双星、太平洋を圧す。
2026年5月、太平洋、ミッドウェー沖。
見渡す限りの群青の海に、鋼鉄の城壁が築かれていた。
アメリカ海軍第7艦隊。原子力空母を中核とし、イージス駆逐艦、巡洋艦が輪形陣を組む、世界最強の機動部隊である。
その威容誇る艦隊の真ん中に、明らかに「異質」な2隻の艦影があった。
S.O.D.U 北斗打撃群所属、戦略打撃護衛艦『てんかい(天魁)』と『てんすう(天枢)』。
米軍のアーレイ・バーク級駆逐艦がゴツゴツとした武骨なシルエットを持つのに対し、この2隻は極限まで凹凸を削ぎ落とした、のっぺりとした多面体の装甲に覆われている。
そして何より目を引くのは、艦首に鎮座する、あまりにも長大な砲身──電磁加速砲だ。
第7艦隊旗艦『ブルー・リッジ』の艦橋。
第7艦隊司令官・マクニール中将は、双眼鏡越しにその2隻を見つめ、隣に立つ男に声をかけた。
「……おいおい。あれが『護衛艦』だって? 冗談だろう、キサラギ二佐」
声をかけられたのは、S.O.D.Uから派遣された連絡将校、如月二佐だ。
彼は仕立ての良い制服を着こなし、米軍の高官たちに囲まれながらも、全く動じる様子がない。
「ええ、護衛艦(Destroyer)です、司令官。我々の分類では」
如月は涼しい顔で答えた。
「今日は、退役した標的艦をご用意いただけたとか。感謝します。うちの『双子』も、腕が鳴ると言っていますよ」
フェーズ1:対空の魔術
演習は「対空戦闘」から始まった。
無人機が曳航する高速標的機が、マッハ2近い速度で艦隊に接近する。
「全艦、対空戦闘用意! 目標捕捉!」
米イージス艦から次々とSM-2ミサイルが発射される。白煙を引き、空中で標的機を撃墜していく。流石の手際だ。
「悪くない。……次は君たちの番だ、キサラギ」
マクニール中将が促す。
次の瞬間、さらに高速の、マッハ3級の超音速ドローンが4機、同時に『てんかい』と『てんすう』へ向けて突っ込んできた。
通常のイージスシステムでも同時対処が難しい難易度だ。
だが、2隻は動かなかった。ミサイルを発射する気配もない。
「何をしている! 撃たないと当たるぞ!」
米軍のオペレーターが叫んだ刹那。
ヒュンッ!
『てんかい』と『てんすう』のVLS(垂直発射機)から、何かが飛び出した。
煙がない。炎も見えない。
それは「コールド・ランチ」方式で射出された後、空中で点火し、信じられない挙動を見せた。
発射された対空ミサイルは、空中で直角に近い鋭角ターンを決めると、マッハ3の標的機を「正面から」迎え撃ったのだ。
ド・ド・ド・ドンッ!
4つの爆発音がほぼ同時に重なった。
あまりの早業に、レーダーを見ていた米兵たちは言葉を失う。
「……おい、今の見たか? ミサイルが……踊っていたぞ」
「迎撃率100%。しかも、有効射程のギリギリ遠距離で叩き落としやがった……」
如月は手元のタブレットを確認し、淡々と言った。
「当艦隊の新型ミサイル制御システムです。無駄弾を撃つのは、日本の『もったいない』精神に反しますので」
フェーズ2:CIWSの咆哮
続いて、近接防御火器(CIWS)のテストが行われた。
撃ち漏らしたミサイルが直近まで迫った想定だ。
米艦隊の「ファランクス」が、ブゥゥゥン!という独特のチェーンソーのような音を立てて曳光弾をばら撒く。
「豪快ですね」と如月が微笑む。
「次は『てんすう』、お願いします」
標的となる小型ボートが、波間を縫って高速接近してくる。
『てんすう』の側面装甲がスライドし、格納されていたCIWSが展開した。
それは、米軍のファランクスとは似て非なる、SFチックな多銃身砲だった。
バッ、バッ、バッ!
