27.てっぺん岩
鬱蒼としたウールユーバの森の中の、なぜかそこだけぽかりと開けて草地になっているところに、昔から奇妙なそれ、はあった。
それ、というのは……草地のちょうど真ん中あたりの、少しばかり窪地になっているところに、まるで巨人が土をこねあげて造ったかの様な、土と岩で出来た巨大な柱がにょっきりと空に向かってそそり立っていて、さらにそのてっぺんには、これもどういったわけか、大きな岩が今にも落っこちてきそうな様子で危なっかしく乗っかっている、といった何とも妙な眺めであった。
ウールユーバの森の近くに住む人たちは、その土柱の上に乗っかている大岩の事を“てっぺん岩”と呼んでいた。
そしてその“てっぺん岩”が落ちるところを見た者は、大きな幸運に恵まれるだの、はたまた“てっぺん岩”が落ちてしまったら、“この世の終り”がやって来るだのと、それぞれに噂をしていた。
しかし、これまでにどんな嵐にみまわれても、“てっぺん岩”が柱から落ちる事はなかった。
土の柱を見上げれば、今に落ちてきても不思議ではないくらいに、大岩はとても不安定な様子で柱に乗っているのだが。
ウールユーバの森の近くの、スガドの街の偉い学者先生が言うところによると、
『ここは大昔は丘になっていて、上に乗っていた大岩の真下の部分だけを残して、丘の土砂が風雨に“浸食”されて、この様な姿となった』
という事ならしかったが、しかし、ウールユーバの森の近くに住む人たちには、そんな事はどうでもいい事だった。
彼等は、昔から、“てっぺん岩”を支える土の柱の中は実はがらんどうになっており、そこからは地下の妖精たちの国へと行ける様になっていて、“てっぺん岩”はその地下の妖精の国に人間が入り込めないように柱のてっぺんに置かれている“蓋”であり、そして満月と新月の夜には、柱の蓋の“てっぺん岩”が押しのけられて(とはいってもそれが一体どうやって押しのけられるのかは謎なのだが)、たくさんの妖精たちが地上に出てきては、“でっぺん岩”の周りの草地で夜の間ずっと、ダンスをしたりして騒いでいるのだ、と信じていた。
そして、“てっペん岩”の周りの草地や、ウールユーバの森の近くの草地や麦畑で時々見かける、円と線が複雑に絡み合い、不思議な模様を描いて草が踏み倒された様になっている“フェアリー·サークル”は、その、妖精たちが夜通しでダンスをした跡だ、と。
そしてある日。
「ねえっ、デッシィ!」
ウールユーバの森の近くに住んでいるシュメンドリックじいさんの、老雌馬のデッシィのところに、その、ウールユーバの森の妖精のうちの一人(?)、ティッピがやって来て言った。
ティッピは、なぜかデッシィの耳の中で眠るのが好きで、よくデッシィの馬小屋に遊びに来るのだった。
「“てっぺん岩”の話って、ホントなのかなぁ?」
ティッピは興味津々、といった様子で、くるりとデッシィの周りを飛び回ると言った。
(本当なのかなぁって)
そのティッピに、デッシィは言った(とはいっても、それは人聞の耳には、“ブルルン、ヒヒン”といった、ただの馬の嘶きにしか聞こえないのだが)。
(あの中には、あんたたちの“妖精の国”があって、あんたたちはそこから来てるんでしょう??)
「え?あーんなの、人間たちが勝手に噂してる嘘っぱちだよお。僕たちが住んでるのは、ウールユーバの森の中だもん。“でっぺん岩”の下にある“妖精の国”なんて、僕たち、今まで見た事も行った事もないよ?」
(へえ……そうなの。じゃあ、あの話は、人間の作り話なのね?)
ティッピの言葉に、デッシィは少しばかり意外そうに言った。
「うん、だからね」
ティッピはスイ、とデッシィの頭の上に舞い降りて、彼女のたてがみの中に寝ころんだ。
「それがホントに作り話なのか、そうでないのか、確かめてみたいなぁって、思ってさ」
(確かめるって……どうやって?)
