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俺がアイツでいる理由。  作者: 高瀬 悠
第二章 俺の体を返してくれ
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二、俺の体を返してくれ【11】

※ お気に入り登録をしてくださった方、ご登録くださりありがとうございます。

  心からお礼申し上げます。


 夜間の外出許可は色々とトラブルに巻き込まれる可能性が高いため、担任教師の首を縦に振らせることは難しい。

 

 ダメもとでカルロウ教師に懇願したカイルだったが、カルロウ教師は意外とあっさり外出許可をくれた。ただし、定期便馬車の最終運行時間までには必ずに乗るようにとのこと。

 道のりの時間を省けば、町での用事にかけられる時間は約一時間。まぁこのくらいあれば充分だろう。

 カイルは定期便の馬車に乗り込むと、長い道のりを揺られ町へと向かった。

 目的はアレクに手紙を出すためである。



 

 町外れの停留所で馬車を降り、町へと入る。

 夜の帳が下りた町は人が閑散としており、ぽつりぽつりと家の明かりが灯っているだけで寂れたような感じだった。

 カイルは懐かしそうに夜の町を見回す。

「二年前にやった夜間警邏けいらの実技以来だな。こんな時間に町を歩くのは」

 当時のことを思い出し、カイルは笑った。

「あん時はみんなで肝試ししようって内緒で盛り上がって、警邏実技のエルダ教師を驚かせたんだったっけ」

 なぜかその後、首謀者として俺だけ教員室に呼び出されてステイル教師に怒られたんだが。

(みんな薄情だったが、ノリは良い奴らだったんだよな)

 懐かしさに浸って、思わず足が止まる。

 ハッと我に返り、カイルはふるふると首を振った。

「いかん。こんなことしている場合じゃなかったんだ」

 定期便馬車の最終運行までに用事を済ませて停留所で待っていなければ、また乗り損ねてしまう。

 二度目の始末書に怒り狂うカルロウ教師のことを想像し、カイルはぶるりと悪寒を走らせた。

 早々と郵便屋を探して回る。


 十分ほど探し回っただろうか、ようやく一軒の古びた郵便屋を見つける。

 カイルは急いでその郵便屋の扉を開け、中へと入っていった。




 夜も遅い時間のせいか、郵便屋に客の姿は無い。営業時間だったかどうかは不明だが、とりあえず明かりがついていたので、カイルはずかずかと押し入って木造のカウンターに封書を一通激しく叩き置いた。

「今日中に手紙を送りたい」

 カウンターにいた一人の小柄な老人がびくりと身を震わせる。

「そんな激しいことをせんでも、手紙ぐらい普通に出したらどうじゃ」

「…………」

 たしかに。焦っていたこともあって、今のはちょっと力み過ぎたかもしれない。

 カイルは老人に訊ねる。

「まだ営業時間か?」

「営業時間はもうとっくに終わっておる。手紙は翌日以降の配送じゃ」

「それでもいい。受け付けてくれ」

 叩き置いた封書を改めて老人に差し出すと、老人はしぶしぶとした顔で封書を受け取ってくれた。

「ん?」

 封書の表を見て、老人が怪訝に顔をしかめる。

 カイルはカウンターに身を乗り出して訊ねた。

「何か問題でもあるのか?」

「大ありじゃ」

 老人は封書をつき返す。

「こんな住所じゃ、どこに配送していいかもわからん」

「『クランク・スィ・トゥーザ・キース』って人物は有名じゃないのか?」

「誰じゃ、それは」

「木箱を作る職人なんだ」

「知らん。もっときちんとした住所を書いてもらわなければ受け付けられん」

「それじゃ困るんだよ。急いでいるんだ。一日でも早くこの手紙を届けてもらいたいんだよ。とにかくこれで配送してくれ」

「馬鹿を言うな。届くわけなかろう」

「そこをなんとか」

「手紙ぐらいでそう急ぐこともあるまい。まずは住所をきちんと調べてから──」

「俺の人生がかかっているんだよ」

「どう人生がかかっていようと配送は無理じゃ。まずは住所を──」

 バン、と。カイルはカウンターを激しく叩いて老人に言い迫る。

「そんなことは俺だってわかっている! 無理を承知で頼んでいるんだ! 手がかりがこれしかないんだよ!」

「無理じゃとわかっているなら諦めれば良いではないか」

「そこをどうにか! 頼む!」

 カイルは拝むように両手を合わせて懇願した。

 老人が渋り顔でカイルをしばし見つめる。

 しばらく沈黙していた後、

「水晶玉を使って『言の葉』を送ってみたらどうじゃ?」

 カイルは呆け顔で老人を見つめる。首を傾げ、

「『ことのは』?」

「水晶玉を通して、念じる相手に言葉を送る郵便方法じゃ」

 カイルはピンと閃く。

(そっか。それを使って直接アレクに言葉を送れば済むわけか!)

 喜々と心を弾ませ、カイルは老人に訊ねる。

「『言の葉』郵便はいくらだ?」

「六千バーツじゃ」

 なにッ!

 カイルはあまりの高値に思わず身を引いてよろけた。

「ろ、ろろ、六千バーツだと……?」

 傭兵が一人雇える金額じゃねぇか。

 老人はカイルの表情を見て感じ取ったのか、呆れるように肩を竦めた。

「まぁ無理じゃろうな。この方法を使うのは金のある貴族ぐらいじゃからのぉ」

 カイルの頬が怒りに引きつる。

「ほ、他に方法はないのか?」

「無い」

 即答され、カイルは項垂れる。

(仕方ない。住所調べて出直すか……)

 諦めて踵を返し、帰ろうとした──ちょうどその時だった。


 出入り口扉が軋み音を立てて開き、一人の黒服の男性が入ってきた。



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