二、俺の体を返してくれ【1】
思えば、約一ヶ月半ぶりの学校だった。
森に囲まれた広大な敷地には六階建ての校舎が三校舎あり、右から候補生校舎、教員校舎、一般生徒校舎が運動場を囲むように建ち並んでいる。
そしてその校舎の外周を、いくつもの巨大な演習場や室内訓練施設、何万人と収容できるほどの大きな闘技場がぽつりぽつりと建っている。
カイルは校門から運動場へと足を運び、中心で立ち止まって周囲をぐるりと見回してみた。
長い期間休んだせいか、こうして改めて見ると入学してきたあの頃を思い出す。
「なんか、懐かしい気がするなぁ……。在学生なのに」
今は授業中のせいか、やけに物静かで、人の姿を見かけない。授業中にアレクを連れ出すのも何だし、アレクとは放課後にでも会ってじっくり話すことにしよう。
カイルは一般生徒校舎の最上階を見上げた。
仲間と過ごした思い出が蘇る。
(みんなどうしているだろうか……)
カイルはすぐに頭からそのことを払う。
(こんな姿で誰にどう話せっていうんだ?)
この姿で会っても仕方がない。変な奴だと思われるだけだ。
「まずは教員校舎だな」
退院したことを報告しなければならない。カイルは教員校舎へと向け、歩き出した。
しばらく歩いて、立ち止まる。
「……あれ? アレクの担任教師って、いったい誰だ?」
※
久々の学校。
久々の教員校舎。
久々の教員室。
久々の教師たち。
久々の……
「──ですから、反省文を書けと言われましても、俺……じゃなかった、僕自身どう書いていいかわからないんです」
「自分がやったことは正当であると、そう主張したいんだな? アレク」
「い、いえ、そういうわけではなく……そのぉ……」
こつこつこつこつこつこつ。
机上でペン先が一定のリズムを刻む。その音がやけに耳障りだった。
アレクの担任である中年男性教師──カルロウ氏はとても苛立っていた。眉間にシワを刻んでカイルを睨み、今にも怒鳴らんとばかりの表情である。
机横に立たされて軽く二時間は経過している。その内容というのはもちろん今回起きた事故に巻き込まれた理由とその反省文。なぜ定期便の馬車に乗らなかったのかと訊かれると、すごく耳が痛い。
(なんで俺が反省なんだよ……。先に言い出したのはアイツなのに)
声を大にして叫び訴えたいこの気持ち。──全てはアイツが悪いんです!
「ですから──」
「校則違反を犯しておきながら反省文が書けない。それはつまり『この件は正当である』と、そう主張したいんだな?」
「いや、えーっと……。なんと言いますか。俺、いや僕自身、なぜあの時このような不可思議な行動を起こしたのか、自分で自分がわからないんです」
いつもなら「ま、落ちこぼれですから」と反省して、教師の呆れ顔を見るだけで終わるのだが、他人から見れば自分はアレクである。今着ているこの高級な黒の軍服は候補生の証。そう、アレクは聖魔騎士候補生なのだ。候補生と言えば、それに選ばれなかった生徒からすれば憧れの存在であり、良き見本となる優等生でなければならない。
(卒業まであと一ヶ月半。──いや、自分の体を取り戻すまでの間。俺はアレクという優等生を最後まで演じきれるか?)