「“てっぺん岩”をどかしてみればいいんだよ。ちがう?」
(そ、そりゃあそうだけど……)
ティッピの言葉に、デッシィはなるほどもっともだ、とは思った。が、
(でも、どうやって?)
「うん。だから、それだよ、それ!それをね……」
ティッピは言った。
「デッシィにやってもらおうと思ってさぁ」
(え、わ、私が?)
デッシィは思わず大きな鼻息をたてて頭を振り、ティッピを振り落としそうになった。
(駄目よ、無理に決まってるでしょう?)
「そうかなぁ」
その彼女に、ティッピは無邪気に言った。
「デッシィなら、僕たちが百人や二百人集まった以上の凄い力が出せるじゃない?きっと大丈夫だと思うんだけどなぁ」
(何言ってるの、無理よ、無理。だいたい“てっペん岩”がどれだけのものか、知ってるの?私も近くで見た事はないけど……牽き動かすには、働き盛りの雄馬が何頭も要る様な大岩なのよ、あれは)
「え、そうなの?」
ティッピは意外そうに言った。
「僕、デッシィなら、大丈夫だと思ったんだけどなぁ」
(駄目よ。私だけで動かせる様なものじゃないの)
「でもぉ、あれってぇ」
ティッピはまだ諦めきれない様子で言った。
「あと、ほんのひと押しで、あの柱の上から転げ落ちそうじゃない?だからぁ……デッシィがあの柱の上に登って、ほんのひと蹴りするだけで、ゴロンゴロンって、落っこちるんじゃ、ないのかなぁ?」
(ま、まあそう言えばそうだけど……)
「あの岩の下には“妖精の国”があって、そこにはもっのすごーい、宝物がいーっぱいあるって……話なんだよねぇ?僕、それがホントかどうか、知りたくてさぁ」
ティッピは、“てっぺん岩”の下で山積みになっている宝物を想像しながら、何やらわくわくとした表情を浮かべた。
「もしその話がホントで宝物が手に入ったら、デッシィだって、毎日もっとおいしい上等な飼葉が食べられるようになるよ?」
(…………)
その言葉に、デッシィは思った。
妖精や人間とはちがって、彼女は別に、宝物なんてものは欲しくはなかった。
が、そういった価値のあるものならば、デッシィの……彼女の飼い主のシュメンドリックじいさんにとっては、大変助かるものではあった。
彼女の飼い主のシュメンドリックじいさんの家ときたら、このウールユーバの森近辺の家の中でも一番のおんぼろ小屋で、暮らし向きの方もさっぱりなのだった。
だが家だけではなく、暮らし向きの方も傾いているとはいっても、じいさんは、すっかり老いてしまったデッシィの事を、今でも大事にしてくれていた。
『ロクに荷車も牽けなくなっちまったあんな馬なんざ、ただのムダ飯食いだろうに。さっさと潰して革にすりゃ、ちょっとした銭にはなるだろうが。て言っても、あんな老いぼれの革じゃあ、さぞやたるんだ革にしかならねえだろうがよ。ハッハッハッ!』
などと、意地の悪い者にそういったことを言われるたび、じいさんは、
『若いの。あの馬はなあ、あんたがまだ母ちゃんのおっぱいにぶら下がってた頃から、今までずーっとわしと一緒に、きつーい仕事をしてきたんだぁよ。老いぼれになっちまってから楽隠居したって、罰は当たんねえやな』
などと、さすがに年季だけは充分に入った憎まれ口をたたきかえして、本当ならば、相手の言うとおり、家畜としてはとっくに“処分”されていてもおかしくはない、年老いたデッシィを家においているのだった。
(宝物……そうねえ)
じいさんの事を思い、デッシィは少しばかり考えた。
