沈黙の要塞
電子の嵐
2026年12月。ハワイ沖、リムパック(環太平洋合同演習)。
演習海域には、各国の艦隊が集結していた。
今回の主役は、S.O.D.Uの頭脳・戦略指揮巡洋艦『たかお』と、その護衛につく『てんかい』『てんすう』の3隻だ。
その圧倒的な巨体は、隣に並ぶ米イージス艦が「子供」に見えるほどで、参加国からは「あれは戦艦じゃないのか?」とヒソヒソ噂されている。
対抗軍(OPFOR)を務める米海軍は、この「巨体」を封じるための作戦に出た。
「強力な電子妨害」だ。
空母から発進した電子戦機『EA-18G グラウラー』の編隊が、『たかお』に向けて強力なノイズ電波を浴びせかける。
「目標、S.O.D.U艦隊! ジャミング開始! データリンクを遮断して、ただの鉄の塊にしてやれ!」
ノイズの中の紅茶
『たかお』のCIC(戦闘指揮所)。
そこは、他の艦とは空気が違っていた。
壁一面を埋め尽くす巨大スクリーンには、戦場のあらゆるデータが滝のように流れている。
「本艦に対し、強力なジャミングを確認。」
オペレーターが淡々と報告する。
指揮官席に座るのは、『たかお』艦長・神宮寺一佐。
銀縁メガネをかけた、理知的で冷ややかな女性指揮官だ。彼女は手元の紅茶に角砂糖を落としながら、つまらなそうにモニターを見上げた。
「.......うるさいハエたちね。こちらの計算リソースを0.5%も消費させられるなんて、光栄に思うべきかしら」
彼女はメガネの位置を直し、静かに命じた。
「『領域制圧』、開始。」
世界が白くなる
上空の米軍グラウラー隊。
パイロットたちは勝利を確信していた。「日本の巨大戦艦も、目が潰れれば……」
その時だった。
『ピーーーッ!』
突然、コックピットの全計器が異常な数値を弾き出した。
「なんだ!? レーダーが……真っ白だ!」
「HUDにノイズが! ……いや、これは文字か!?」
パイロットの目の前、キャノピーに投影されたデジタル表示が、ハッキングにより強制的に書き換えられていた。
【 S.O.D.U - System Override 】
【 Message: Please be quiet. (お静かに) 】
「バカな! 飛行制御システムまで入られた!? 操縦桿が効かない!」
「海を見ろ! 下の艦隊もやられてるぞ!」
海上の米艦隊も同様だった。
イージスシステムの画面が全て「S.O.D.Uのロゴマーク」一色に染まり、通信機からは優雅なクラシック音楽が大音量で流れ始めたのだ。
巨人の沈黙
『たかお』は、一発のミサイルも撃っていなかった。
ただ、たかおに備わったフェーズド・アレイ・レーダーから、指向性の「対抗電波」を照射しただけだ。
しかし、その出力と演算能力は、スーパーコンピュータ数千台分に匹敵する。
米軍の電子戦攻撃を瞬時に解析し、その回線を逆流して、システムの中枢を掌握したのだ。
両脇を固める『てんかい』と『てんすう』のレールガンが、ゆっくりと米艦隊へ向けられる。
撃つまでもない。
今の米艦隊は、システムを奪われ、身動きの取れない「浮いた棺桶」だった。
「……チェックメイト」
神宮寺艦長が紅茶を一口すする。
戦艦以上の恐怖
演習は、S.O.D.Uの圧勝で中断された。
米軍の指揮官は、真っ青な顔で『たかお』を見上げていた。
「……信じられん。あの船は、ミサイルを撃つための船じゃない」
「ああ。あれは……戦場そのものをハックするための巨大サーバーだ」
かつての巨砲を持つ戦艦の威圧感。
そして現代の最先端技術による電子支配。
その両方を兼ね備えた『たかお』と、処刑人のように佇む『てんかい』『てんすう』。
「空母がいなくても、この3隻だけで国が落ちるぞ……」
北斗打撃群の「中核」が持つ本当の恐ろしさを、世界が知った日となった。
砲撃されるよりも、「なにもできなくなる」という現代戦特有の絶望感を描写出来たのではないかと、
思っています。




