深紅の海
2028年10月14日、鉄道の日。
秋の爽やかな風が吹き抜ける相模湾は、今日、世界で最も「青く、そして危険な海」へと変貌していた。
数年ぶりに開催された、海上自衛隊主催の「国際観艦式」。
波穏やかな海面には、日本を筆頭に、アメリカ、イギリス、フランス、オーストラリア、そしてインドなど、世界各国の海軍が誇る最新鋭の艦艇が一堂に会し、鋼鉄の城壁のごとく居並んでいた。
観閲艦である海上自衛隊のイージス護衛艦「まや」の甲板には、御子柴首相をはじめとする日本政府の高官、そして各国のVIPや軍上層部が居並び、双眼鏡を手に海のパレードを見守っている。
彼らの最大の関心事は、ただ一つ。
たった一つの動画で世界経済を揺るがし、アメリカ大統領すら激怒させた、あの独立部隊――
S.O.D.U.(戦略海洋防衛隊)は、果たしてこの晴れ舞台に姿を現すのか、ということだった。
海上自衛隊の主力艦隊による美しい祝賀航行が終わり、式典がいよいよ終盤に差し掛かった時。
会場のアナウンスが、これまでとは明らかに異なる、緊張を孕んだ声で響き渡った。
『――これより、総理大臣直轄・戦略海洋防衛隊(S.O.D.U.)所属艦艇の祝賀航行に移ります。
先陣を切りますのは、のづき型沿海域制圧艦です』
海の彼方、白い朝靄を切り裂くように、異形な「三胴船」が猛烈なスピードで接近してきた。
『艦番号 LCS-X01、ネームシップ《のづき(野月)》。
続きまして、X02《あさづき(朝月)》、X03《ゆうづき(夕月)》』
三隻の『のづき型』は、ビル数階建てほどの高さにもなる巨大な水飛沫"上げながら、観閲艦「まや」の前を50ノットオーバーの超高速で駆け抜けていった。
モーターボートのようなドリフト機動を完璧なシンクロで見せるその姿は、海を裂く白い矢のようだった。
「……馬鹿な。あれは、我々が失敗作として見限ったインデペンデンス級ではないか! なぜあんな芸芸芸しい芸当ができるんだ!」
VIP席に座っていたアメリカ第七艦隊の司令官、アーサー・ミラー中将が、思わず双眼鏡を落としかけて絶叫した。
彼には痛いほど分かっていた。アルミ合金の船体疲労や腐食、そして複雑な推進システムに悩まされたインデペンデンス級を、
日本のS.O.D.U.が独自のオーバーテクノロジーで魔改造し、「悲鳴を上げない、完全なる高速ステルス艦」へと進化させていることを。
かつて米軍のF-16を日本がF-2戦闘機へと昇華させた歴史が、この海の底で再び繰り返されていたのだ。
驚きと焦燥が会場を支配する中、アナウンスは残酷なまでに淡々と、次の艦の登場を告げた。
『続きまして、ふるたか型次世代駆逐艦。
……艦番号 DDG-X11、ネームシップ《ふるたか(古鷹)》』
突如、流れてきたBGMが重厚なパイプオルガンの旋律へと変わる。
そして海の彼方から現れたのは、これまでの「軍艦」の常識を根底から破壊する、異様な存在だった。
船体が上部に向かってすぼまっていく、タンブルホーム船型。
レーダー波を乱反射させる鋭角的な平面で構成された、黒ずんだ灰色の船体。
それは海の上に立つ「黒きピラミッド」か、あるいは深海から這い出した異形の化け物か。艦橋も煙突も、全ての構造物がステルス装甲の中に隠され、主砲さえも格納されている。その姿は、護衛艦というよりは、浮かぶ「要塞」そのものだった。
『続きまして、X12《あおば(青葉)》。……そして、X14《きぬがさ(衣笠)》』
会場が騒然とする中、10番台の艦番号を刻んだ、1万5000トンクラスの巨大な『ふるたか型』が三隻、音もなく海を滑るように現れた。スクリュー音がない。キャビテーション(気泡破裂)の音すらない。超伝導磁気推進による、完全なる「無音の威圧」が、相模湾を支配した。
「……な、なんてことだ。これは、ウチのズムウォルトだ! なぜ三隻も!」
ミラー中将の顔から、完全に血の気が引いていく。
アメリカ海軍が莫大な予算を注ぎ込みながら、主砲のコスト問題や運用困難さからわずか三隻で建造を打ち切り、事実上「ガラクタ(失敗作)」として持て余しているズムウォルト級。
その理想形が、今、自分たちの目の前で、日本の独立部隊によって完全に運用されていたのだ。
「……ウチのズムウォルトより、さらに洗練されている……! あの船体、莫大な発電力を全て兵器へ注ぎ込める、米軍が諦めた『完全なるレールガン搭載艦』だぞ……!」
アメリカの将官たちは、完全に言葉を失い、冷や汗を流してその黒き要塞を見上げていた。
かつて米軍が「夢」と呼び、そして「重荷」として手放した設計図を、
日本のS.O.D.U.が拾い集め、独自のオーパーツ技術で魔改造し……
世界の覇権を根底から崩しかねない「悪魔の近衛兵」を造り上げていたのだ。
アナウンスが最後に
『風早型特務補給艦、
AOE-X01《はやすい(速吸)》』と
『原子力空母、CVN-00《こうよう(皇陽)》』の名を読み上げる頃には、会場には称賛の声などなく、ただただ底知れぬ恐怖と、世界の秩序が塗り替えられていく音だけが響いていた。
帝国海軍の魂を継ぐ艦名を与えられた、オーパーツの技術の塊たち。
北斗打撃群は、アメリカの捨てた夢をその身に纏い、世界の覇権をその鋼鉄の拳で粉砕しながら、堂々と太平洋へと羽ばたいていくのであった。
帝国海軍の魂を継ぐ艦名を入れてみました。




