた馬車に乗ったんですか?」
「それは……」
答えられなかった。いや、正確にはどう答えていいかわからなかった。
カイルがしどろもどろと返答に困っていると、ロザリオが悲しみある表情で微笑してくる。
「答えられないということは、やはり庇っているんですね。カイルのこと」
思考が即座に急停止する。
「は?」
「候補生であるあなたが、そんな馬車に乗るはずがないんです」
「違う! あれはアイツが先に誘ってきて──」
「わかっています。そうでなければステイル教師が辞めるはずがないんです」
「な、なんだよそれ……」
ロザリオがカイルを見つめ、はっきりと告げる。
「今日。ステイル教師はあの事故の全責任をとり、辞職するそうです」
「ふざけんなよ!」
叫んで、カイルはその場を駆け出した。