観艦式異聞
1. 観閲部隊、出港
2026年11月3日、文化の日。
秋晴れの横須賀沖・相模湾は、穏やかな波と、心地よい海風に包まれていた。
この日、日本は世界20カ国の海軍艦艇を招待し、国際観艦式を挙行していた。
正午。観閲官である内閣総理大臣・御子柴を乗せた、海上自衛隊最大の護衛艦『いずも』が、長大な船体をゆっくりと西へ向けた。
その後方には、随伴艦としてイージス艦『はぐろ』、汎用護衛艦『あさひ』、そして訓練支援艦『てんりゅう』が続く。
計4隻からなる「観閲部隊」は、東京方面(東)から大阪方面(西)へと、厳かに航行を開始した。
『いずも』の飛行甲板に設営された観閲台。
御子柴総理は、強まる風に髪を煽られながら、水平線の彼方を凝視していた。
「……来るかね、天城君たちは」
「ええ。彼らはトリを務めます。……世界中の度肝を抜く演出で」
防衛大臣が、苦笑混じりに答える。
第一群:伝統と規律(海上自衛隊)
西の水平線から、受閲部隊の第一陣が姿を現した。
彼らは観閲部隊とすれ違う形(反航)で、東へと進んでくる。
先頭を切るのは、海上自衛隊の誇る精鋭たちだ。
最新鋭のもがみ型護衛艦『くまの』を先頭に、汎用護衛艦『しらぬい』、補給艦『ましゅう』、輸送艦『おおすみ』、そして掃海母艦『うらが』と掃海艇たちが続く。
一糸乱れぬ単縦陣。
等間隔を保ち、白い波を切って進むその姿は、「精強なる海自」の象徴だ。
『いずも』とすれ違う瞬間、各艦の甲板に整列した乗員たちが、一斉に帽子を振る「登舷礼」を行う。
「帽、振れ!」
号令と共に白い帽子が波のように舞う。美しく、洗練された「平和の軍隊」の姿に、総理も深く敬礼を返した。
第二群:友好の架け橋(祝賀航行部隊)
続いて、国際色豊かな艦隊が近づいてくる。
各国の艦艇が、ホスト役である海上自衛隊の艦に先導されて入場するスタイルだ。
最初に現れたのは、アメリカ海軍。
海自のイージス艦『まや』に先導され、米海軍の最新鋭駆逐艦『ジャック・H・ルーカス(フライトIII)』が堂々たる姿を見せる。
『いずも』上の米軍招待客たちが歓声を上げる。世界最強の同盟を象徴する、力強いツーショットだ。
次に、イギリス海軍。
海自の護衛艦『てるづき』が、英海軍の45型駆逐艦『ドラゴン』をエスコートする。
艦首に赤いドラゴンの塗装が施された英艦は、優雅さと威厳を兼ね備えている。
さらに、フランス海軍のフリゲート艦、オーストラリア海軍の強襲揚陸艦と続く。
多種多様な旗が風にはためき、海の上で外交が繰り広げられる。
それは平和の祭典にふさわしい、華やかな光景だった。
だが、会場の空気は少しずつ変わり始めていた。
無線を傍受している軍事マニアたちや、各国の武官たちが、南の空と海を落ち着きなく見回し始めたのだ。
「……来るぞ」
「あの噂の艦隊だ」
最終群:北斗打撃群 ─ 異次元の行進
各国の艦艇が通り過ぎた後、少しの間が空いた。
海の色が、一段と濃くなったように錯覚する。
『観閲官、右舷前方! S.O.D.U、北斗打撃群、入列!』
アナウンスと共に、水平線の向こうから「異形」のシルエット群が現れた。
これまでの艦艇とは明らかに違う。鋭角的で、未来的で、そして圧倒的に巨大な影。
【先導:守護の盾】
先陣を切るのは、多目的防空護衛艦『ずいうん(瑞雲)』。
一見すると小柄な艦だが、その艦橋周りには高出力レーザーのレンズが不気味に光る。
まるで王の露払いをする騎士のように、波を静かに切り裂いて進む。
【指揮:頭脳の塔】
その後ろに続くのは、戦略指揮巡洋艦『たかお(高雄)』。
