表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/19

深海の試練

2026年1月28日、太平洋の深淵。S.O.D.U(戦略海洋開発隊)が誇る精鋭、北斗打撃群は、極秘の戦術機動演習のため、日本の排他的経済水域(EEZ)の最果て、水深3,000メートルを超えるマリアナ海溝の北端を航行していた。

旗艦たる超大型原子力空母「こうよう」を中心に、左右を固める戦略打撃護衛艦「てんかい」と「てんすう」。その巨体を守るように、多目的防空護衛艦「ずいうん」が上空を睨み、後方には戦略指揮巡洋艦「たかお」が揺るぎない存在感で殿を務める。そして、隊列の最前線を切り開くのは、超高速駆逐艦「みやつかぜ」と「あきつかぜ」の「双風」。

この7隻の陣形は、水上から見ればまさに洋上の北斗七星。しかし、その真下、遥か2,000メートルの深海には、もう一つの「星」――原子力潜水艦「しんえん」が、音もなく巨大な影を潜めていた。

「艦隊、針路270、速力20ノットを維持。各艦、警戒態勢『α』を継続」

「こうよう」の艦橋で、艦隊司令を務める天城あまぎ少将の声が響く。彼は冷静沈着な男だが、その胸中には、この「北斗打撃群」の真価を試す好機を待ち望む熱い闘志が宿っていた。

その時だった。

「司令! 未確認目標、急速接近中!」

「ずいうん」のCIC(戦闘情報センター)から、緊迫した声が「こうよう」の艦橋に届く。

「種別は? 識別は可能か?」

「不明です! 極めてステルス性が高く、これまでのデータベースに合致しません!……目標3、駆逐艦級と思われます!」

所属不明の駆逐艦が3隻。しかも、この極秘演習海域に突如として現れた。

天城少将の脳裏に、一つの可能性が閃光のように走る。これは偶然ではない。試験されているのだ、この北斗打撃群の力が。




先制攻撃と双風の閃光


「全艦、戦闘配置! 『てんかい』『てんすう』、主砲レールガンは温存! 『ずいうん』、レーザーCIWSを最大出力! 『みやつかぜ』『あきつかぜ』、敵の先頭艦へ肉薄し、識別と威嚇射撃準備!」

天城少将の命令は電光石火だった。

未確認目標の3隻は、北斗打撃群の左舷方向から急速接近。その船体は異様な漆黒で塗られ、艦橋にはどこの国旗も掲げられていない。

「敵艦、主砲発射!」

「ずいうん」から悲鳴のような報告が上がる。しかし、それは「ずいうん」の真骨頂を発揮する合図でもあった。

「レーザーCIWS、全方位展開! 目標を焼き尽くせ!」

「ずいうん」の艦体から一斉に放たれた無数のレーザービームが、漆黒の夜空を切り裂く。それはまるで、艦隊を覆う透明なドームのようだった。敵艦から放たれたミサイルや砲弾は、触れる端から蒸発し、大気中に消え去っていく。

その間にも、「双風」が動いた。「みやつかぜ」と「あきつかぜ」は、52ノットという常識外れの速力で一気に加速。水面を滑るように進み、敵の先頭艦へと肉薄していく。

「敵艦、速度低下! 我々の機動についてこれていません!」

「あきつかぜ」艦長の声が響く。

「みやつかぜ」、主砲レールガン『蜻蛉かげろう』、威嚇射撃用意!」

「あきつかぜ」が指示を出す。雅津風の艦首から伸びる連装レールガンが、低く唸りを上げた。実弾は撃たない。だが、その砲口から放たれる電磁加速の衝撃波が、敵艦の艦橋をかすめ、船体に搭載されたセンサー類を一時的に麻痺させた。

敵艦隊は困惑しているようだった。自分たちの攻撃が全く通用せず、日本の駆逐艦が常識外れの速力で目の前を駆け抜け、レーダーを狂わせていく。彼らはただの「自衛艦」ではない。その事実に気づき始めたはずだ。




