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嵐の中の玉座

絶望の海域


 2026年9月。フィリピン海。

 この海域は今、観測史上最大級のスーパータイフーン「コブラ」の直撃を受けていた。

 風速60メートル、波の高さはビル5階分に相当する15メートル。

 視界はゼロ。レーダーも雨雲のノイズで真っ白になる、地獄のような状況だ。


 その暴風雨の中心付近で、一隻の国際海洋調査船『ポセイドンVII』がエンジンを停止させ、漂流していた。


 『Mayday, Mayday! こちらポセイドン、浸水止まらない! 転覆する! 助けてくれ!』


 近くを航行していた米海軍の空母『ロナルド・レーガン』を中心とする打撃群も、このSOSを受信していた。

 だが、艦橋の司令官は苦渋の決断を下していた。


 「ダメだ、ヘリを出せない! この風では離陸した瞬間に海へ叩きつけられる! ……嵐が過ぎるのを待つしかない」


 10万トンの巨体を持つ米空母ですら、木の葉のように揺さぶられ、甲板作業員は艦内に避難せざるを得ない状況だった。




揺れない影


 その時。米空母のレーダー担当員が、ノイズ混じりの画面を見て叫んだ。


 「艦あり! ……北東より、高速で接近する艦影3つ! この嵐の中、速力30ノットで突っ込んできます!」

 「バカな、自殺行為だ!」


 司令官が窓の外、漆黒の暴風雨に目を凝らす。

 雷光が走った瞬間、その「影」が浮かび上がった。


 先頭を行くのは、多目的防空護衛艦『ずいうん』。

 その鋭い艦首で巨大な波を切り裂き、精密なフェーズド・アレイ・レーダーで嵐の中の「道」を切り開く。

 右翼には、駆逐艦『あきつかぜ』。

 50ノットの機動力を持つ彼女は、荒れ狂う波をスタビライザーで強引にねじ伏せ、まるで生き物のように波間を跳躍している。

 そして、中央。


 米司令官は我が目を疑った。

 全長300メートルを超える、圧倒的な平面。


 原子力超大型空母『こうよう』。

 他の艦が激しくピッチング(縦揺れ)しているのに対し、『こうよう』だけが、まるで静かな湖面を進んでいるかのように、水平を保ったまま直進していたのだ。

 その姿は、嵐さえもひれ伏させる「海上の玉座」そのものだった。




雷神の弓、ゼロの矢


 『こちらS.O.D.U北斗打撃群、旗艦「こうよう」。これより救助活動を開始する』


 無線から、天城少将の落ち着き払った声が届く。

 米司令官は叫んだ。


 『天城提督! 正気か!? ヘリは飛ばせんぞ!』

 『問題ない。……我々の翼は、風如きでは折れん』


 『こうよう』の広大な飛行甲板。

 豪雨が叩きつける中、甲板下のエレベーターから、灰色の機体がリフトアップされた。

 S.O.D.U主力制空戦闘機、F-3『零神ゼロシン』。

 そして、救難用ティルトローター機。


 「リニア・カタパルト『草薙』、接続。……射出!」


 ヒュンッ!!


 蒸気の煙はない。電磁力による静かな、しかし強烈な加速。

 『零神』は、真正面から暴風の壁を突き破り、物理法則を無視したような推力で暗雲の空へと吸い込まれていった。




嵐の目での神業


 現場上空。

 『零神』が先行し、高性能センサーで要救助者の位置をピンポイントで特定。データを後続の救難機へ送る。


 「ターゲット確認。……揺れていますね」


 救難機のパイロットは、まるでゲームでもしているかのように淡々と操縦桿を握る。

 強風でマストが折れそうな調査船の上空で、S.O.D.Uの救難機はピタリとホバリングを維持した。AIによる姿勢制御が、風の乱れを予測し、瞬時にスラスターを吹かして位置を補正し続けているのだ。

 「収容開始。……3、2、1。確保」

 荒れ狂う海面から、奇跡のような手際で乗員たちが引き上げられていく。




王者の帰還


 全員の救助が完了し、機体が『こうよう』へ戻ってきた。

 最も危険な「着艦」の時だ。

 米空母のクルーたちは、祈るような気持ちでモニターを見つめていた。


 「あんなに甲板が濡れていては、スリップして海へ落ちるぞ……」


 だが、S.O.D.Uの辞書に「失敗」の文字はない。


 『強制着艦誘導、オールグリーン』


 『零神』と救難機は、吸い寄せられるように甲板へ滑り込み、アレスティング・ワイヤーがガシリと機体を掴んだ。

 揺れない甲板。完璧な制御。

 それは「冒険」ではなく、「作業」だった。




格の違い


 嵐が過ぎ去った翌朝。

 『こうよう』の医務室で、温かいスープを飲む調査船クルーたちの映像がニュースで流れた。


 米空母『ロナルド・レーガン』の艦橋で、司令官は呆然と呟いた。

 「……我々は嵐が過ぎるのを待っていた。だが彼らは、嵐など存在しないかのように振る舞った」


 横を航行する『こうよう』の巨大な艦体。

 その甲板には、救助任務を終えた『零神』が、朝日を浴びて神々しく輝いていた。

 

 北斗打撃群。

 それは単なる破壊の力ではない。

 どんな絶望的な状況でも、揺るがずに手を差し伸べることができる、「絶対的な守護の力」であることを世界に見せつけたのだった。

戦闘ではなく、「人命救助」のために出撃にすることで、

S.O.D.U.の理念、「力はまもるためにある」を、

強調出来たのではないかと、思っています。

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