第91話
『あのね、今はそんなことしている場合じゃないでしょ? 澄に海のことを聞いて、……それから僕たちがそのあとで、どうするのか、それを君と僕の二人だけで相談しないといけない』
「どういうこと?」
星は二つの綺麗な石に顔を近づけながら魚に聞く。
『人と人は、いずれみんなばらばらになるってことさ。まあ、それでも僕と君は一応、魔女の契約でつながっているけど、澄はそうじゃない。澄はあくまで他人であり、森の中で主体的に行動する個人は(僕たちの視点から見れば)僕と君だけなんだ。森の中では誰もが自由でありまた孤独なんだ。澄はいずれ、僕と君の前からいなくなる。(彼は自由だからね)だからその前に情報を聞き出しておかないといけない。
そして実際に澄がいなくなったあと、森の中で二人だけになった僕たちがどうするのか、(どうやってお互いの契約を履行するのか、海を探し出して、本をすべて埋めるのか)そのときのために今から僕と君の間で意見を交換して、森を攻略するための作戦会議をしておかなくちゃいけないでしょ? 人がその意見をまとめるためには話し合い、つまり会議をしなくちゃいけないからね』
魚はいつものように慎重な意見を星に言った。
「あら? そうかしら? 私はそうは思わないわ。そんなことしなくたって、澄くんならきっと私たちに協力してくれるわよ」楽観的な意見を星は言う。
星も別に最後の最後まで海探しを澄くんに手伝ってもらおうと考えているわけではない。(そうしてもらったら、嬉しいけど)
海を探すことが星の役割だということは星自身もよく理解している。(海もきっとそれを望んでいる)でも、そういうことではなく澄くんは星の友達なのだ。海と一緒で、澄くんのことも一人になんて星にはしておけなかった。
それにそれだけではなく、星は個人的にもあんまり無理に澄くんから離れたいと思ってはいなかったのだ。こんな感情を海以外の人に対して星が持つことは、とても珍しいことだった。
(うーん。なんだか難しい。……星は確かに葉山澄くんという森で出会ったばかりの男性の存在が今後、自分の中でどのような位置を占める存在になるのか、まだ計り兼ねているようなところがあった)
机から顔を離した星はうーんと唸りながら両手を組んでそれを空に向かって突き出した。背筋が伸びてとても気持ちいい。(どうにも背中が痛い。さっきから星は背筋を伸ばしっぱなしだ)
でも、部屋の中を動き回ったことで、(きっと体を動かしたことで、心も動いてくれたのだ)変な緊張もなくなった。
ここにいるのは、いつもの自分。いつもの私だ。(それを星は確認する)
『君は人を信用しすぎているね。よくないよ』魚が言う。
「私は『澄くん』を信用しているのよ」星が答える。