てんかい・てんすうの咆哮と、たかおの智略


「敵艦隊、隊列を乱しました! 我々に集中しようとしています!」

「こうよう」のCICで、戦況がリアルタイムで表示される。

「てんかい」「てんすう」、威嚇射撃! 狙いは敵艦隊の航路前方の海面! 」

天城少将の号令とともに、「てんかい」と「てんすう」の巨大な主砲レールガンが咆哮した。

轟音は発生しない。だが、砲口から放たれた電磁波の塊が、敵艦隊の前方500メートル先の海面に着弾。

ドォォン!

海面に直径100メートルもの巨大な水柱が立ち上った。それはまるで巨大な隕石が海に落下したかのようだ。海水は瞬時に蒸発し、半径数キロの範囲に津波のような波紋を広げる。

その衝撃波は、漆黒の駆逐艦3隻の船体を激しく揺さぶり、計器類を完全に狂わせた。

「敵艦隊、全艦停止! 全システムダウン! 動けません!」

「ずいうん」からの報告に、艦橋に微かな安堵の空気が流れる。

「タカオ」、敵艦隊の通信傍受を試みろ。彼らの素性を暴く。」

「たかお」は、艦隊の殿でその巨大な艦体を静かに保っていたが、その内部では、最新鋭のイージスシステムと情報収集能力がフル稼働していた。

「了解。全周波数帯をスキャン、暗号解読を試みます……!」

数分後。「たかお」から驚くべき報告が上がった。

「司令! 傍受に成功しました! 敵艦隊は、某国の『特別調査部隊』。極秘裏に開発された新型ステルス駆逐艦とのこと。彼らの目的は、我々S.O.D.Uの艦隊の『真の戦力』を測ることでした!」

天城少将の予感は的中した。これは、日本の技術力を試す、いわば「挑戦状」だったのだ。




しんえんの存在、そして深海の沈黙


「彼らは我々を『5隻の駆逐艦と2隻の巡洋艦、そして空母』だと計算していたはずだ。しかし、彼らは『ずいうん』の防空レーザーと『てんかい』『てんすう』のレールガンでその誤算に気づいた」

天城少将は冷静に分析する。

「しかし、まだ彼らは『8番目の星』の存在に気づいていない」

その言葉の直後。

「司令! 敵艦隊のソナーに、突如として巨大な反応! ……しかし、すぐに消えました!」

「たかお」から、興奮を抑えきれない声が上がる。

「しんえん」だ。

天城少将は確信した。潜水艦「しんえん」が、彼らの真下、海底2,000メートルから、あえて一瞬だけその存在を知らせる「威嚇浮上」を行ったのだ。

スクリュー音も立てず、泡一つ立てずに現れ、また深海へと消えていく漆黒の巨体。それは、まるで亡霊のようだった。

敵艦隊の通信は完全にパニック状態に陥っていた。

「未確認の巨大な水中目標! 何だあれは!? ソナーが何も捉えられない! 深海から……我々を見上げていたのか!?」

「沈黙せよ! パニックになるな! しかし……これは、ありえない。我々のソナーシステムでは、あの深度で、あんな巨大なものを捉えられないはずだ!」

北斗打撃群の全ての艦艇が、一発の弾丸を敵艦の船体に命中させることなく、彼らの誇りも、プライドも、そして最新鋭のテクノロジーも打ち砕いた。

空母「こうよう」の巨大な艦橋から、夜の海を見下ろす天城少将の目に、満足げな光が宿る。

「各艦、演習を再開する。敵艦隊には、そのまま海上に留まらせておけ。彼らが自力で復旧するまで、我々は先に進む」



新たな時代の幕開け


北斗打撃群は、乱れた隊列を整え、再び静かに航海を再開した。

残された3隻の所属不明駆逐艦は、呆然と海上に立ち尽くしている。彼らは「日本には空母打撃群などない」と豪語していた国の精鋭だった。しかし、彼らが目の当たりにしたのは、既存の軍事概念を根底から覆す、異次元の力だった。

