二、俺の体を返してくれ【7】
「──カイルが退学しただと?」
一般生徒校舎前で、カイルは同級生──いや、今は元同級生──を捕まえて「カイルを呼んできてほしい」と頼んだら、そんな答えが返ってきた。
彼は問いかけに不思議そうな顔で頷きながら、
「え、えぇ。もう一ヶ月くらい前になるかなぁ……。退学処分通知が掲示板に張り出されていたよ」
「理由は?」
「噂によると、自主退学だったとかなんとか」
「自主退学?」
カイルの脳裏にあの時言っていたアレクの言葉が過ぎる。
『僕は聖魔騎士を目指すつもりは更々無い。それならば僕がこのまま消えて、候補席を君に譲った方が全て丸く収まる』
カイルは苛立たしく舌打ちし、拳を握り締めた。
「あの野郎……!」
「え?」
「悪ぃな、ありがとう!」
「え、あ、ちょっと!」
呼び止められるも、カイルは無視してその場を走り去った。
※
──バンっ!
激しく扉を閉め、カイルは候補生寮にあるアレクの部屋へと戻ってきた。
溜め込んだストレスを声に変えて一気に発散する。
「クソッ、あの野郎! 何でもかんでも自分一人で勝手にやりやがって!」
馬車のことだってそうだ。この体のことだって、俺はいつでもアイツに振り回されてばっかりだ。
カイルは正面を睨みつけるようにしてうめく。
「これで済んだと思うなよ、アレク。自分の体を取り戻すまでは、俺は地獄の果てでも追いかけてやるからな」
すぐに行動を開始する。
書斎の部屋へと押し入って、そこにあった机の引き出しや棚、その他にも隠し場所となりそうな全ての場所を探し回った。
「絶対どこかにあるはずだ。アイツが行きそうな場所のヒントがどこかに……」
ありとあらゆる物を開けたりひっくり返したりしてみるが、見れど開けれど全ては空っぽ。
それでもカイルは込み上げてくる煮えたぎるような感情を抑えながら、探せる場所は何度も見て回った。どんな狭い場所もあり得ないと思える場所さえも──
「ふざけんなよ、アレク。これじゃまるで俺がこうして探すことまで全部計画的に見えるじゃねぇか」
だんだん神に泣きすがりたくなるような気分で、カイルは必死に探し続けた。
「嘘だって言ってくれよ、アレク。頼むから何か一つだけでも手がかりとなりそうなモノを残していてくれ」
何度も何度も同じ場所を見て回り、そして何度目かになる書斎の空っぽとなった引き出しを再び開けて、本当に見落としていないかを確認する。
だが、どこからも何も、紙切れや傷一つすら見つかることはなかった。
開けていた引き出しを感情のまま激しく閉めて、カイルは頭を掻き掴んだ。
「このままじゃ頭がどうにかなりそうだ……」
何かの糸が切れたように、床に崩れ折れていく。
「俺の体を返してくれ、アレク……」
絶望的に呟いて、カイルは書斎机に凭れ掛かろうと──
「え、お……うわぁっ!」
書斎机の足入れの空間に凭れ掛かったらしく、カイルは書斎机の真下にひっくり返ってしまった。
足入れの奥にある壁となった部分で思いっきり頭を打ち付ける。
衝撃によってか、書斎机が数センチ横に移動した。
──それが幸運だった。
カツン、と。
真上にある引き出しの中で、何か軽いモノが落ちたような微かな物音をカイルは耳にした。