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俺がアイツでいる理由。  作者: 高瀬 悠
第二章 俺の体を返してくれ
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二、俺の体を返してくれ【5】


 階段を上り、四階へと辿り着いたカイルはフロアで一息つく。

 行く先はT字の廊下となって左右に分かれている。

「この先をたしか右に曲がるんだったよな」

 カイルは手に持っていた鍵へと視線を落とした。プレートに刻まれた文字をもう一度確認する。

「よし」

 アイツの部屋はどんな感じになっているんだろう。

 カイルは期待に胸を膨らませて歩き出し、突き当たりの角を右に曲がった。


 ──瞬間!


 出会い頭に何か硬い物と激突する。

 悲鳴を上げる間もなく、その硬い物が一気にカイルに向けて雪崩れ落ちてきて、それに押されるようにカイルは床に転倒した。


「すみません! 大丈夫ですか!」


 物腰の柔らかそうな男の声が飛んでくる。

 カイルは床に倒れこんだまま呻いた。


「だ、大丈夫なわけ……ねぇだろ……」

「ごめんなさい! すぐに退けますから!」


 雪崩れ落ちてきたのは分厚い数十冊の本だった。カイルは顔の上に乗っていた一冊の本を手に取る。黒い革表紙で作られた値打ちのありそうな古本だった。

 カイルは身を起こして、その本の題目を不思議そうに読み上げる。

 

「《魔剣の種類について》?」

「うわわわわ!」


 慌てふためく声と同時に、本はすぐに奪い取られる。

 その時になってカイルはようやく本をぶつけてきた犯人の顔を確認した。

 見覚えのある顔にハッとする。

 ふぞろいで癖のある短めの朱髪。童顔の上に細身で小柄。成績優秀だが集団行動が苦手で、少々気が弱い一面があって、昔はよくいじめられていたところを助けてやっていた。そして俺たち仲間の内ではあまり目立つことの無い存在の──


「お前……ロザリオだろ?」

「え?」


 奪い取った本を胸に、驚愕の表情を固めたまま問い返してくる彼──ロザリオ。

 同じ学び舎にいたはずの級友が、今は聖魔騎士候補生の制服に身を包んでいる。

 カイルはあの時のことを思い出した。

 そういえば事故に遭う前の授業で、候補生試験がどうとか言っていた気がする。

 カイルは彼の肩を懐かしくポンポンと叩いて祝福した。


「そっか。合格したんだな、候補生試験。おめでとう。いやぁ~お前も晴れて候補生になっちまったか。級友が一人減ってしまうのは寂しい気がするが、これになるのが夢で入学したんだから仕方ないよな。

 夢が叶って良かったな、ロザリオ」


「あ、ありがとうございます……」


 ロザリオはなぜか謙遜し、避けるように身を引いて礼を言った。

 そんなロザリオの肩を叩いて、カイルは笑いながら自分を指差す。


「なに余所余所しくしてんだよ、ロザリオ。俺だよ、俺」


 ロザリオは顔をしかめて首を傾げる。


「あの、失礼ですが……僕とどこかでお会いしたことがありましたか?」


 カイルはぴたりと笑いを止めた。

(あぁ、そうか……)

 自分がアレクの姿であったことを思い出す。

 視線を逸らして片手を挙げ、彼に気まずく謝る。

「悪ぃ。俺の勘違いっていうか、人違いだった。……ごめん」

 そう告げて立ち上がり、カイルは自分の制服についた埃を手で払った。

 ため息をついて、歩き出す。


「あの!」


 背後からロザリオが慌てた様子で呼び止めてくる。

 カイルは足を止めた。


「あなたのお名前をお聞きしてもいいですか?」

「…………」


 しばらく無言の間を置いて、カイルは背を向けたままぼそりと答えた。


「アレクだ」

「あ、は、初めましてアレクさん。これからよろしくお願いします」


 知り合いなのに『初めまして』か……。

 なんだか複雑な心境だった。

 頭を下げているであろうロザリオを直視することができず、無愛想な印象を与えたまま、カイルはその場を立ち去った。




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