一、託された願い【17】
◆
──翌日。
「退院?」
思いもよらない言葉にカイルはベッドに座ったまま呆けた顔で問い返した。
ラフグレ医師が笑顔で、
「えぇ、そうです。嬉しいでしょう? ようやくここを出られて」
その言葉にカイルはラフグレ医師の胸倉をワシ掴んだ。
「んなわけねぇだろ。こんな状態で退院できて嬉しいと思うか? どうすれば元の姿に戻れる?
──ってか、それ以前に俺の体はどこへ行った?」
「さぁ? それは僕にもよくわかりません」
わざとらしい笑顔で惚けてみせるラフグレ医師にカイルは苛立ちを覚えずにはいられなかった。
「『わかりません』じゃねぇだろ! 俺の体の中にアレクがいるはずなんだ! それを今すぐ出せ! とっとと出せ!」
「そう言われましても……。僕は魔法使いじゃありませんし」
「ふざけてんじゃねぇ! アイツはどこに行った? アレクは一体どこにいるんだ!」
ラフグレ医師はスッとカイルを指差し、
「僕の目の前にいますけど……」
「…………」
たしかにその答えは間違っていない。間違ってはいないのだが──
カイルはさらにラフグレ医師の胸倉をぎゅっと掴み挙げて言った。
「ふざけるのもたいがいにしろよ、このヤブ医者」
「そう言われましても……」
「だいたいてめぇがのらりくらりとくだらねぇ質問ばっかしてっから、こういうことになるんじゃねぇか」
「そう言われましても……」
「もちっと早くこのことを教えてくれていれば、俺がアレクをとっ捕まえて──」
ラフグレ医師が「ふぅ」と疲れたようにため息をついてお手上げする。
「──で、僕にどうしろというのですか? もう終わったことじゃないですか。それを今更どうこう」
カイルはラフグレ医師の胸倉をぐっと引き寄せると、ドスのきいた声で言い迫った。
「誰のせいでこんな状態になったと思っているんだ? えぇ?」
やれやれとラフグレ医師はお手上げ状態のまま首を横に振り、
「『教えろ』というから親切に教えてあげれば返ってくるのは暴言暴力。
僕にどうしてほしいんですか? 僕にできることは全てやってきました。もうこれ以上は──」
「だからって中途半端過ぎるだろ、この状態!」
あぁそのことなら。と、ラフグレ医師はポンと手を打つ。人差し指を立てて笑顔で、
「見た目を気にしなければ大丈夫です」
「アフターケアにもなってねぇじゃねぇか!」
「じゃぁ、記憶でも消してみますか?」
気軽に提案してくるラフグレ医師に、カイルは射殺すような目で凄んだ。
「『じゃぁ』ってなんだよ、『じゃぁ』って。ふざけてんのか? 真面目に答えろよ」
「困った患者さんですね。僕にいったいどうしろというんですか?」
「アレクを……いや、俺を──カイルを今すぐここに連れて来い」
「それは無理です」
「なんでだよ!」
「ここに連れて来られても、僕にいったいどうしろというんですか?」
「医者がさじ投げてどーすんだよ!」
「そう言われましても……困りましたね。あ、そうだ。とりあえずアレクと相談なさってみてはどうです?」
「な、なんだよ、いきなり。お前やっぱりアイツの居場所を知っているんじゃねぇか」
「えぇ。ただし条件があります」
「なんだよ、条件って」
「アレクをここに連れてこないと約束してくださったら教えます」
「あぁ、わかった。連れてこない」
「わかりました。では教えます。『アレクは学校に戻った』と聞いております」
「よし、わかった。アイツと相談すればどうにかなるんだな?」
ラフグレ医師は首を傾げる。
「さぁ?」
「『さぁ?』ってなんだよ。言い出したのはお前だろ?」
「まぁそうですけど……」
「ん? 待てよ」
「はい?」
カイルはラフグレ医師から手を離すと、そのまま顎に手をやり考え込んだ。