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白日の下の刃

数日前にSNSへ投稿された、たった十数秒の動画。

 荒い画質の中で波を切り裂き、物理法則を無視したドリフト機動で某国艦船の前に立ちはだかった「X03」と「X05」の映像は、世界を震撼させるのに十分すぎる破壊力を持っていた。

 これまで各国の軍上層部や、一部のディープなミリタリーオタクたちの間だけで「日本が秘密裏に建造しているオーパーツ」として都市伝説のように語られてきた存在が、ついに一般の不特定多数の目に触れてしまったのだ。


 世界各国のメディアとインターネットは、瞬く間にこの灰色の艦船の話題で持ちきりとなった。



『Banzai !! 日本がとうとう本気を出したぞ!』


『あの機動力でミサイルを積んでいたら、既存の海軍ドクトリンは過去の遺物になる』


『ついに自国を自らの手で〝護〟る力を持った! 歴史的な瞬間だ!』



 海外のネットユーザーからは、驚愕とともに称賛めいたコメントが相次いだ。特に、圧倒的な暴力を前に一歩も退かず、見事な操艦技術で某国艦船を追い詰めた二隻の「シスターシップ」の姿は、多くの人々を熱狂させた。

 しかし、国内に目を向ければ、反応は真っ二つに割れていた。


『憲法九条を守れ! 軍拡反対!』


『総理は国民に隠して何を建造していたんだ! 専守防衛を逸脱している!』


『いや、相手は領海侵犯してきたんだぞ。あの船がいなきゃ国益を奪われていた』


『日本は世界に対抗しうる力を持ち始めたんだ。誇るべきだろ』


 賛否両論の嵐。ニュース番組のコメンテーターたちは連日連夜、存在も定かではない「未知の艦隊」について激論を交わし、官邸前では抗議デモと支持派の集会が入り乱れる事態となっていた。

 そして、この騒動を最も深刻に受け止めていたのは、他ならぬ関係各国政府であった。

 日本を仮想敵国と見なしている大陸の某国は、即座に国営放送を呼び、あの動画を背景に大々的なプロパガンダを展開した。


『日本は再び軍隊を持った! 半世紀前と同じ過ちを繰り返そうとしている!』


『アジアの平和を脅かす重大な挑発行為である。我々は断固として抗議する』


 キャスターのヒステリックな声が、連日電波に乗って世界中へと垂れ流された。自国の艦船が不法な領海侵犯を行っていたという事実は、完全に棚に上げられていた。

 だが、日本政府にとって真の脅威は、同盟国であるはずのアメリカ合衆国からの反応であった。

 急遽セッティングされた、ワシントンDCでの日米首脳会談。

 重厚なマホガニーのテーブルを挟み、アメリカ大統領は御子柴首相を鋭く睨みつけた。



「ミスター・ミコシバ。あの動画の『おもちゃ』は、一体なんだね?」


「……我が国の領海と国益を護るための、新しい盾です。それ以上でも以下でもありません」


「盾、ね。私には、世界のパワーバランスを根底から覆そうとする『矛』に見えるが」



 大統領は皮肉げに鼻を鳴らし、手元の資料をテーブルに放り投げた。


「日本は、我々が提供する『核の傘』から出るつもりか? ……それとも、あの艦隊を使って、世界経済のルールメーカーである我々を出し抜くつもりかね?」


 その言葉の裏には、冷酷なまでの恫喝が込められていた。

 現在、世界の経済は事実上「ドル建て」で動いている。アメリカが世界の中心であり続けられるのは、圧倒的な軍事力でシーレーン(海上交通路)を支配し、ドルの信用を担保しているからだ。


 もし、日本がアメリカの軍事力に依存せず、独自の規格外艦隊(S.O.D.U.)でシーレーンを単独防衛できるとなれば……それはアメリカが握っている「世界の特権」を揺るがすことに他ならない。

「我々は、現状の秩序オーダーが塗り替えられることを決して容認しない。日本政府には、あの艦隊の全容と運用権限に関する詳細な説明を求める。……これは同盟国としての『要請』ではなく、世界の警察としての『警告』だ」



 御子柴首相は、大統領の威圧的な視線を真っ直ぐに受け止めながら、ただ静かに沈黙を守っていた。

 たった一つの動画が引き金となり、世界の天秤が激しく揺れ動き始めていた。

 北斗打撃群の存在は、もはや日本の防衛問題の枠を超え、世界経済と覇権を賭けた巨大なチェス盤の「最重要ピース」として、表舞台へと引きずり出されたのであった。

「核の傘」から「ドル覇権(基軸通貨)」という経済的な裏側の話まで繋げることで、

ただの軍事衝突ではなく、「世界秩序ルールを賭けた戦い」へとスケールアップしました。

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