「みやつかぜ」と「あきつかぜ」が先頭を切り、波を切って進む。

その背後には「てんかい」と「てんすう」がレールガンを携え、いつでも狙撃できる態勢。

中央には「こうよう」が圧倒的な威容を誇り、上空は「ずいうん」のレーザー網に守られている。

最後尾の「たかお」が、全てを見通すように静かに殿を務める。

そして、その艦隊の真下には、「深淵」が海の闇に溶け込み、敵の心臓を狙う。

この日、太平洋の深海で、新たな時代の幕が開かれた。

「北斗打撃群」。その名は、数日後、世界の軍事情報機関のトップシークレットとして、最重要機密指定されることとなる。

彼らは、一発の弾丸も撃つことなく、世界に日本の真の力を知らしめた。

それは、力による支配ではなく、「圧倒的な力による静かなる抑止」の始まりだった。

そして、その指揮を執った天城少将の脳裏には、次の戦いが、いや、次の「試練」が、既に描かれ始めていた。




各方面の反応


米海軍ペンタゴンの衝撃


ハワイの太平洋艦隊司令部では、緊急の会議が招集された。

• 「何なんだ、あの速力は!」:52ノットで爆走するみやつかぜ・あきつかぜの航跡を見た分析官が叫びました。「我々の沿海域戦闘艦(LCS)が止まって見えるぞ」

• 消えたミサイル:ずいうんのレーザー防空網によって、敵の攻撃が「物理的に存在しなかったこと」にされた映像を繰り返し再生。「我が国の空母打撃群の防御理論を根本から見直す必要がある」と、提督たちは青ざめました。

• 「8隻目」への恐怖:最も彼らを震え上がらせたのは、最新鋭ソナーが捉えた一瞬の「深海の歪み」です。「深海2,000mに巨大な質量。ありえん、クジラにしては速すぎるし、機械にしては静かすぎる……」


敗北した「某国」のパニック


自慢の新型ステルス駆逐艦を無力化された某国国防省は、恥辱と恐怖に包まれました。

• 「魔法でも使ったのか?」:てんかい・てんすうのレールガンによる衝撃波で、船体は無傷なのに全システムがダウン。「直接当てずに、海水と大気の衝撃波だけで我が方の電子機器を焼き切ったのか……?」

• 亡霊との遭遇:生存した士官の証言が物議を醸しました。「空母の下に、地獄の蓋が開いたような巨大な影を見た。あれが『深淵』だとしたら、我々に勝ち目はない……」

• 情報の隠蔽:この大失態を隠すため、彼らは公式には「海象悪化による演習中止」と発表。しかし、現場の兵士たちの間では「極光の死神」という都市伝説が広まり始めていた。


日本国内とSNSの狂騒


公式には「通常の警戒監視活動」とされましたが、目撃情報は止められなかった。

• 「横須賀に現れた七星」:帰港する艦隊を捉えた不鮮明な写真がSNSで拡散。「イージス艦よりデカい駆逐艦がいるんだが」「あの空母、名前が『こうよう』って書いてない?」と軍事マニアが熱狂。

• 「消えた一隻」の噂:目ざといネット民が、艦隊の波紋を解析。「船は7隻なのに、海水の乱れ方が8隻分ある。海底に何かデカいのが隠れてるぞ」という『8隻目の幽霊』説がトレンド1位に。


S.O.D.U(戦略海洋開発隊)の冷徹な沈黙


• 公式発表:「本日の演習において、不慮のシステムトラブルに見舞われた他国艦艇に対し、人道的な観点から電子的な航行支援を行いました」

• 内部の笑み:タカオの艦橋では、オペレーターが「支援という名の完全制圧、最高に気持ちよかったですね」と冗談を飛ばし、天城少将はただ小さく頷くだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