純白の魂と赤い瞳のエンマ
私が魂の一部を妖魔に喰われて死にかけたのは、まだ幼い5歳の頃だ。
私の魂の色は「純白」というもので、この世に生まれる魂の中では非常に珍しく、なおかつ他のエネルギーと同化しやすいらしい。
その為、魂を喰らう妖魔は純白の魂を見つけると真っ先に食べに来る。余りに幼い赤子はエネルギーとして小さいので、食べ頃まで待ってから喰らいに来るという。
だから純白の魂を持って生まれると、大抵は大人になる前に妖魔に喰われ、その体内に取り込まれてしまう。
そんな生き残るのが難しい色の魂に、私は生まれてしまった。
幼い頃の私はいつも熱を出して布団の中で過ごすような病弱体質だった。いま思えばあれは、いつも妖魔がぴったりと私の側に居たせいだろう。
そんなある日の晩、とうとう妖魔が私の魂を喰らいに来た。
いつものように発熱をして寝苦しかった夜、突然、私の体の上に何かが伸し掛かってきた。
私がもがくと心臓にズキリとした痛みが走り、何故か体も強張って声さえも上げられない。
それなのに覆い被さってくる何かは、もっと私の体を押しつぶしてくる。
苦しい……、息だって思うようには吸い込めないし、体だって自由に動かせない。
ーーもう1度、公園で遊びたい。ブランコに乗りたいな。
薄れる意識の中で私がそう思うと、わずかな光が私の体から溢れ出した。
少しだけ、息苦しさも減って体も軽くなった気がする。
深く息を吸い込んで次に私が目を開けたとき、目の前に広がる景色は近くの公園だった。
どうやって家から出たのかなんて分からない。でも公園でまた遊びたいという願いの通りに、私はそこへたどり着いていた。
私は漕げもしないのにしばらくの間ブランコに乗り、気が済むと滑り台を何度も滑って遊んだ。どうしてなのかは分からないが、いつもみたいに息も苦しくないし体も軽い。
私は自由に動ける事を楽しんでいた。
そんな夜の公園で遊ぶ私に声をかけ保護をしたのは、現世を監視していた冥府の職員だった。
「瀕死だな。面倒なことだ」そう言い放ったその冥府の人は、私の手を引き目の前の空間を歪ませて、そこに私を引き摺り込んだ。
突然現れた謎の大人に捕まえられて、逃げる間もなく連れて行かれた私は、只々、これから起こる事が分からなくて怖かった。
◇
そのあっちの世界「冥府」で対面したのが赤の色をまとった閻魔大王だった。
エンマはいつも黒い衣を着ているのに、私はその時初めて出会ったエンマを赤い、炎のような色だと思った。滴るような血の赤ではなく、暖かく辺りを照らす炎のような赤の人。
妖魔に喰われ、欠けてしまった私の魂を見たエンマは「この子を、欠けてしまった魂を次の世に送る訳にはいかない」そう告げると、整った綺麗な顔を悲しそうに歪めた。
その時の私にはよく分からなかったけれど、目の前にいる赤い瞳の男の人が困っている事だけは分かった。
血の色よりも明るくて、宝石のような瞳のエンマ大王は、小さな私と目線を合わせようと前屈みになった。腰まで届く朱色の長い髪がサラサラと溢れるように白い頬に滑り落ち、青白かった顔色に赤みが差したように見えた。
あの時、私は見惚れるという経験を初めてしたのだと思う。姿が目に焼き付くような、そういう感覚。
あぁ、私はこの綺麗な人を困らせてしまっているんだ。
何も悪いことなんかしていないのに、私の心は謝りたい気持ちになっていた。
だからエンマが私の魂を修復して、元の場所に帰してくれると言った時には迷わずうなずいた。
その治す方法が、エンマの力もらい私の魂の欠けを埋めるというもので、決して元通りの魂になれる訳ではないと知っても仕方がないと思えた。
それによってエンマと切れない縁が生まれ、ずっと繋がり続けると聞いてもそれで良いと思った。
だって私は、この美しい人を困らせたくないんだから。こうしてここに連れてこられてしまった私は、この赤い瞳に良い子として映っていたかった。
*
あの時の私は幼過ぎて、ただエンマからの提案を全て受け入れることしか出来なかったけど、それが後の私の生き方を決めてしまうとは思ってもみなかった。
エンマが施してくれた「魂の修復」は私の魂の「欠け」を補い、1つの魂として満ち足りた物にしてくれた。だけど、それ以外にもオプションが付いていたのだ。
そもそも純白の魂というのは妖魔の好物ではあるのだが、それは子供の内の魂だけで、実は大人へと成長していくうちにその性質は大きく変わっていく。
肉体の成長と共に大きく強くなった純白の魂は少しずつ光り輝くようになり、その光は妖魔を滅する退魔の力を持つようになる。
エンマに改造?されて大人顔負けに強くなった私の魂は、妖魔が近寄らないばかりか滅する退魔の光をも放つようになった。
それも何故かエンマから遠隔でもエネルギチャージ出来るよう、繋がりを深める為の謎の「紋」まで手首に刻まれてしまっている。
エンマに魂をいじられた私は、既にそこでエンマの持ち駒として生きる道を決められていたのだろう。
わざわざ力の強い妖魔を倒す為の、魔改造に近いことまでされているのだから。
でも、不思議とエンマに怒りたい気持ちは起こらないんだ。
あの時、私が望んだことに嘘偽りは無かったはずだから。
エンマが私を助けようと力をくれたことは事実だし、私はそれで助けられたのだから。
でも不思議なのは、普通の人には拒否反応が出るようなエンマの力を、なぜ私の魂の修復に使い、その後に取り込ませるような仕組みを作ったのだろうか?
エンマの話からすると、私以外に力を受け取れる人なんてまず、いないらしいのだが……。
やはり「純白の魂」だからだろうか?
私でさえエンマの力を取り込むと、動悸息切れや眩暈程度は起こる。量が多すぎると体が壊れるとも言われているから、適性のある私だって気をつけて使っているくらいだ。
エンマにこの話しをすると「上手く行けば良いなとは思った」と、不安な言葉を口にされる。まさか一か八かだったのか?
いや、私の魂は生死の狭間のギリギリに居て、他に選べる方法も無かったのだろう。そう思いたい。




