『こうよう』の初陣
2026年4月、日本海某所。
鉛色の空と海が交錯する、視界の悪い日だった。
S.O.D.U(戦略海洋開発隊)北斗打撃群は、表向きは「荒天下における長期洋上航行試験」の名目で、日本海を北上していた。
「……来ましたね。『定期便』が」
旗艦、超大型原子力空母『こうよう』の広大な艦橋で、天城少将がコーヒーカップを置いた。
彼の視線の先、大型ディスプレイに映し出されているのは、戦略指揮艦『たかお』と、防空艦『ずいうん』のレーダーが捉えた統合戦術状況図だ。
北の方角から、真っ赤な識別マーカーが群れを成して南下してくる。
「某北国」の長距離戦略爆撃機編隊と、その護衛戦闘機群、計16機。
彼らは定期的に日本領空へ接近し、航空自衛隊のスクランブル(緊急発進)能力を試す、いわゆる「東京急行」の拡大版を仕掛けてきたのだ。
「いつもの空自機だと思って舐めているな。我々の艦隊直上を通過するコースだ」
『ずいうん』の艦長から、怒気の混じった報告が入る。
「レーザーで焼き払いますか? 司令」
「いや、待て」
天城は静かに制した。
「今日は『こうよう』の初陣だ。空の客人は、空の礼儀で持て成してやろう」
彼は艦内マイクのスイッチを入れた。
「航空監理部、聞こえるか。『らいじん(雷神)』・小隊を出す。……カタパルトは使うなよ。彼らに、時代の違いを見せてやれ」
鋼鉄の甲板、熱風の舞
『こうよう』の飛行甲板は、米海軍の最新鋭空母すら凌駕する、全長360メートルの広大な鋼鉄の平原だ。
その中央部、アイランド(艦橋構造物)脇の駐機スポットに、4機の異様な機体が並んでいた。
航空自衛隊にも配備が進む、最新鋭ステルス戦闘機F-35B ライトニングII。
だが、S.O.D.U仕様のそれは、機体表面のステルスコーティングがより深く黒い光沢を放ち、内部のアビオニクス(電子機器)は完全に別物に換装された魔改造機──通称『らいじん(雷神)』仕様だ。
「雷神各機、発艦準備。……垂直でいくぞ」
飛行隊長の声が無線に響く。
通常の空母なら、艦首のカタパルトに接続し、蒸気や電磁気で射出されるのを待つ。
だが、彼らは違った。
ゴォォォォォ……ッ!
4機のF-35Bの単発エンジンが、腹に響く重低音を奏で始める。
次の瞬間、驚くべき光景が展開された。
機体後部の巨大なエンジンノズルが、生き物のようにグニャリと真下を向く。同時に、コクピット後方のリフトファンハッチが展開した。
「発艦!」
刹那、甲板が灼熱の嵐に包まれた。
下向きに噴射された凄まじいジェット噴流が、耐熱処理された鋼鉄の甲板を叩きつけ、陽炎となって舞い上がる。
何十トンもの鉄の塊が、滑走することなく、その場でフワリと浮き上がった。
重力への反逆。
それは、航空機というよりは、SF映画に登場する宇宙船の離陸に近かった。
4機の怪鳥は、空中でピタリと静止した後、ノズルを後方へ傾け、爆発的な加速で鉛色の空へと吸い込まれていった。
カタパルトの準備も、風向きの調整もいらない。
ただ、飛びたい時に、その場から飛び立つ。
それが『こうよう』の持つ、即応性の恐怖だった。
見えない空の支配者
「おい、日本のスクランブル機はどうした? いつものF-15はまだ来ないのか?」
北国の爆撃機「ツポレフ」の機内で、パイロットがレーダー士官に怒鳴った。
彼らは既に日本の防空識別圏(ADIZ)深くに侵入していた。いつもなら、とっくに空自の戦闘機が翼を並べて警告してくる頃合いだ。
「レーダーに反応ありません! ……いや、待ってください。微弱なノイズが……」
レーダー士官が首を傾げたその時だった。
『ピーーーッ! ピーーーッ!』
突如、コックピット内にけたたましい警告音が鳴り響いた。
RWR(レーダー警戒受信機)が、複数の方向から強力なロックオン波を感知したのだ。
「なっ!? ミサイルロックされた!? どこからだ!?」
「分かりません! レーダーには何も映っていないんです!」
彼らの周囲、数キロ圏内の空域には、先ほど『こうよう』から飛び立った4機のF-35B『らいじん』が展開していた。
だが、敵のレーダーには、彼らの姿は「小鳥」程度にしか映らない。
完全なステルス状態を維持したまま、『らいじん』たちは高性能なAESAレーダーで敵編隊を完全に捕捉し、火器管制レーダーを照射していたのだ。
それは、暗闇の中で目隠しをされ、四方八方から銃口を突きつけられているに等しい状況だった。
狩りの終わり
『こちら雷神リーダー。全ターゲットの捕捉完了。……トリガーはいつでも引ける』
F-35Bのコクピットで、飛行隊長が淡々と報告する。彼のヘルメットバイザーには、敵機16機すべての位置情報と、最適なミサイル発射シークエンスが表示されている。
空母『こうよう』の艦橋で、天城少将が静かに命じた。
「撃墜は許可しない。だが、二度とこの空域に近づきたくないと思わせろ。『電子的な平手打ち』を食らわせてやれ」
『了解』
次の瞬間、F-35B部隊は、ミサイルではなく、強力な電子妨害波を一斉に照射した。
北国編隊の通信機が、耳をつんざくような雑音で満たされる。計器類がデタラメな数値を表示し、自動操縦装置がエラーを吐き出した。
「くそっ! 計器が狂った! これ以上は危険だ!」
「幽霊だ! 見えない敵に包囲されている!」
パニックに陥った爆撃機編隊は、任務を放棄。蜘蛛の子を散らすように回頭し、自国の領空へと逃げ帰っていった。
彼らは結局、自分たちを追い払ったのが何者だったのか、最後まで視認することすらできなかった。
巨城の余裕
数十分後。
『こうよう』の左舷後方から、任務を終えた4機のF-35Bが帰還した。
彼らは再び空中で静止すると、今度は重力に逆らうことなく、ゆっくりと、そして正確に、元の駐機スポットへと舞い降りた。
熱気が収まり、静寂が戻った甲板を見下ろし、天城少将は満足げに呟いた。
「垂直離着陸機(VTOL)だけで事足りるとはな。彼らも運がいい」
彼は視線を、甲板の前方に向けた。
そこには、F-35Bよりも一回り大きく、より鋭角的なシルエットを持つ最新鋭機──S.O.D.Uの真の主力戦闘
『F-3 れいしん(零神)』が、翼を休めていた。
そしてその足元には、最新鋭の電磁式カタパルト(E-EMALS)の射出レールが、黒光りしながら埋め込まれている。
「このカタパルトと、あの『れいしん』を使う日が来れば……その時こそ、空の歴史が変わる日だ」
鉛色の空の下、超巨大空母『こうよう』は、その真の実力の半分も見せぬまま、悠然と日本海を南下していった。
空のアピールもでき、
陸(内政)、海(水上・水中)、空と、北斗打撃群の全方位的な強さを書けたのではないかと思います。