“てっぺん岩”の下にある宝物、なんて、それこそ人間の作り話なのかもしれないが。しかし……
と、いうわけでその夜。
デッシィはティッピが“てっぺん岩”の事を忘れないうちに(何せ妖精たちときたら、色々な事に次から次に興味を惹かれて、すぐに物事を忘れてしまうので)彼女らはじいさんが眠ってから、連れ立って、“てっぺん岩”のある、ウールユーバの森の草地へと行ってみる事にした(デッシィはいつでも自由に馬小屋を出入りする事ができた。なぜなら、シュメンドリックじいさんは、鶏や山羊の番は、デッシィよりももっとよぼよぼの雄犬のジョッグにまかせきりで、デッシィときた日には、彼女は朝には自分で馬小屋から裏庭へと出て、日が暮れると、やはり自分で馬小屋へと入ってゆくので)。
「他のやつらも誘ったんだけどさ、あいつらってば、『魔物が出てきたら大変だから』って、恐がってついて来なかったんだよ」
ティッピは、自分の仲間たちの弱虫ぶりを、一人でぷんすかと怒りながら言った。
が、昼間でさえ鬱蒼としているウールユーバの森の中は、夜ともなるといっそう不気味な事は確かだった。だから、時々、夜鳴き鳥が怪声をあげてどこかへ飛びすさり、暗く静まりかえった木々の黒い影が、風にざわざわと鳴る様子を目のあたりにして、さすがにティッピも気味が悪く思いはじめた。
「でも……やっぱり、夜の森の中はちょっと気味が悪いや。魔物なんかがホントに出てきたら……どうしよう?」
ティッピは怪しげな森の中のあちこちをながめ、少しばかり不安そうに言った。
(大丈夫よ。その時は、走って逃げれば)
デッシィは言った。が、彼女は自分の足には、もうとっくに自信を無くしていたのだが。
(でも、あんたたちってば、いつもこの森の中で遊んでいるんでしょう?それなのに気味が悪いの?)
「え、ちがうよう」
それにティッピは言った。
「僕たちが夜の間騒いでいるのは、もっと月明かりの差し込む、明るい原っぱなんかだよ。こーいう、くっらーい、陰気なところに来たりなんかしないもん。こーいうところには、ホントに魔物がいたりするから。そーいうのに捕まったが最後、精を抜かれて、灰にされちゃうもの。魔物たちはね、僕たちや、他の生き物の“生命の精”を食べて生きてるんだよ」
(へーえ……)
じゃあ、早くこんなところからは抜け出さないと、とデッシィは足を早めた。
そして。
彼女らは“てっぺん岩”の元へとやって来たのだが……
“てっぺん岩”にたどりつくため、“てっぺん岩”が乗っている土の柱を、デッシィが登ってゆくのは不可能だった。何せ、土の柱は地面とほぼ垂直にそそり立っているので。
なものだから……デッシィが柱を登り、柱の一番上で“てっぺん岩”に蹴りを入れる、というのはとうてい無理な話のため、デッシィは“てっぺん岩”の乗っている、土柱の地面近くの根本を後足で蹴飛ばしたり、体当たりをしたりする事にした。
「わっ、すごい!ほら、デッシィがちょっと蹴飛ばしただけで、こんなにぐらぐら動くよっ?!」
デッシィが蹴飛ばしたり、体当たりをしたりするたびに、大きく揺れる“てっぺん岩”に、ティッピは歓声をあげた。
「ほら、もっと!もっと強く蹴飛ばして!!」
老いた身体で、必死に奮闘している彼女の苦労も知らずに、ティッピは騒ぎたてた。
と、ついに、
ティッピが騒ぎながら見守っているなかで、“てっぺん岩”はぐらり、と大きく傾き……轟音を轟かせながら、地面へと転がり落ちていった!
