歴史の目撃者たち
秋晴れの相模湾沖。波は穏やかで、絶好の観艦式日和であった。
観閲艦を務める海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦『いずも』。
その甲板右舷に特設された観閲台には、御子柴総理をはじめとする日本政府高官のほか、信じられない顔ぶれが並んでいた。
アメリカ合衆国海軍太平洋艦隊司令官。
さらには、本来ならば絶対に相容れないはずの中華人民共和国・人民解放軍海軍の将官、そしてロシア連邦海軍の参謀長までもが、呉越同舟で肩を並べていた。
彼らの目的は「友好」などではない。世界中の軍事バランスを単独で崩壊させた日本のバケモノ艦隊
――特務機動艦隊『北斗打撃群』の真の姿を、この目で確かめるためだけに、大国のプライドをへし折ってここへやって来たのだ。
将官たちの額には、海風に吹かれながらも冷たい汗が滲んでいた。
『――観閲官、御子柴総理が、甲板右舷に設置された観閲台に到着されました。参加国家の参謀長とともに、ここから観閲をいたします』
艦内スピーカーから、厳かな女性自衛官のアナウンスが海上に響き渡る。
『これより、祝賀航行部隊の観閲を開始します。
……前方より、先頭を航行するのは護衛艦『まや』。神奈川県の横須賀を母港として活動しております。
本艦は最新のイージス・システムを搭載し、我が国の防空の要を担います』
白波を立てて進み来るのは、王道にして現実の日本の「盾」。海上自衛隊の艦艇群だ。
イージス護衛艦『まや』を先頭に、最新鋭のステルス汎用護衛艦『もがみ』、機雷戦の要である掃海艦『あわじ』、そして巨大な補給艦『ましゅう』が、一糸乱れぬ完璧な「単縦陣」を形成し、『いずも』とすれ違っていく。
自衛官たちの規律正しい登舷礼に、他国の将官たちも表面上は敬礼で応える。
『海上自衛隊の艦艇の登場に続いて、護衛艦『あさひ』に率いられて、外国艦艇が登場します。
……まず、先頭を航行するのは、アメリカ合衆国海軍所属、アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦『ラファエル・ペラルタ』。
日本の横須賀を母港として活動しております』
海自の『あさひ』を先導役に、星条旗を掲げた米海軍のイージス艦が続く。そして、アナウンスは誰もが耳を疑う国名を読み上げた。
『続いて、中華人民共和国海軍所属、レンハイ級(055型)駆逐艦『南昌』。
……続いて、ロシア連邦海軍所属、アドミラル・ゴルシコフ級フリゲート――』
史実通りであれば、十数年ぶりの参加となる社会主義国家の艦艇たち。
アメリカ、中国、ロシアという覇権国が、仲良く海上自衛隊のケツについてパレードをしている。
いかに彼らが「S.O.D.U.の機密」を欲しているかが分かる、異様で滑稽な光景であった。
やがて、外国艦艇のパレードが通り過ぎると、海上の空気が一変した。
波の音が消えた錯覚に陥るほどの、重圧。アナウンスの声すら、微かに震えを帯びる。
『――最後に。海上自衛隊のイージス護衛艦『こんごう』に率いられまして、特務機動艦隊『北斗打撃群』の艦艇が登場します』
観閲台の他国将官たちが、一斉に身を乗り出した。万が一の陽動に備え、空母『こうよう』や原潜『しんえん』は姿を見せない。だが、現れた数隻だけで、彼らを絶望させるには十分すぎた。
『先頭を航行するのは、戦略指揮巡洋艦『CG‐X たかお』。
……続いて、ミサイル戦艦『BBG‐Z01 ふるたか』。
続いて、次世代高速ミサイル駆逐艦『DDG‐X03 みやつかぜ』』
先導する『こんごう』の背後から姿を現したのは、現代の兵器体系から完全に逸脱したオーパーツの塊だった。
優美にして圧倒的な火力を秘めた巡洋艦『たかお』。
続く『ふるたか』は、レーダー波を完全に殺すための「黒きピラミッド」そのものであり、その異形なシルエットを見た各国の将官たちは息を呑んで絶句した。
さらに三胴船の『みやつかぜ』が、他艦とは全く違う独特の航跡波を立てて滑るように進んでいく。
「……あれが、単艦で我々の艦隊を蹂躙した、悪魔の船か……」
某国の参謀長が、呻くように呟いた。
『――これより、観閲飛行に移ります』
海の絶望に続いて、空が引き裂かれる。
海上自衛隊のF-35B、米海軍のF/A-18Eスーパーホーネット、そしてヨーロッパから参加したユーロファイター・タイフーンが次々と編隊を組んで上空を通過していく。
その直後、空気を切り裂くような異音が相模湾に響き渡った。
『ロシア連邦航空宇宙軍所属、第5世代戦闘機『Su‐57』の編隊です』
「キィィィィン……!!」
ロシア製のサトゥルンAL‐41F1エンジンが発する、金属的で不気味な高周波のハウリング。
空気を乱暴に引き裂くようなその排気音は、ロシア機特有の獣のような威圧感を放っていた。
だが、その不気味な余韻すらも、次に現れた「本物の怪物」の前にかき消されることとなる。
『観閲飛行の最後を飾ります。
S.O.D.U. 所属、『F‐35B』および『F‐15J』の護衛編隊に随伴し、飛来しますのは――
特務艦上爆撃機『AB-1J 流星』、ならびに、特務ステルス戦術爆撃機『B-1J改』です』
雲を割って、自衛隊機の編隊の中央に陣取った「漆黒のエイ(流星)」と、さらにその後方を悠然と飛ぶ「巨大な全翼機(B-1J改)」が姿を現した。
その時、観閲台の将官たちは、自分の耳と体を疑った。
先ほどのSu‐57のような甲高いジェット音ではない。
「ゴォォォォン……」という、地鳴りのような、空間そのものが共鳴して振動する未知の低周波。
それは航空機のエンジン音というより、まるでSF映画の巨大なUFOが頭上を通過した時に感じる「圧倒的な静圧」だった。
マッハを超える推進力を持ちながら、音を殺し、熱を殺し、ただただ空の死神として絶対的な死を降らせるための異形の排気音。
「……信じられん。アメリカのB-2すら未完成だったというのに。あんな化け物を、完全に実用化しているというのか……」
「……日本は、本当にやりやがったんだな……ッ!」
強国のアドミラルたちが、手すりを握りしめたまま完全に心を折られていた。
御子柴総理は、青ざめる彼らの横顔を薄く笑いながら見つめている。
海も空も、すでに日本の手の内に落ちている。
特務機動艦隊『北斗打撃群』の圧倒的な力を世界に刻み込んだ観艦式は、日本が名実ともに世界の頂点へと躍り出たことを証明する、歴史的なパレードとなったのである