重厚な艦橋構造物の現代版とも言える、巨大な多面体レーダーを掲げ、艦隊全体へ電子の網を張り巡らせている。威圧感たっぷりの「司令塔」だ。
【双翼:疾風の牙】
その『たかお』を守るように、斜め後方に2隻の猛獣が控える。
左後方に『みやつかぜ(雅津風)』。
右後方に『あきつかぜ(秋津風)』。
50ノットを出せるとは思えないほど、今は優雅に、しかし今にも飛びかかりそうな低い姿勢で波に乗っている。鋭利なナイフのような艦首が、陽光を反射してギラリと輝いた。
【中核:洋上の城】
そして、観客の視線が一箇所に吸い寄せられた。
艦隊の中央。圧倒的な質量。
原子力超大型空母『こうよう(皇陽)』。
全長300メートル超。米空母よりもさらに巨大に見えるその甲板には、F-35B『雷神』や最新鋭F-3『零神』が整然と並び、艦橋には金色の菊花紋章(S.O.D.Uエンブレム)が輝いている。
『いずも』ですら小さく見えるほどの巨体は、海そのものを押しのけて進む「動く領土」だった。
【両脇:雷の矛】
その巨城の左舷を固めるのは、戦略打撃艦『てんかい(天魁)』。
右舷には、同型艦『てんすう(天枢)』。
甲板には「デブリ除去用」と称された、長大なレールガンの砲身が天を仰いでいる。その砲口は、平和な空に向けられながらも、隠しきれない殺気を漂わせていた。
この7隻が組む陣形は、完璧な幾何学模様を描いていた。
一糸乱れぬ速力20ノット。
エンジン音すら、他国の艦艇より静かだ。それが逆に、未知のテクノロジーへの恐怖を煽る。
『いずも』とすれ違う瞬間。
『皇陽』の全乗員が白い制服で整列し、登舷礼を行った。
総理に向けられたその敬礼は、あまりにも美しく、そして恐ろしいほどに統率されていた。
終幕:深淵からの眼差し
7隻が通り過ぎ、観艦式は終わった──かに見えた。
だが、総理の隣にいた海幕長が、海面を指差して息を呑んだ。
「総理、……最後尾をご覧ください」
「ん? 何もないようだが……いや!」
北斗打撃群の最後尾。誰もいないはずの海面に、一本の細い筋が伸びていた。
白波がV字に切れている。
目を凝らすと、波間から黒く濡れた「潜望鏡」だけが突き出していた。
船体は見えない。
だが、その潜望鏡が作る航跡の幅と、海面の盛り上がり方から、水下に潜む「何か」がとてつもなく巨大であることが分かった。
全長100メートルを超える黒い巨鯨が、誰にも姿を見せず、ただ潜望鏡という「片目」だけで総理を見つめ、静かに追従しているのだ。
原子力潜水艦『しんえん』。
浮上して挨拶することは許されない、影の存在。
しかし、その潜望鏡がクルリと『いずも』の方へ向き、一瞬だけ停止した。
まるで、深海からの敬礼のように。
そして次の瞬間、潜望鏡は音もなく海中に没し、航跡だけが残された。
エピローグ
全ての艦艇が去った後、『いずも』の甲板には奇妙な余韻が残っていた。
米軍の将官たちは、沈黙したまま『こうよう』の去った方角を見つめ、各国の武官たちは興奮気味にカメラのデータをチェックしている。
御子柴総理は、深いため息をついて、呟いた。
「……防災部隊、ねえ」
先頭の『ずいうん』から殿の『しんえん』まで。
そのパレードは、世界に向けて「日本には手出し無用」と宣言する、無言の演説だった。
「派手なデビュー戦だこと。……これでまた、私の胃薬が増えるな」
総理は苦笑しながらも、その瞳には、かつてないほどの頼もしさを宿していた。
横須賀の海は、何事もなかったかのように、再び穏やかな青に戻っていた。
前半を、海上自衛隊護衛艦や各国艦艇にして、
後半は、北斗の異質な形状や圧倒的な「圧」を書き、
視覚的な強さを強調出来たのではないかと思っています。




