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赤い瞳の冥府の王は白き乙女を手放せない  作者: なかな


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4/5

エンマと私の関係は?



 エンマに就活すると言った手前、何もしない訳にはいかなくなってしまった、墓穴である。


 私の住むマンションは私が子供の頃に親が購入したファミリー向けのタイプだ。

 以前は家族4人で暮らしていたが、今住んでいるのは私1人だけ。


 私が中学に上がる頃に持病の悪化した父が亡くなり、その後は母と兄との3人での生活をしていたけれど、兄も遠くの大学へ進学し部屋を出てしまった。


 父が亡くなってから家族の生活を支えてくれていた母も、新しいパートナーを得て数ヶ月前から他の場所で暮らしている。


 時々、母は私の様子を見にこのマンションに戻ってくるけれど、本当はここを売り払ってスッキリしたいのではないだろうか?


 家族の思い出が詰まったこの部屋だけれど、維持費もかかるしそろそろ持ち続けるのも潮時だろう。


 私さえこの部屋を出れば、売り払う事も出来るのだけど……ね。


 母には悪いがバイト代を少しだけ家に入れ、まだ私はこの部屋でまどろんでいたい。


 エンマには強目に就活アピールをしてしまったけれど、妖魔ばかり退治してきた私に出来る事って?

 それが見つかるまでは、もう少しここに居たいんだ。

 


 ◇




 幼い頃に容姿端麗なエンマに見惚れたくらいには、私は美しい物が大好きだ。


 1人住まいになっているのを良い事に、クッションカバーもフリルの付いた白い織りの模様布地に変えたし、ラグも茶系のモコモコしたものを敷いている。

 自分なりに大人ガーリーを目指して、インテリアを少しずつ揃えていくのが最近の楽しみだ。


 テーブルにもレース編みのテーブルセンターを置き、そこで朝の紅茶を飲めば1日のスタートとしては絶好調だ。


「よしっ、完璧っ!」


 今日は始めたばかりのバイトの出勤日なので、朝から自分を無理矢理にでも持ち上げてみる。ちょっとの事でも大袈裟に自分を褒めていこう。


「でも紅茶を飲んで完璧っ!とか……、それは無いでしょ?!」


 自分で自分に呆れて、ちょっと笑えてくる。でもこの調子で今日を乗り切ろう。

 慣れないバイトはメンタルを削られちゃうからね。



ーー「マコモ?今からそちらへ行く。良いな?」


 突然エンマからの念話が入る。昨晩話したばかりだし、私が不機嫌だった事も知っているはずなのに……。エンマはこちらの事情なんて知ったことではないのか?


「おはようございます、エンマ様。何の御用でしょう?」


 

ーー「渡す物がある」


(渡す物?)


 エンマが私の部屋に来るのは、何も仕事に限った事ではない。ちょっと茶を飲みにとか、流行りのスイーツを食べたいとか、用件は様々だ。ちょっとした休憩所くらいに思っているのだろう。


 

 ◇




 念話が切れて数秒もすると、リビングの空間が歪み、その中からエンマが現れた。


 昔話でよく見る閻魔大王様は、赤い顔をして黒い髭を生やしたイカつくて怖い顔立ちだが、私の目の前にいるのは色白で長身の美丈夫だ。


 朱色に近い真っ直ぐな赤い髪に宝石のような赤い瞳。細い鼻梁が顔の中央に唯美な線を描き出し、桜色の唇へと目線を誘う。

 丸みがない直線的な頬のラインと凛々しい吊り上がった眉が、この人物が猛々しい気質さえも持つ男性なのだと分からせる。


「朝から来るとか急ぎですか?私まだ部屋着なんですけど」


 まだ寝起きのまま着替えもしていない私は、白いフワフワしたフリース素材のスウェット上下を着込んでいる。前髪はヘアバンドで上げたままで、もちろんノーメイクだ。


「別にそのままで良いだろ。羊みたいだな」


 羊‥‥。確かに白いフリースに包まれた私はそれっぽく見えるのかもしれない。

 だがしかし、朝から突然部屋に来て言うことがそれ?なのか??


 エンマはいつものツンとした表情を崩さず、慣れた様子でダイニングの椅子に座った。


「マコモの飲んでいるそれは紅茶か?」


「はいっ、そうですけど‥‥」


「同じ物を」


(ここはお店じゃないからねっ?!)


