二、俺の体を返してくれ【4】
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寮は候補生寮と一般生徒寮の二つある。
カイルは一旦校舎を出て運動場を通り抜け、校門を出た。
道は三つ。寮は左右二手に分かれており、もう一つの道は町へと続く道である。
自分がアレクの体である以上、強制的に候補生寮へと向かわねばならない。
カイルは候補生寮へと向けて歩き出した。
森の中の道をしばらく歩いていくと、木々が晴れ、大きな建造物が見えてきた。
「ははは。まさかアレじゃないよな?」
カイルは呆れるように笑った。まるでどこかの王宮と言っても可笑しくないくらいの、無駄に豪華で馬鹿デカイ建造物である。
ここまで道のりは一本。学校所有の敷地内である為「知らない人のお宅でしたぁー」なんてはずがない。
「信じらんねぇ……」
自分がかつて居た一般生徒寮を頭に思い浮かべながら、何かの間違いであってほしいと願いつつ、カイルはその建物の正面玄関へと歩を進めた。
この無駄に豪華な建造物はやはり間違いなく正真正銘、候補生寮だった。
両扉は開いていたので中を覗き込むように入っていけば、数人の自分と同じ制服を着た候補生を見かけた。
目が合ったので軽く会釈をしたのだが、無視するように目を逸らし、どこかへ行ってしまった。
なるほど。たしかに友達作りは難しそうだな。
納得し、次にカイルは天井から床までの隅々を物珍しそうに見回した。
豪華なのは外見だけではなかった。
シャンデリア、絵画、銅像、金細工を施された階段の手すりや飾り物の数々、大理石の床に白石柱といった、何から何まで無駄に豪華な内装だ。
貴族たちが宿泊ホテルとして使用していても不思議じゃない。
(さすが候補生寮。こういうのを品格っていうんだろうか? やはり色んな意味で俺にとっては高嶺の花だな。──ん!?)
ある場所を目にした途端、カイルはびくりと身震いして絶句する。
一言で言えば、ものすごく違和感だった。
入ってすぐの正面になぜか高級煌びやかな洒落た受付窓口が在り、そこに座っている小太りな中年女性が、愛想のない顔でずっとこちらを睨むように見ている。
「…………」
なるべくその人と目を合わせないようにして、カイルはこの寮の管理人を探した。
しばらくキョロキョロと視線をさまよわせ、そして再び目が合う。
「…………」
こちらを見つめたまま石のように動かない女性。
カイルはため息をつくと、仕方なくその女性のところへと歩き出した。
「あ、あの……」
カイルが恐る恐る声を掛けると、女性は無言で無愛想に部屋鍵をカウンターに置いた。
どうやらこの女性がここの寮母のようだ。
カイルはカウンターに置かれた部屋鍵をそっと手に取る。
その鍵と一緒につけられた白いプレート。そのプレートには意味不明な文字が刻まれていた。
それを見てカイルはゆっくりと頭を横に倒していく。
(これは暗号か?)
自然と眉間にシワが寄る。
(それにこの鍵、いったいどこの部屋のものなんだ?)
カイルは寮母に訊ねてみることにした。
「あ、あの、すみません。この鍵はいったいどこの部屋の鍵ですか?」
「あぁ?」
喧嘩腰な声で、寮母は不機嫌に顔をしかめて問い返してきた。
その威圧に戦いて、カイルは少し身を引く。そして引きつる声でもう一度訊ねてみる。
「あ、あの……こ、この部屋はいったい何階のどこに……?」
寮母は口端を歪めて吐き捨てるように笑った。
「自分の部屋がわからなくなるほども激しい事故だったんだね。同情するよ」
「い、いや、別にそういうわけでは──」
「そこの階段を四階に上がってすぐ右。突き当たり近くになるまでずっと歩いて、後はそのプレートに書いてある部屋番号を適当に探しな」
どこまでも可愛げのない寮母だった。