短い、しかし鋭い発射音が3回だけ響いた。
弾幕ではない。「点射」だ。
数キロ先の海上で、標的ボートのエンジン部分だけが正確に弾け飛び、ボートは沈むことなく停止した。
艦橋が静まり返る。
「……CIWSで、狙撃をしたのか?」
マクニール中将が、持っていたコーヒーカップを置くのを忘れて呟いた。
「機関部のみを破壊。環境への配慮です。油が漏れると掃除が大変ですから」
如月のジョークに、誰も笑えなかった。正確無比すぎて、笑えないのだ。
フェーズ3:死の外科手術(対艦戦闘)
そして、メインイベント。
標的艦として曳航されてきたのは、退役したスプルーアンス級駆逐艦『オールド・ゴースト』だ。
無人の廃船とはいえ、かつての巨艦。装甲は厚い。
「最後は派手にいこうか。艦対地、対艦ミサイルによる飽和攻撃だ」
マクニール中将が言った。「我々のハープーンとトマホークで、あの老兵を安らかに眠らせてやる」
米艦隊から一斉にミサイルが放たれる。
ドォォォン!
標的艦の船体中央に命中。黒煙が上がる。だが、腐っても軍艦。簡単には沈まない。
「なかなか頑丈ですね。……では、仕上げを」
如月がインカムに触れる。
「『てんかい』、目標、標的艦艦橋。……右側の窓だ」
「は?」
マクニールが聞き返した。「右側の窓? 何を言っている?」
『てんかい』のVLSセルが開き、一発の対艦ミサイルが空へ舞い上がった。
それは成層圏近くまで上昇した後、垂直に急降下を開始。
落下速度はマッハ5以上。
迎撃不可能な速度で落ちてきたその「矢」は、標的艦の艦橋、その「右舷側の窓」をピンポイントで貫通し──
内部で遅延信管が作動した。
ズウウウゥン……!!
外部への爆炎は最小限。しかし、標的艦の内部から衝撃波が走り、船体が内側から膨れ上がったかと思うと、艦橋構造物が粉々に粉砕されて吹き飛んだ。
船体は竜骨をへし折られ、V字に折れ曲がって轟沈していく。
「……」
『ブルー・リッジ』の艦橋は、完全な沈黙に包まれた。
それは破壊ではない。兵器による「外科手術」だった。
艦橋での対話
演習終了後。夕日が太平洋を赤く染めていた。
マクニール中将は、手すりにもたれかかり、遠くで待機する『てんかい』と『てんすう』を見つめていた。
その横顔には、同盟国への信頼よりも、底知れぬ畏怖の色が濃く滲んでいた。
「……キサラギ二佐」
「はい」
「正直に言いたまえ。あの2隻の主砲……あの長いレールガンは、今日は撃っていないな?」
如月は、夕日に照らされた海を見ながら答えた。
「ええ。本日は『ミサイルとCIWSのテスト』とのことでしたので。主砲を使うと……標的艦が蒸発してしまい、命中確認ができませんから」
マクニールは乾いた笑い声を上げた。
「ハハッ……蒸発、か。冗談に聞こえんのが恐ろしいよ」
米海軍の提督は、如月の方に向き直り、真剣な眼差しで右手を差し出した。
「日本が敵でなくてよかった。心からそう思うよ」
如月はその手をしっかりと握り返した。
「ご安心を。S.O.D.Uは平和を愛する組織です。……海を荒らす者がいない限りは」
その夜。
第7艦隊の将兵たちは、酒を飲みながら噂し合った。
「おい、あの日本の船、見たか?」
「ああ。ありゃ船じゃねえ。海に浮いた宇宙戦艦だ」
世界最強の米海軍が、自分たちの「2番手」への転落を悟った日。
しかし、彼らの表情は暗くはなかった。
少なくとも、あのバケモノのような「双星」は、自分たちの背中を守ってくれる味方なのだから。
如月のキャラクターですが、
あくまで謙虚で丁寧な口調ですが、言っている内容はとんでもないという、
「S.O.D.U仕草」を体現出来たのではないかと思っています。