 心の声が大きくなり過ぎて、きっと顔に出てしまっているに違いない。でも相手はエンマだ。私が少しぐらい不機嫌でも、それを気になんてする訳ない。


「分かりました。で、今日は朝から何なんですか?渡したい物ってまさかお茶に合うスイーツとかじゃないですよね?」


 嫌味もちょっと含ませつつエンマに問いかける。本当にスイーツだったら、結構、嬉しいんだけどな。


 エンマは ″フッ″ と、息を吐くように笑うと、衣の胸元の合わせ部分から何かを取り出しテーブルに置いた。


「何ですか?これ」


 それは何かが包まれていそうな布で、濃い紫色をしている。艶やかな光沢があって上質な布のようだが、一体中身は何なのだろうか?


「マコモがずっと受け取ってこなかった妖魔退治の礼の一部だ。マコモの年齢なら半年分の収入にはなるだろう。マコモは私に預かっていてくれと言ったが、もう渡しても良いだろう?″ 大人 ″なのだから」


 エンマはそう言うと、その布包を私の方へ滑らすように押してきた。


「あ、ありがとう、ございます」


 私は恐る恐る、その包みを受け取った。



 ◇



 「礼」という名で渡される報酬は、私とエンマの関係を単純に図式化出来てしまうから、私はずっと受け取りを拒否していた。


 エンマが妖魔退治の依頼人で、私がその請負人。

 とてもシンプルな関係だ。


 エンマが根気よく私に妖魔退治のやり方を教えてくれたのも、こうして使える人材を育てたかっただけなのかと、私は初めて報酬を目にした時、酷くガッカリした。


 私はエンマが特別に思いをかける相手ではなく、エンマの力を使える「珍しい人材」でしかなかったのだから。


 私は意地でも報酬を受け取るものかと思った。

 これを受け取ったら、私がエンマに対して積み上げてきた「思い」が消されてしまうような気がしたから。


 だから私はエンマに「未成年に大金は困る。預かって欲しい」と、苦し紛れにそう伝えて受け取らずにいた。


 でもどうだろう?今の私は短期バイトしか収入源は無く、この先だって順調に就職できるか何て分からない。

 1人で生きていく為に金銭が必要なことは、嫌なくらいに分かり始めている。


「どうした?浮かない顔だな」


 エンマが細くも凛々しい眉を軽く上げ、私と目線を合わせてくる。


 うっすらと滲みそうだった涙を見られたくなくて、目を瞬かせつつエンマに話しかける。


「これ、税金とかどうなるんですかね?」


 精一杯の虚勢と意地を張ってエンマに尋ねる。


「は?私に給与計算をしろとでも?」


 エンマは想定外の事を言われたせいか、驚きつつもちょっと怒ったみたいだ。


「そうですよ。お金だけポンっと渡すなんて、もらう方が困ります。これからも妖魔退治はするんですから、何か良い方法を考えてくださいね」


 私が就活すると聞いて、朝から報酬を持ってきてくれたエンマに対して何て言い草だろう。我ながら本当に可愛くない。


「マコモのその性格は魂が強い故か?だったら私の修復の仕方が良くなかったのだな」


「私の性格が良くないって言いました?妖魔ばっかり倒してきたら性格だって崩壊しますよっ」


「性格が良くない何て言っておらんだろうが!勝手に人の言葉を曲解して怒りをぶつけるのは止めてもらおうっ!」


 エンマの周りにある空気がユラユラと揺れて見える。

 怒りから放熱でもしているんだろうか?


「怒っているのは……、エンマ様じゃないですか。怖いんで、落ち着いてください‥‥」


 エンマは "フンっ" と鼻を鳴らすと腕を組んで横を向いてしまった。


「…………」


 私とエンマの間に沈黙が続き、いたたまれない空気が重くのしかかる。


「帰る。次の仕事は他の者から指示を出させる。『礼』は必要な金額だけを言えば渡そう」


 エンマはそう言うと椅子から立ち上がり、辺りの空間を歪めて消えて行った。


(はぁ……、ちょっと言い過ぎちゃったよ)


 後悔しても言った言葉は戻らない。

 テーブルに残された紫色の布包とエンマの衣に焚きしめられた香の香りが、今までそこにいた人を思わせる。


「ちょっと、動揺してたんだよ……。だって、ずっと逃げ続けていたのに、いきなりだよ?受け取るのに心の準備なんて、全然無かったじゃない」


 誰かに分かってもらえる気持でもないから、私は自分の正当性を見つけてあげないといけない。

 でも結局、そんなこだわりから閻魔に嫌味な言葉を吐いてしまったのは、やっぱり間違いだったかな。


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