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B-1J改 の系譜

日本国内某所。地図には存在しない山中の地下深く。


S.O.D.U. の中でも「レベル6」以上のクリアランスを持つ、ごく一部の人間しか立ち入ることを許されない極秘施設――『地下航空ハンガー、第4メンテナンス・ドック』。


鼓膜を微かに揺らす巨大な換気システムの重低音と、航空燃料のツンとした匂いが漂うその空間は、青白いLEDの照明に照らされ、まるで巨大な神殿のような静謐せいひつさに包まれていた。

 そのドックの中央に、「それ」は鎮座していた。


垂直尾翼も、水平尾翼も存在しない。

 ただ巨大な「エイ」が翼を広げたような、全翼機特有の異様なシルエット。

 機体表面は光を一切反射しない漆黒の特殊電波吸収素材で覆われており、照明の下にあっても、そこだけ空間がポッカリと黒く抜け落ちているような錯覚を覚えさせる。



S.O.D.U. 所属、特務ステルス戦術爆撃機――『B‐1J改』。


「……先ほどの東シナ海での実戦データ、すべて回収・検証が終わりました。機体フレームへの負荷、ステルスコーティングの劣化率、共に想定内の0.2パーセント未満です」


キャットウォークの上からその巨大な黒い翼を見下ろしながら、白衣を着た開発部門の主任技術者が、隣に立つ男――特命担当官の深山にタブレットを差し出した。



「ご苦労様です。初陣にしては、完璧すぎるスコアですね」

 深山はタブレットを一瞥すると、満足げに微笑んで眼下の『B‐1J改』へと視線を戻した。


「当然です。アメリカのB‐2スピリットのような『金食い虫のハンガー・クイーン』とは、根本的に出来が違うんですから」



 主任技術者が、我が子を誇るように胸を張った。


ステルス爆撃機の代名詞であるアメリカのB‐2は、一機数千億円という莫大なコストに加え、少しでも雨に濡れたり傷がついたりすればステルス性が失われるという、極めてデリケートな機体であった。

 当初、日本政府内でも「ステルス爆撃機の国産化など不可能だ。アメリカからデータを買うしかない」という声が圧倒的だった。実際、S.O.D.U. の初期段階では、アメリカの次世代爆撃機計画の基礎データをハッキングに近い形で入手し、研究の土台にしていた時期もある。



しかし、彼らは途中でアメリカの設計思想をすべて捨てた。


「機体の表面に塗料を塗るから剥がれる。ならば、最初から炭素繊維と未知のチタン合金を分子レベルで結合させた『メタマテリアル装甲』そのもので機体を造ればいい。

S.O.D.U. が独自に一から創り上げたこの機体は、少々の被弾や悪天候でも、レーダー反射断面積(RCS)が小鳥サイズから全く変動しません」


「ええ。それに、全翼機最大の弱点である『空力的な不安定さ』を制御するフライト・コントロールAIも、我々の量子コンピューターが弾き出した完全なオリジナルだ」

 深山が、主任の言葉を補足する。


「アメリカが数十年かけても解決できなかった運用コストと強度の問題を、日本の基礎工業力と S.O.D.U. のオーパーツ技術が悪魔合体して乗り越えた。まさに、日本発のナンバーワン・ボンバー……『B‐1J』の名にふさわしい傑作ですよ」



深山の言葉に応えるかのように、整備員たちによる点検作業のライトが、漆黒の機体を舐めるように照らし出す。

 艦上爆撃機の『流星』が「空母の剣」であるならば、この『B‐1J改』は、日本の地下深くから世界中のあらゆる場所へ音もなく飛来し、死を降らせる「見えない神の槍」であった。

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