「わあっ!」
ティッピとデッシィは目を大きく見開け、“てっぺん岩”が柱の上から一直線に転がり落ちてゆくのを見つめた。そして落ちていった“てっぺん岩”は、そのまま、下に広がる草地をゴロゴロと転がって、草地の端に生えていた樫の大木の根元に、ドォン、と音を立ててぶつかり、大木を大きく傾かせて止まった。
「わ、わぁあぁーーーっっ!!?」
ティッピはそれを、あんぐりと大口を開けて見つめた。そして次に、思い出したかの様に、デッシィのたてがみを掴んで言った。
「ねえっ、やったよ?!“てっぺん岩”、落っことしたよ!!で、あれのあったところに“妖精の国”への入口ってのが……」
ティッピはツイ、と飛び立って、土の柱の、“てっぺん岩”が乗っていたあたりを見に行った。
だがそこには、
“妖精の国”への入口、なんてものは……無かった。
ただ、“てっペん岩”が乗っていた形に、窪んでいるだけだった。
それに、ティッピは不思議そうな顔をして、くるりと柱のあたりを飛び回った。
「入口、入口……?おっかしいな。どこかに……秘密の入口でもあるのかな?」
ティッピは“てっぺん岩”が乗っていた窪みを見つめた。
そして、その窪みのところに何か、キラリと光るものを見つけた。
「あれ、何だろ?」
ティッピは光るものがあるところへと降り立ち、その、光るものを手にとった。
それは……ガラスの様に透明な、小さな石だった。が、その透明な石は、ガラス玉よりももっとキラキラとよく光っていた。
「へえ、これ、綺麗だな。いろんな色に光って……あっ、こっちにもある!」
ティッピは同じように光る石を窪みのあちこちに見つけ、それをいくつか拾った。
「ねえっ、デッシィ、これって……」
ティッピは拾った光る石を手に、デッシィのところへと舞い戻った。
と、その時。
傾いた樫の大木の根元の、“てっぺん岩”が、ウォォォン、という何やら不気味な音をたてはじめ……
それから何と、宙にふわりと浮かんで
ゆっくりと、デッシィとティッピのところへと飛んできた!
(?!!)
「うっわぁあぁぁーーーっっ?!!!」
それに彼女らは再び目をむいた。
が、その彼女らに、どういったわけか、ご丁寧にも“てっぺん岩”の中から、
『そこのかたがた。危ないですよ。もう少し離れていて下さい』
などという声が聞こえてきて、そしてそのまま
“てっぺん岩”は、元の土の柱の上におさまった。
「…………」
これにはさすがにティッピでさえも言葉を無くし、目を丸く見開けたまま、その様子を眺めているばかりだった。
そして、
「そこのかたがた」
気がつけばいつのまにやら、元の位置に戻った“てっペん岩”の上に小さな人影が立って、彼女らをじっと見下ろしていた。
「困りますね。あんな無茶をされては。いったい何だって、あんな事をなさったのですか?またぞろ、あなたがたの間で噂されているとかいう、“妖精の国”への通り道でも見つけようとして、ですか?」
「え?」
(…………)
デッシィとティッピは、その小さな人影を見上げた。月明かりのなか、見れば……それは、異様に青白い肌をした、人間の小さな子供ほどの大きさで、きゃしゃな体格の、そして身体のわりには、大きな頭をした者だった。
「ご、ごめんよ」
それにティッピは言った。
「ちょっと興味があったもんだからさ……」
ティッピは、その“てっぺん岩”の上に立つ、青白い肌の小人(?)の元へと飛んで行った。
「“妖精の国”への通り道なんてものは、ここにはありませんよ」
それに小人は言い、自分の周りをくるりと巡ったティッピの姿を、白目の無い、つり上がった大きな黒い瞳で見つめた。
「ここにあるのは……」
「え、でも、これがあったよ?」
ティッピはさきほど拾った透明な石を見せた。
「ああ、それは」
ティッピが手にしている石を見つめて、小人は言った。
「あなたがたが言っている、宝物などという物ではありませんよ。それは、我々が物を切断するために、炭素を圧縮して作った人工物です。見かけは宝石に似ていますが……」
