海上の韋駄天
日本の最南端に位置する、レアアースが眠る豊かな海域。
その神聖な領海内に、図々しくも侵入を続ける黒塗りの船影が二つあった。某国の海洋調査船を偽装した、事実上の資源探査船である。
『――こちらは日本国海上保安庁。貴船は我が国の領海に侵入している。直ちに退去しなさい』
並走する二隻の海上保安庁・大型巡視船が、国際VHFと大音量のスピーカーで何度も警告を発する。しかし、某国の二隻は馬耳東風とばかりに警告を無視し、あろうことか調査用のワイヤーを海中へ投下しようとしていた。
海保の巡視船が強行接舷を試みようと舵を切った、その時だった。
数十海里離れた海域で戦術機動訓練を行っていた、二つの「灰色の影」が猛烈なスピードで海を切り裂いて接近してきた。
S.O.D.U.北斗打撃群所属、次世代高速ミサイル駆逐艦DDG-X03『みやつかぜ』と、同DDG-X05『あきつかぜ』である。
最高速力50ノットオーバー。
ガスタービンと超伝導モーターが発する甲高い駆動音と共に、二隻の駆逐艦は、必死に追走していた海保の巡視船の横を「まるで止まっているかのような」圧倒的な速度差で追い抜いていった。
「な、なんだあの船は……!? 護衛艦!? いや、速すぎる!!」
海保の乗組員たちが呆然と見送る中、先行した『みやつかぜ』が某国調査船の鼻先へ鋭く割り込み、巨大な船体を横たえてその進路を完全に封鎖した。
たまらずスクリューを逆回転させ、急ブレーキをかける某国調査船。
すると、調査船の後方から、護衛として随伴していた某国海軍のフリゲート艦が、牙を剥くように猛スピードで『みやつかぜ』へと突進してきた。明らかに、体当たり攻撃を辞さない危険な進路だ。
だが、そのフリゲート艦が『みやつかぜ』の側面に迫る直前。
さらに後方から弾丸のようにすっ飛んできた妹艦『あきつかぜ』が、姉を守るように、某国フリゲート艦と『みやつかぜ』の僅かな隙間へと凄まじい角度で滑り込んだ。
ザザーーッ!! と、ビル数階建てほどの高さにもなる巨大な水飛沫が上がり、海上に真っ白な壁を作り出す。
モーターボートのようなドリフト機動で某国フリゲートの進路を塞いだ『あきつかぜ』の主砲が、冷酷に敵艦の艦橋にピタリと照準を合わせていた。
少し遅れて到着した海保の巡視船も、S.O.D.U.の姉妹艦を援護するように展開する。
圧倒的な機動力と、決して退かない鋼の意志。ここで手を出せば確実に海のもくずとなる――そう悟ったのか、某国の三隻は重苦しい排煙を吐き出しながら回頭し、EEZ(排他的経済水域)の外へと逃げるように水平線の彼方へ消えていった。
後日。
首相官邸の記者会見室は、異様な熱気に包まれていた。
神崎官房長官は、フラッシュの瞬く中で重々しく口を開く。
「……先日、我が国南方の領海内において、海上保安庁および『関連機関』の連携により、外国船舶の退去措置を適切に完了いたしました。詳細な部隊名については、安全保障上の観点から回答を差し控えます」
記者たちの追及は、その後廊下を歩く御子柴首相にも向けられたが、首相は
「私からは何も言うことはない。現場が国益を守った、それだけです」
と一蹴し、足早に執務室へと消えた。
事態がそれで収束したかに見えた数日後。
神崎官房長官のタブレット端末に、秘書官から真っ青な顔で一つの動画が送られてきた。
『長官、これを……。某国の水兵がスマートフォンで撮影し、SNSにアップロードしたようです。すでに全世界で数千万回再生されています』
その動画は、波に揺れる某国フリゲート艦の甲板から撮影されたものだった。
荒い画質と風のノイズの中、画面の奥で、灰色の巨大な軍艦が信じられない光景を展開していた。数千トンはあるはずの駆逐艦が、まるで小型ボートのような身軽さで海面を滑り、信じられない速度で急旋回しているのだ。
船体には『X03』の白い文字。
動画の撮影者が自国の言葉で何かを叫んだ直後。
突如、画面の右端から尋常ではない水飛沫を上げて、『X05』と書かれた別の艦がカメラの目の前へ割り込んできた。
巨大な壁のように立ちはだかる『X05』の威圧感に、撮影者が悲鳴を上げてスマートフォンを取り落とし、動画はそこで途切れていた。
この数秒のクリップは、瞬く間に世界中のネット掲示板とSNSを席巻した。
『X03ってなんだ!? 海自にこんな艦あったか!?』
『wtf!!, 早すぎるだろ!! 映像を早送りしてるのか!?』
『物理法則無視してない? 駆逐艦っぽいけどアーレイ・バーク級とは全然違う、なんだこれは!?』
『X05のドリフトえぐすぎwww 姉ちゃん守る妹みたいで尊い』
『日本はガンダムの前にヤバい船作ってたのかよ……』
日本政府が隠し通そうとした「北斗打撃群」の規格外な力が、皮肉にも敵国の兵士の手によって、全世界の明るみに出た瞬間だった。




