二、俺の体を返してくれ【2】
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(どう考えても無理だろ。俺が優等生なんてガラじゃねぇ)
カイルは自嘲した。
「何を笑っている?」
「い、いえ、何でもありません」
慌てて笑みを噛み殺す。
「アレク。お前は『自分で自分がわからない』と言ったな?」
「はい」
「わからない、か……」
カルロウ教師は吐き捨てるようにそう言って、机上にペンを投げ置いた。
「まるで隣校舎のカイルとかいう堕落生徒みたいだな」
ぎくり、とカイルは心臓が止まりそうになるくらい驚いた。
(まさかもう正体がバレたか?)
「これだけ私に迷惑をかけておきながら反省を口にしないその態度。あの堕落生徒にそっくりだ」
事情を話そう。きっとこの教師なら理解してくれる。
カイルはアレクと体が入れ替わっていることを説明することにした。
「カルロウ教師。実は俺──」
「悔しくないのか? アレク」
「……え?」
何が? カイルは首を傾げる。
「あの堕落生徒と比べられて悔しくないのかと訊いているんだ」
「…………」
カイルはがっくりと項垂れた。言葉を返す。
「はい。悔しいです」
「そうだろう」
自分の正体に気付いてもらえなくて。と、内心で付け加える。
カルロウ教師は机上に置いていた分厚いノートを軽くバンバンと叩いた。
「だったら、これだけの反省文が書けないはずがない」
「だから書けませんって。そのノート一冊分なんて」
ノートはやけに分厚かった。いや、これはノートというより辞書といった方が正しい。
カルロウ教師は首を振って言葉を続ける。
「いいや、お前なら書けるはずだ。堕落生徒と比べられて本当に悔しいと思っているなら、このくらいは書けるはずだ」
「いえ、書けま──」
「書け」
「はい」
結局は気圧されてしまった。
しぶしぶ辞書と言っても過言ではないノートを受け取る。
「提出期限は明日までだ」
「は?」
何のイジメですか? これは。
カルロウ教師はさらに眉間にシワを刻ませた。
「聞こえなかったのか? アレク。明日までに提出しろと言っているんだ」
「無理です」
即答で断る。
カルロウ教師の片眉がぴくりと吊り上った。
「無理だと?」
「はい」
「今まで出来たことがなぜ出来ない?」
カイルは首を傾げた。
「今まで?」
「そうだ。今までは次の日にきちんと提出してきたじゃないか」
どんな化け物だよ、アレク。
「俺には無理です」
「俺?」
「あ、いや、じゃなかった。僕には無理です」
カイルは慌てて訂正する。もう無理だ、限界だ。頭のレベルが違い過ぎる。優等生なんて、とてもじゃないが演じきれる自信がない。