「ふーん。でも、これ、綺麗だよ?もらっていい?」
ティッピはキラキラと光る透明な石を見つめて言った。本物の宝石であろうがなかろうが、妖精にとっては綺麗なものなら、何でもいいのだった。
「ええ、どうぞ。このあたりに落ちていたものなら、いくらでも」
小人はうなずいた。
「わあ、ありがとう!」
それにティッピは大喜びして言った。
「ねえ、デッシィ、見て!ほら、これ、綺麗でしょ?デッシィにもあげるからね!」
ティッピはデッシィの元へと飛んで来ると、彼女にもその石を見せた。そして、
「で、きみはこれの中に住んでるの?この、“てっペん岩”の中に?きみってば……“穴小人”なの?」
こういった綺麗な宝石をたくさん持っているのは、たしか小人族だったよな、と思いながら、ティッピはたずねた。
「いえ、我々は、あなたたちの様な妖精や精霊ではありません。我々は長期星間航行用に製造された、人工生命体です。また、我々はこの中に住んでいるわけでもありません」
小人は言った。
「これは……私たちの“乗物”なのです」
「乗物……?」
「ええ、小型探索艇なのです。これは」
「こっ、こがた、たんさくて…い……??」
小人の言った言葉が、ティッピには一体何の事やら、さっぱりわからなかった。そしてデッシィにも。
「ええ、そうです」
が、きょとんとしている彼女らにはおかまいなく、小人は言った。
「ですからあんな手荒な事をされては、また壊れてしまいます。最近、やっと調子よく動くようになってきたところだというのに、また壊されたのでは困ります。やめて下さい」
「壊れる?“てっぺん岩”が?へえ??で、きみはここでいったい、何をしてるの?宝物の他に、何か探してるの?」
「我々は別に、ここで何かを探しているわけではありません」
小人は言った。
「我々はずっとここで……我々の“星船”の修理をしてきたのです」
「せ、せい、せん??」
今度の言葉も、デッシィとティッピには、さっぱりわからなかった。
「ええ」
しかし小人はまたも一人でうなずいた。
「我々は今までに、宇宙図の作成のために色々な星域を調査して、そしてここへとやって来たのです。しかし……この惑星の大気圏に突入した時に星船の反重力動力制御に不具合が生じて可動不能になってしまい、ここへと墜落してしまって、以来、ここにとどまっているのです」
デッシィとティッピには、小人の言っている事が、ますますもってわからなかった。
「しかし、幸い私たちの船の破損は修復可能なものだったため、船はまた飛び立てる様になりました。あなたがたが“フェアリー·サークル”と言っている、あの、草の上の模様は……実は私たちがこの小型探索艇や、星船の推進装置の試運転をした時に出来るものなのです」
(じゃあ、あれって……あなたたちが作ったものだったの?)
デッシィは言った。
「ええ」
小人はうなずいた。
「へえーっ!」
それに、ティッピは無邪気に目を輝かせた。
「そうだったんだ?!人間たちは、あれは僕たちが作ったものだって言ってるんだけどね。そりゃあ、僕たちが原っぱで夜通しダンスをしたところには、いつも小さな輪が出来るんだけどさ。あーんなに大きな、すごい模様のは、いくらなんでも僕たちには描けないから、いったい誰が作るんだろうねって、前からみんなで言ってたんだよ。ねえっ、よかったら僕たちにもあれの作り方を教えてよ。僕たちも作ってみたいからさっ!今度みんなで、うーんとすごいの、作ってみたいなあ」
「いいですよ」
それに小人は苦笑しながら言った。
「でも、作り方をわざわざお教えしなくとも、あなたがたの超自然の力でも、あれを作ることは可能でしょう。反重力や磁場制御の力でなくともね。この草地のあちこちには、基本になる模様のいくつかが残っているので、それを参考にしてみてください。ところで……ひとつ、お聞きしたい事があるのですが」
「え?」
(?)
