運を喰らう
私の祖父は兵士だった。
祖父以外が全滅した悲惨な戦場で生き抜き、最後には大切な情報を持ち帰り祖国を勝利に導いたのだ。
「よく覚えておけ。人は死んだら身体に溜まっていた運が吐き出される」
祖父は講演でよく語っていた。
つまり、人の身中には運が宿っており、死ぬと同時にそれが宙へ吐き出されるのだという。
「泣いている暇などない。それを喰らうことで自らの運を上げるのだ。そうすれば自身の運は向上する」
滑稽な作り話としか思えない。
しかし、祖父の言葉はただ一点のみで真実味を帯びる。
「嘘ではない。なにせ、俺はあの戦場から生き残り国を勝利に導き――今、英雄として語られているのだから」
そう。
英雄。
祖父はあの悲惨な戦場を生き残り、祖国を勝利に導いた英雄だ。
故にこそ祖父の運の理論は真実、いやこの世の真理として語られているのだ。
――その経緯だけ、少し脚色されて。
*
祖父が亡くなる折。
祖父は私にだけ真実を告げた。
「運は喰える。そう思ったとき、一つの考えが浮かんだ」
祖父は兵士だった。
故に多くの人を殺した。
「生き残りたくて仕方なかった。故に――」
だが、祖父自身の最後の殺害は。
戦争であっても許されるものではない無垢の虐殺であったことを知るのは最早、私だけだ。
祖父の戦った敵国にはかつて存在していたはず多くの村は残っていない。
戦争とはそういうものだから――。




