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幕間:名称変更

【場所:S.O.D.U. 司令部執務室(横須賀)】

【日時:2026年4月1日】



 窓の外には、春の陽気とは裏腹に、鉛色の巨体が鎮座していた。

 戦略打撃護衛艦『てんかい』。その艦首には、都市一つを停電させるほどの電力を食らう「超電磁加速砲レールガン」が、黒々とした砲身を突き出している。


 執務室の革張りのソファで、S.O.D.U.北斗打撃群司令、天城少将は、渡された一枚の通達書をひらりとめくった。


「……ほう。『戦略海洋防衛隊』か」


 その向かいで、連絡将校の如月きさらぎ二佐が、タブレット端末を操作しながら淡々と答える。


「はい。本日付で正式決定しました。

 これまでの『戦略海洋開発隊(Strategic Ocean Development Unit)』という名称は、本日をもって廃止となります」


「開発、ねぇ……」

 天城は苦笑いし、窓の外の『てんかい』へ視線を投げた。


「まあ、潮時だろうな。あんな物騒なレールガンをぶっ放して

『海底資源の調査です』と言い張るには、私の顔の皮も、外務省の胆力も、いささか限界だったようだ」


「ええ。先日の国会答弁でも、野党議員から突っ込まれていましたから。


 『あのレールガンは、岩盤破砕用にしては殺意が高すぎるのではないか?』と」


「的確な指摘だ。ぐうの音も出ん」


 天城は書類をデスクに放り投げた。

 「で? 名称変更に伴うコストは?

 全艦艇の船体ロゴの書き換え、隊員の制服、ワッペンの刷新……。莫大な金がかかるぞ。財務省がよく首を縦に振ったな」


 如月は、少しだけ口角を上げて、悪戯っぽく笑った。

「そこがミソです、司令。

 英語名称をご覧ください」


「ん?」


 天城は再び書類に目を落とす。


 Old: Strategic Ocean Development Unit

 New: Strategic Ocean Defense Unit


「……Developmentを、Defenseに変えただけか」


「はい。頭文字は?」


「……S、O、D、U。……S.O.D.U.」


「そういうことです」


 如月は眼鏡の位置を直した。

 「略称は一切変わりません。したがって、船体にペイントされた『S.O.D.U.』のロゴも、我々が着ている制服のロゴも、そのまま流用可能です。

 書き換えるのは、名刺と、Webサイトのテキストデータくらいですね。

 財務省も『書き換え予算ゼロ円』という試算を見て、即決でしたよ」


「ハッ……!」

 天城は思わず噴き出した。


「傑作だな。お役所仕事ここに極まれり、か。

 世界中が恐れる北斗打撃群の改名劇が、ただの『単語の差し替え』で済むとは」


「ですが司令。これは大きな一歩です」

 如月の声色が、ふっと真面目なトーンに変わる。


「これまでは『開発』という建前の裏で、こそこそと武器を磨いてきました。

 ですが今日からは、『防衛(Defense)』だと胸を張って言えます。

 我々の力は、破壊のためではなく、守るためのものだと」


 天城は、真新しい自分の名刺を指先で弾いた。

 そこには『戦略海洋防衛隊』の文字が、インクの匂いと共に刻まれている。


「……違いない。

 『開発』の名を捨てた我々は、もう言い訳はできんぞ。

 これからは、その名の通り、あらゆる脅威からこの国を『防衛』してみせねばな」


「ご命令とあらば。……まずはあの『てんかい』のレールガンで、何を守りましょうか?」


「そうだな。とりあえずは……我々の安眠と、国民の平和な朝食でも守るとするか」


 天城は立ち上がり、窓の外の巨艦に向かって、小さく敬礼を送った。


 新しいS.O.D.U.の始まりは、派手な式典もなく、静かな事務連絡と共に幕を開けたのだった。

「略称が変わらないから安上がり」という、

いかにも日本のお役所が好きそうなロジックを入れてみました。

また、S.O.D.U. という組織がリアルに描けたのではないと、思っています。

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