「よろしければ、教えて下さい」
小人は言った。
「もしあなたがたが……それまでちゃんと連絡のとれていた家族と、ある日、連絡がとれなくなってしまったら――あなたがたなら、どうされますか?」
「れんらく?」
(連絡が……とれなくなったら?)
ティッピは小人の言葉に再びきょとんとなったが、今度はデッシィには、小人の言っている意味がわかった。
(そりゃあ……心配よね?)
デッシィは言った。
(それって……家族がいったいどうなっちゃったのか、わからないって、事なのでしょう?)
「ええ。そうです」
小人はうなずいた。
「で、もしそうなってしまったら……あなたなら、どうされますか?」
(そりゃあ……だから、心配になって……家族の様子を見に、家に帰るわよ?普通なら、そうするでしょう?)
「…………」
デッシィの言葉に、小人はデッシィを見つめ、何事かを考えた。
「そうですよね……そう判断しますよね。そう思う事はやはり当然の事なんですよね?」
(?)
「ああ、いえ、ありがとうございます。あなたの判断を聞かせていただいて。とても参考になりました。これで……自分の判断が間違いではない事に、自信がつきました」
(ここへ来て……あなたの大事な家族から、連絡がこなくなってしまったの?)
デッシィはたずねた。
「ええ。まあ、我々の場合は、家族、というよりは、母星……生まれ故郷との連絡が取れなくなってしまったのですが」
(…………)
「我々がここへと墜落してしまった時」
小人は言った。
「動力が停止してしまったため、通信機器も可動しなくなり、母星との連絡が取れなくなってしまって……それから、私たちの手で船を復旧させるには、この惑星での時間で何年もの時間がかかってしまい――やっと通信機器が元通りに可動する様になった頃には、どんなにこちらから呼びかけても、母星からの返答は来なくなってしまっていたのです」
(何も言ってこないの?)
“つうしんきき”とか何とかいう物の事が一体何の事か、デッシィとティッピにはさっぱりわからなかったが、生まれ故郷との連絡が取れなくて小人はとても困っているらしい、という事は彼女らにもわかった。
「はい。何も。そしていまだに。私たちの母星は、私たちがどんなに問いかけても、沈黙したままなのです。そしてそういった、事故に遭ったり、母星からの指示が途絶えたりした場合は、“乗組員救助を優先とした、その場に応じた、臨機応変な対応で行動する”、というように私たちは条件設定されているのですが……しかし私には、その“臨機応変な対応”というものが、一体どんな判断内容のものが“正解”であるのかが、よくわからないのです」
小人はため息をついて、うつむいた。
「ここへと墜落した時、まずは乗組員救助を優先とした対応をして、次には、星船の修復にも努めました。船はもうとっくに飛び立てる状態にあります。
しかし……その先をどうしたらいいのか、私にはわからないのです。このまま、墜落する以前の任務を続行すべきなのか、それとも連絡が途絶えてしまった母星の様子を確認するべきなのか」
「気になるならさ」
ティッピは言った。
「いちど帰ってみたらいいじゃない?」
(そうね)
デッシィも言った。
(やりかけの仕事が気になるのもわかるけど、でも、自分の家の事も気になるのなら、いちど帰ってみるべきよね?)
「…………」
その言葉に、小人は、何かを決めた様にうなずいた。
「よくわかりました。私たちの様な人工生命体よりも、あなたがたの様な、原種生命体のほうが、こういった大局的な判断を、より正しく判断できるものなのですね」
(?)
