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覇権の天秤

ペンタゴンの焦燥


 2027年1月。アメリカ、ワシントンD.C.。

 国防総省の最奥部にある会議室は、氷点下のような冷たさに包まれていた。

 巨大なモニターに映し出されているのは、先日の「台風の中の救助劇」と、「朝日に輝く『てんかい』『てんすう』」の映像。

 世界中のメディアが、「新しい海の守護神」「米海軍は嵐の中で動けなかった」と書き立てていた。


 「……これは、どういうことだね」


 重々しい口調で切り出したのは、米国防長官 ジェームズ・ヘイズ。

 タカ派で知られ、アメリカの軍事優位を絶対視する男だ。


 「我々の空母打撃群が、ただの引き立て役に見える。

 S.O.D.U.……日本の『戦略海洋防衛隊』。彼らの技術レベルは、我々の想定を10年、いや20年は上回っている」

 ヘイズ長官は机を拳で叩いた。


 「このままでは、インド太平洋における米軍のプレゼンス(存在感)が崩壊する。

 『何かあったら米軍が来る』ではない。『S.O.D.U. が何とかしてくれる』と世界が思い始めれば、我々の安全保障体制の根幹が揺らぐのだ」




密命


 ヘイズ長官は、スクリーン越しの人物に鋭い視線を向けた。

 現場を知る男、第7艦隊司令官 マクニール中将だ。

 「マクニール。君は彼らと何度も演習を行っているな」

 「はっ。……彼らは優秀で、信頼できる友人です」

 「友人か。……だが、彼らの『真意』はどうだ?」

 ヘイズは目を細めた。

 「彼らはなぜ、あそこまでの過剰な力を持つ?

 専守防衛? 笑わせるな。レールガンも、50ノットの駆逐艦も、防衛の域を超えている。

 ……日本は、アメリカに代わって世界の警察になるつもりか? それとも、いつかその銃口を我々に向けるつもりか?」

 「……」

 マクニールは沈黙した。彼自身、S.O.D.U.の底知れなさに畏怖を感じていたのは事実だったからだ。

 「命令だ、中将。

 近々、横須賀で日米の『安全保障実務者会議』を開く。名目は、次期データリンクシステムの相互運用性の確認だ。

 だが、真の目的は違う」

 ヘイズは冷酷に告げた。

 「S.O.D.U.の真意を炙り出せ。

 彼らが我々の覇権を脅かす存在なら……その『牙』を抜くための政治的圧力をかける準備をする」




横須賀の冷たい風


 数日後。横須賀基地内の厳重な会議室。

 「安全保障実務者会議」の看板とは裏腹に、空気は張り詰めていた。

 米側席には、マクニール中将と、本国から派遣された強面の背広組(ペンタゴン高官)。

 対する日本側席には、S.O.D.U.北斗打撃群司令 天城あまぎ少将と、連絡将校の如月二佐が座っていた。


 表向きの技術協議が淡々と終わった後、マクニールが口を開いた。

 「……さて、天城少将。ここからはオフレコで話したい」


 「何でしょう、中将」

 天城は表情を変えずに紅茶に口をつけた。


 「単刀直入に聞く。……S.O.D.U.は、どこへ向かおうとしている?」

 マクニールの目が、友人のそれから、軍人の鋭い眼光に変わる。

 「貴官らの戦力は、既に一国の海軍を超えている。

 その力で、世界の秩序をアメリカに代わって書き換えるつもりか?」




鷲と北斗の違い


 会議室に沈黙が落ちた。

 同席していたペンタゴン高官も、威圧的な態度で天城を睨みつける。


 「イエスかノーで答えていただきたい。日本は、合衆国の『傘』から出るつもりなのか?」


 天城はゆっくりとカップを置いた。

 そして、静かに、しかし力強く答えた。

 「誤解されているようですね。

 ……中将。貴国の海軍の象徴は『イーグル』だ。

 空高く舞い、鋭い爪で獲物を狩り、その威容で地上の獣を恐れさせる。それが『抑止力』だ」


 天城は、自らの胸にある北斗七星のエンブレムを指した。

 「だが、我々は『北斗』だ。

 北斗は、自ら動いて獲物を狩りには行かない。

 ただ、夜の闇に迷った者に道を示し……そして、闇から襲い来る『理不尽』を打ち砕く時だけ、鉄槌となる」


 天城はマクニールを真っ直ぐに見据えた。

 「アメリカが『世界の警察』として、秩序を守るならそれでいい。我々はその座を奪うつもりはない。

 だが……貴国が対処しきれない『規格外の脅威』が現れた時、誰がそれを止める?」


 「規格外の脅威、だと?」


 「そうだ。巨大災害、デブリ落下、あるいは……既存の軍事常識が通じない未知の敵。

 S.O.D.U.は、その『万が一』のために剣を磨いている。

 貴国が『王』であり続けるための、最強の『盾』になるために」




信頼と警戒


 天城の言葉に、マクニールは息を呑んだ。

 「我々と競うつもりはない、と?」


 「ええ。我々は、あなた方が寝ている間の『夜警』で構いませんよ」

 天城はニヤリと笑った。

 「もっとも、その夜警が強すぎて、王様が安心して眠りすぎるのも困りものですがね」


 その場にいた全員が、その皮肉交じりの本音に、わずかに毒気を抜かれた。


 会議後。

 マクニールは、ヘイズ長官への報告書を作成していた。

 『報告。S.O.D.U.に、米国への敵対的意図なし。

 彼らは覇権を求めていない。求めているのは、究極の危機管理能力のみである。

 ……ただし』


 マクニールは窓の外、横須賀の海に浮かぶ『てんかい』を見つめて、一文を付け加えた。


 『ただし、彼らの盾は、時として我々の矛よりも鋭い。

 我々は、彼らを友人として繋ぎ止めておくために、我々自身も進化し続けなければならない』

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