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国会の影 ー 虚構の平和利用

2026年2月某日。

 米海軍第7艦隊との「外交的勝利」に沸くS.O.D.U(戦略海洋開発隊)の司令部・横須賀地下ドックに、冷や水を浴びせるような急報が舞い込んだ。

『週刊実話ジャーナル、特大スクープ! 防衛省の闇予算を暴く! 横須賀沖に浮かぶ憲法違反の巨城とは!?』

 電車の中吊り広告、SNSのタイムライン、そしてテレビのワイドショー。日本中がその話題で持ちきりになっていた。

 記事には、早朝の霧に紛れて入港しようとする旗艦『皇陽こうよう』の、不鮮明ながらも巨大さが伝わる盗撮写真が掲載されている。

 さらに悪いことに、超高速駆逐艦『雅津風みやつかぜ』の特徴的な鋭利な艦首や、戦略打撃艦『天魁てんかい』の異様に長い砲身レールガンまでが、憶測記事とともに晒されていた。

 「攻撃型空母の保有ではないか?」

 「専守防衛の逸脱だ!」

 「税金の無駄遣いだ!」

 平和な日本社会特有の、アレルギー反応のような拒絶。

 S.O.D.Uが恐れていた「内なる敵」が、ついに牙を剥いたのである。

 「総理! 明確な答弁を求めます! この怪物は、一体何なのですか!」

 国会中継のカメラフラッシュが焚かれる中、野党第一党の重鎮・大隈おおくま議員の怒号が予算委員会室に響き渡った。

 大隈は、拡大された『こうよう』のパネルをバンバンと叩きながら、雛壇に座る内閣総理大臣・御子柴みこしばを睨みつける。

 「全長300メートル超、どう見ても正規空母です。しかも、随伴艦には見たこともない巨大な砲塔……。我が国はいつから、世界を侵略する軍事国家になったのですか!」

 御子柴総理は額の汗をハンカチで拭った。

 視線が泳ぐ。野党席からは「説明しろ!」「隠蔽だ!」というヤジが嵐のように飛んでくる。

 支持率は急落中。この答弁を失敗すれば、内閣総辞職は免れない。S.O.D.U計画そのものが水泡に帰す危機だ。

 (天城君……準備はいいんだろうね……?)

 総理は心の中で祈りながら、手元のタブレット端末に目を落とした。

 そこには、たった今、横須賀の地下指揮所にいる天城少将から送信された「模範解答シナリオ」が表示されていた。

 総理はゆっくりと水を飲み、マイクの前に立った。

 そして、先ほどまでの怯えた表情を一変させ、堂々たる笑みを浮かべた。

 「大隈先生、そして国民の皆様。大変な誤解があります」

 「誤解だと! 写真があるんだぞ!」

 「ええ。写真は本物です。しかし、あれは攻撃型空母などという物騒なものではありません」

 総理は一呼吸置き、カメラに向かって言い放った。

 「あれは、我が国の科学技術の粋を集めた、『多目的洋上防災プラットフォーム』です」

 その瞬間、全国のテレビ画面とネット配信が、防衛省の公開した「公式解説動画」に切り替わった。

 映像は美しく、感動的なBGMと共に、北斗打撃群の艦艇が映し出される。

 もちろん、それは全てS.O.D.Uの電子戦担当艦『たかお』と、防空艦『ずいうん』のスーパーコンピューターがフル稼働して生成した、「超高精度のフェイク映像」だった。

 ナレーションが流れる。

 『災害大国ニッポンを守るため。我々は、海から救いの手を差し伸べます』

 画面の中で、空母『こうよう』の広大な甲板が展開する。そこにあるのは戦闘機ではない。無数の救援物資コンテナ、移動手術室、そして大型の給水タンクだ。

 『原子力などではありません。被災した都市へ電力を供給するための、世界初の高効率・移動型発電システムです』

 続いて、戦場を焼き尽くすはずの『ずいうん』のレーザー兵器が映る。

 『高出力レーザーにより、倒壊したビルや瓦礫を遠距離から切断・撤去。人が近づけない危険地帯の復旧を支援します』

 そして、世界中の海軍を震え上がらせた超高速駆逐艦『みやつかぜ』。

 『最大速力50ノット以上。それは、誰よりも早く現場へ駆けつけるため。津波到達前に孤立した集落へ急行する、海の救急車なのです』

 極め付けは、戦略打撃艦『てんかい』のレールガンだ。

 本来なら敵基地を消滅させるための電磁加速砲が、映像の中では空を向いている。

 『宇宙からの脅威にも対応。地球低軌道上のスペースデブリ(宇宙ゴミ)や、落下する隕石をピンポイントで迎撃・粉砕。平和な空を守る、科学の守護神です』

 静まり返る委員会室。

 大隈議員は、口を開けたままモニターを見上げていた。

 そこに映し出されているのは、「戦争の道具」ではない。「国民の命を守る希望の光」だった。

 ネット上の反応は劇的だった。

 『すげえええ! 日本の技術力神ってる!』

 『空母だと思って叩いてたマスコミ息してる? 移動発電所とか天才かよ』

 『デブリ掃除用のレールガンとかロマンの塊じゃん。予算倍増しろ』

 『税金の無駄とか言ってごめん、これなら俺たちの命を守ってくれるわ』

 一瞬にして、世論は「軍事アレルギー」から「技術立国への称賛」へとオセロのようにひっくり返った。

 御子柴総理は、勝利を確信しながら大隈議員に問いかけた。

 「……というわけでして。大隈先生、まさかとは存じますが、国民の生命財産を守るこの『防災計画』に、反対なさるおつもりですか?」

 それは、「反対すれば、お前は防災の敵だ」という政治的なチェックメイトだった。

 大隈は顔を真っ赤にし、わななきながら椅子に座り込んだ。

 「……り、理解した。国民のためならば……致し方あるまい」

 騒動が収束した日の夜。

 総理公邸の執務室には、久しぶりに安堵した表情の御子柴総理と、相変わらず冷徹な表情を崩さない天城少将の姿があった。

 「いやあ、天城君。君の部隊の『たかお』だったか? あの映像技術には助けられたよ。まさかレールガンをデブリ除去装置と言い張るとはね」

 総理は上機嫌でブランデーグラスを揺らす。

 「すべては、任務遂行のためのカモフラージュです。最強の兵器とは、誰にも兵器だと気づかれないもののことを言いますから」

 天城は淡々と答えた。

 「それにしても……」

 総理はふと、真顔に戻って天城を見つめた。

 「あの説明、全部が嘘というわけではないんだろう? あのレールガン、本当に『デブリ』を除去できるのかね?」

 天城は、薄く、冷たい笑みを浮かべた。

 それは、国防を担う軍人の顔だった。

 「ええ、可能ですとも。……"地上の" デブリなら、跡形もなく」

 御子柴総理は一瞬息を飲み、そして苦笑した。

 「頼もしい限りだ。……だが、掃除は極力、国民に見えないところで頼むよ」

 東京の夜景の向こう。

 横須賀の海には、今日も「防災船」の仮面を被った、世界最強の北斗打撃群が静かに眠っている。

 その真下の深淵に、誰も知らない8番目の星を従えて。


横須賀の港。

ニュースを見る『みやつかぜ』の乗員がぼやく。

「俺たちの主砲、デブリ掃除用ってことになってますよ? いいんすかこれ」

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