二、俺の体を返してくれ【15】
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──とは、考えたものの。
「連絡、か……」
候補生校舎の裏庭で、カイルは壁に背を預けて呆然と空を眺めていた。
青く澄み渡る空が心地よく、穏やかな微風がフワリとカイルの金髪を撫でていく。
前方に広がる無人のグラウンド場。誰も野外演習をしていないようだ。
自分とグラウンド場との合間に植えられていた大きな記念樹が、風のささやきに葉を揺らす。
そんな葉音を耳に、カイルはため息をついた。
「問題はどうやってアイツと連絡を取り合うかだよな……」
ふと、どこからか聞きなれない声が聞こえてきた。
「なぁ、聞いたか? ステイル教師が学校を辞めるって話」
なんだと?
カイルは急いで周囲を見回し声主を探した。
この声、いったいどこからだ?
「あぁ知っている。なんでもあの事故が原因らしいって話だろ」
もう一人別の声。
どうやら親しい者同士の会話らしい。噂をするように話している。
「あの事故って?」
声は、カイルの近く──凭れていた校舎の角を曲がった向こうから聞こえてきていた。
カイルはそろりと気配を消しながら角へと移動した。
角からほんの少し顔を出して、様子をうかがう。
そこには候補生の制服を着た三人の生徒が居た。見た感じ、下級生といったところか。
どうやら話に夢中でこちらの存在に気付いていないようだ。
「ほら。一、二ヶ月ほど前に俺らの学校の生徒が馬車の横転事故に巻き込まれた事故があっただろう?」
「は? なんだよそれ」
「え、何お前、あの事故のこと知らないのか?」
「影じゃ結構有名な話だぜ?」
「詳しく教えろよ」
「ほら、隣校舎の上級生に『カイル』っていう不良っぽい感じの人がいただろう?」
不良は余計だ。
「あーうんうん」
なんで納得する?
「その『カイル』って人と、候補生校舎にいる優等生っぽい感じの『アレク』って人が、トンブル樹海で馬車の横転事故に巻き込まれたっていう話だよ」
「なんでトンブル樹海に?」
「さぁね。噂だとカイルって人がアレクって人をどこかに誘ったんじゃないかって言われている」
逆だろ、それ。どーなってんだ?
「──で、その後の処分ってどうなったんだ?」
「表向き、カイルって人は退学さ」
「表向き?」
「そう。表向き」
「噂によるとあの事故、相当すごくて学校も曖昧にせざるを得なかったらしいぜ」
曖昧に? どういうことだ?
「御者は投げ出されて即死。アレクって人は助かったらしいが、カイルって人は馬車の下敷きになって即死だったってよ」
──え? 今、なんて……?
「じゃぁカイルって人、もう死んでいるってことなのか?」
「あぁそうらしい。どっかに墓もあるって聞いた」
「マジで? それ、誰情報だよ」
「隣校舎の奴等だよ。そう噂していたのを聞いたんだ」
「へぇ」
「しかもあの事故以来、アレクって人も打ち所が悪くて頭がおかしくなったらしいな」
「でもそれは『学校が汚点を隠すためにアレクって人になんか仕組んだんじゃないか』って、隣校舎の奴等が騒いでいたぜ」
「候補生の俺達にとっては迷惑な話だよな」
「こんなんで聖魔騎士の道を取り消されたらどう責任とってくれるんだよって感じだよな」
「あーぁ。馬鹿真面目にやってらんねぇよ。なぁ?」
「候補生から外れた奴等は全員別の学校に編入すべきだよ、ほんと」
カイルは校舎の角から飛び出すと、その三人に駆け寄った。すぐにその三人の内の一人の腕を捕まえて問いただす。
「その話、詳しく聞かせてくれないか?」