呉、暁の音楽祭
隠しきれない「未来」
2026年10月某日。広島県、呉基地。
瀬戸内の海特有の、濃い朝霧が港を包み込んでいた。
その乳白色のベールに紛れ、2隻の巨大な影が音もなく入港しようとしていた。
S.O.D.U 北斗打撃群所属、多目的防空護衛艦『ずいうん(瑞雲)』。
そして、天津風型駆逐艦 2番艦『ときつかぜ(時津風)』。
今回の任務は極秘の「定期メンテナンス」。特に『ときつかぜ』は武装を持たないテストベッド艦であり、その船体構造は最高機密の塊だ。
「日の出前に入港し、ドック入りする。市民に見つかる前にシャッターを閉めろ」
それが絶対命令だった。
だが、現代のSNS社会において、物理的な「大きさ」を隠すことは不可能だった。
午前6時。
「アレイからすこじま」公園を散歩していた一人の市民が、霧の中からヌッと現れた『ずいうん』の異様な艦影を目撃した。
パシャリ。スマホのカメラが光る。
『呉の港になんかヤバいの来てる。見たことない形の船。デカすぎない? 宇宙船かよ』
その投稿は、瞬く間に拡散された。
『なんだこれ、S.O.D.Uか!?』
『呉に入港!? 見に行かなきゃ!』
『ときつかぜって、あの幻の2番艦か!?』
午前7時。霧が晴れる頃には、港が見渡せる「歴史の見える丘」や公園には、カメラを持った群衆とマスコミの中継車が殺到していた。
逆転のプラン:弾丸フェス
「……司令。完全に囲まれました」
『ずいうん』の艦橋で、副長が頭を抱えた。
岸壁には既に数百人の市民が詰めかけ、手を振ったり写真を撮ったりしている。この状況で「機密なので撮影禁止です」などと言えば、逆に暴動が起きかねない。
その時、同行していた海上自衛隊・呉地方総監部の広報官が、冷や汗を拭きながら提案した。
「こうなったら、開き直りましょう。『極秘入港』ではなく……『サプライズ親善寄港』ということにして」
『ずいうん』艦長(S.O.D.U)は、ニヤリと笑った。
「なるほど。ファンサービスというわけか。……よし、いいアイデアがある」
彼は艦内マイクを掴んだ。
「総員、第一種……いや、『演奏』配置につけ! 呉音楽隊とセッションだ!」
甲板のステージ
午前8時。
ざわつく群衆の目の前で、事態は急展開を迎えた。
『ずいうん』の広大なヘリ甲板に、スルスルと巨大なスピーカーがせり出し、白い制服に身を包んだ音楽隊(S.O.D.U乗員有志と、急遽駆けつけた海自呉音楽隊の合同チーム)が整列したのだ。
『市民の皆様、おはようございます! 本日は、突然の寄港でお騒がせしております!』
スピーカーから明るい声が響く。
『これより、皆様へのご挨拶代わりとしまして、緊急ミニコンサートを開催いたします!』
「ええっ、マジで!?」
「コンサートやるの!?」
歓声が上がる中、指揮者がタクトを振った。
♪〜
一曲目は、誰もが知るアニメソングのメドレーだ。
『宇宙戦艦ヤマト』の勇壮なテーマが、本物の「未来の戦艦」から流れる。これ以上の演出はない。
続いて、流行りのJ-POP。アップテンポなリズムに合わせて、『ときつかぜ』の乗員たちが手拍子を煽る。
武装を持たない『ときつかぜ』の、どこか優しげな船体が、朝日に照らされて輝く。
「あれが時津風か……。なんか、戦う船っていうより、守ってくれそうな船だな」
市民の目は、もはや不審船を見る目ではなく、憧れのヒーローを見る目に変わっていた。
伝説のアンコール
30分ほどの演奏が続き、会場のボルテージは最高潮に達していた。
だが、真のクライマックスはここからだった。
『それでは、最後の曲です』
アナウンスのトーンが、少しだけ真面目なものに変わる。
『この呉の港は、かつて多くの艦たちが生まれ、そして旅立っていった場所です。
先人たちへの敬意と、これからの海の平和を祈って』
一瞬の静寂。
海風が、自衛艦旗(旭日旗)をバタバタとはためかせる。
指揮棒が振り下ろされた。
ジャン! ジャン! ジャン!
チャララララ、チャララララ……♪
行進曲『軍艦』。
そのイントロが鳴り響いた瞬間、空気が震えた。
軽快でありながら、底知れぬ威厳と哀愁を含んだ旋律。
金管楽器の咆哮が、呉の山々にこだまし、鋼鉄の船体を震わせる。
「うおおお……!」
集まった年配の男性が、思わず涙ぐんで敬礼した。
子供達も、そのリズムに合わせて行進の真似をする。
『ずいうん』と『ときつかぜ』の乗員たちも、甲板に整列し、岸壁の市民に向かって一斉に敬礼(登舷礼)を行う。
守るも攻むるも黒鐵の……
過去と未来が交差する。
かつての連合艦隊の魂が、S.O.D.Uの最新鋭艦に宿ったかのような錯覚。
それは、「兵器」という枠を超えた、純粋な「頼もしさ」の共有だった。
喝采の出航(ドッグ入り)
演奏が終わると同時に、割れんばかりの拍手が港を包んだ。
「ありがとうー!」
「かっこいいぞー!」
その喝采を背に、『ずいうん』と『ときつかぜ』は、当初の予定通り整備ドックへとゆっくり移動を開始した。
それは逃げるような入港ではなく、凱旋パレードのような誇り高い航行だった。
SNSには、新たな写真が溢れていた。
『朝から泣いた。軍艦マーチ最高』
『S.O.D.U、粋なことするじゃん』
『日本の海は任せたぞ』
整備ドックの中。
『ときつかぜ』の艦長は、外部の喧騒が遮断されたのを確認して、ふぅと息を吐いた。
「……バレたのは計算外でしたが、結果オーライですね」
「ああ。これでまた、予算が降りやすくなるだろうよ」
『ずいうん』艦長はウィンクした。
呉の街には、まだ行進曲の余韻が、心地よく残っていた。
呉基地にした理由ですが、ロケーションと言いますか、
歴史的背景があるからこそ、と言えばいいのですかね。
「宇宙戦艦ヤマト」や、「行進曲『軍艦』」が最高に映える描写に出来たのではないか。
また、武装のないテスト艦「ときつかぜ(時津風)」を活かし、
「平和の象徴」、「優しい船」としてのキャラ付けも
出来たのではないかと、思っています。
ちなみに自分は、行進曲軍艦を聴きながら文章を書いて、少し泣きました。