「?」
が、デッシィとティッピには、また小人の話の内容がわからなくなってしまった。
「ああ、あなたがたにお聞きしてよかった」
しかし、小人はまたもひとりで納得して言った。
「ここに墜落した後、私は唯一生き残った論理判断部位であるのに、これからの我々の行動内容を決定する事が出来ずに、ずっと困っていたのです。本当にありがとうございます。……では、どうかお元気で」
と、そう言うと、小人は“てっペん岩”の中へと、姿を消した。
「あれ、もう行っちゃうの?……ばいばーい!」
ティッピは小人に元気よく手を振った。
「綺麗な石、ありがとーっ!」
(あなたもお元気で)
そしてデッシィも言った。が、
(ねえ)
小人の姿を見送ってから、デッシィはティッピにたずねた。
(で、あれって……あんたたちの仲間じゃあ、ないの?)
「うん……」
ティッピはうなずいた。
「“穴小人”に似てなくはないけど……あれは、何だか、僕たちの知ってる小人たちじゃ、ないなあ??」
じんこう……せいめいたい???
デッシィには、やはり何の事やら、さっぱりわからなかった。
と、ふと気付くと、
“てっぺん岩”の中から……いや、“てっぺん岩”を支えている土の柱や、その地面のずっと下からも、何やら、ゴトゴト、ゴウンゴウン、ドドドドド、という、奇妙な唸る様な音が響きはじめていた。
それに、デッシィとティッピは、また“てっペん岩”が動きだすのかと思い、あわてて逃げだした。
そしてその夜更け。
ウールユーバの森の中から、突如轟音を轟かせて、三つの物体が空へと飛んで行った。
まずはじめには、“てっぺん岩”くらいの大きさのものが。そして二番目には、“てっぺん岩”を支えていた柱くらいの、葉巻の様な形のものが。そして最後には……
他の物とは比べようもないくらいの、巨大なものが。
夜が明けてから、ウールユーバの森の周辺に住む人々が、おっかなびっくり、それらが飛んで行ったあたりに来てみると――かつて、“てっぺん岩”があったあたりには、なんとも恐ろしいくらいの巨大な穴が空いていて、やってきた人々をさらに仰天させた。
その人々の中には、もちろん、シュメンドリックじいさんもいた。そして、
「あんれ?」
ウールユーバの森の大騒動見物から帰ってきて、じいさんがのんびりとデッシィの飼葉桶に飼葉を入れていると……飼葉桶の底に、何かキラリ、と光るものがあった。
「何だぁ?」
そう言いながら、じいさんはその光るものを手にとって見つめた。そして、
「ガラス玉かぁ?危ねえな、こんなもん、デッシイが食ったりしたら……にしても、なんだか、えれえ綺麗なもんだなあ??」
じいさんは、デッシィがティッピに、飼葉桶に入れてくれるようたのんだ、小人からもらった透明な石をしばらく珍しそうに見つめた後、部屋へと持って行き、暖炉の上に飾っておいた。
と、それからしばらくして、じいさんの家に、じいさんが作った山羊のチーズやバターを買いつけにやってきた行商人の男がその石に目をとめて、“このあたりで一番の目利き”と自称するその男は、これは“金剛石”という宝石で、大人の親指ほどもあるこの大きさなら、街の宝石店に持ってゆけば、とんでもない値がつくものだ、とじいさんに言った。
が、じいさんはそれに大笑いして言った。
「馬鹿言うでねえよ。こりゃあ、うちの馬の飼葉桶の中にあったただのガラス玉だで。そったら値打ちのあるもんであるはずがねえだろが?」
(あーあ)
それにデッシィは思った。
(本当に、あの石がそんなに値打ちのあるものなら、どうにかしてそれをおじいさんにわからせてあげたいんだけど。これじゃあ……“宝の持ち腐れ”ねえ)
そして同じくティッピの方はというと……ティッピはしばらく、透明で綺麗な石を自慢げに仲間たちに見せ回ってはいたものの、そのうち、どこかへ石を仕舞ったまま、石の事などきれいさっぱり忘れてしまい……そのまま、どこかに無くしてしまった。
しかし、ウールユーバの森の近くに住む人々は、森の真ん中に空いた大穴の事を、またも噂して言うのだった。
『妖精たちが宝の山を、国ごと引っ越しさせた跡』と。




