洋上のピラミッド
北斗打撃群の全容を捉えようと、国内外のメディアが手配した報道ヘリやチャーター機が、太平洋の空を蜂の群れのように飛び回っていた。
彼らが狙うのは、補給のために足を止めるであろう「無敵の艦隊」の姿だ。
「見えたぞ! 巨大な空母と……あれはステルス補給艦だ! 並走して洋上補給を行っている!」
アメリカの大手ニュースネットワークの記者が、興奮気味にマイクへ叫ぶ。
眼下の青い海原には、原子力空母『こうよう』と、特務補給艦『はやすい』が送油ホースとワイヤーで結ばれ、航行しながら見事な補給作業を行っていた。
だが、カメラマンが望遠レンズの倍率を最大にした直後、記者は目を丸くして絶句した。
「おい、待て……あの補給陣形を囲んでいる護衛艦はなんだ!? まるで海面に突き出た巨大なピラミッドじゃないか!」
「ズムウォルト級だ! なぜアメリカ海軍の最新鋭ステルス駆逐艦が、日本の部隊と並走しているんだ!?」
モニターに映し出されたのは、船体が上部に向かってすぼまっていく特異なタンブルホーム船型。間違いなく、米軍が誇る(そして持て余している)ズムウォルト級のシルエットだった。
しかし、カメラがさらにズームインした時、アメリカの記者たちは己の目を疑った。
「馬鹿な……星条旗が掲げられていないぞ。それに、オリジナルのズムウォルトより、さらに洗練されたアップデートが施されている……!」
それはアメリカの船ではなかった。
米軍が「高コストで運用困難」と事実上見切りをつけた夢のステルス艦の設計を、S.O.D.U.が独自のオーバーテクノロジーで完成形へと昇華させた、
『改ズムウォルト級駆逐艦』の群れだった。圧倒的な発電能力を活かした高出力レーザー兵器を隠し持ち、『こうよう』の絶対的な近衛兵として睨みを利かせていたのである。
その映像が世界中に生中継された数十分後。
日本の首相官邸、御子柴首相の執務室にあるホットラインが、怒りを孕んだ強烈なコール音を鳴らした。
「――ミコシバ! お前たちは一体何をするつもりだ!!」
受話器越しに響くのは、アメリカ大統領の怒号であった。
「我が国の最重要機密であるズムウォルトの設計を盗用したのみならず、あのような形で世界中に見せびらかすとは! 同盟国への明白な裏切りだぞ!」
「……盗用とは人聞きが悪い。我々は、貴国が持て余していた素晴らしい『アイデア』を、少々我々の環境に合わせて最適化させていただいただけです」
御子柴は顔色一つ変えず、淡々と冷たい言葉を返す。
大統領がさらに激昂し、経済制裁や第七艦隊の展開をチラつかせて脅迫しようとした、まさにその時だった。
『――お話し中のところ失礼。少々よろしいでしょうか、大統領閣下』
突如、厳重な暗号化が施されているはずのトップ会談の回線に、ノイズ一つなく「第三者の声」が割り込んできた。
太平洋上、空母『こうよう』の司令部壕からハッキングに近い形で直接通信を繋いできた、S.O.D.U.司令官・天城少将であった。
「な、なんだ貴様は! なぜこの回線に――」
『北斗打撃群司令の天城です。先ほどから、随分と我々の“新しい近衛兵”がお気に召さないご様子ですが』
天城は、怒りに震える世界最強の権力者を前にしても、まるで世間話でもするかのように軽く、そして冷徹に言い放った。
『己の身を己で守って、何が悪いのですか?』
「……ッ!」
『我々はすでに、誰の傘にも入るつもりはありません。これ以上の無用な干渉は、太平洋におけるパワーバランスを決定的に崩すことになりますよ。……どうぞ、賢明なご判断を』
それだけを言い残し、天城は一方的に通信を切断した。
静まり返る受話器を握りしめたまま、アメリカ大統領はかつてない底知れぬ恐怖と屈辱に、ギリッと奥歯を噛み鳴らした。




