風の系譜
■ 艦種: 天津風型 駆逐艦(Amatsukaze-class Destroyer)
■ 開発コード: Project-WIND(風の計画)
■ コンセプト:
「陽炎型」の航続距離と、「島風」の速力、そして現代のイージスシステムを融合させた、世界最強の汎用駆逐艦。
■ 建造リスト(姉妹の系譜):
• DDG-X01『あまつかぜ(天津風)』【長女:プロトタイプ】
• 現状: 退役(保管中)
• 設定: 全ての始まり。50ノット航行の実験中に船体に亀裂が入るなど、過酷なテストに晒され続けた。現在は横須賀の地下ドック奥深くで、妹たちに部品を提供するための「ドナー」として眠っている。
• 二つ名: 「空を翔ける風」
• DDG-X02『ときつかぜ(時津風)』【次女:テストベッド】
• 現状: 試験艦
• 設定: 武装を持たず、ひたすらデータ収集を行う非戦闘艦。S.O.D.Uの頭脳である『たかお』のサポート役として、裏方に徹している。
• 二つ名: 「時を告げる風」
• DDG-X03『みやつかぜ(雅津風)』【三女:実戦型ネームシップ】
• 現状: 北斗打撃群 主力艦
• 設定: X01とX02の犠牲の上に完成した、実戦仕様の完成形。姉としての責任感が強く、冷静沈着。弾道ミサイル迎撃など、精密な任務を得意とする。
• 二つ名: 「雅なる風」
• DDG-X04『???』【四女:欠番】
• 現状: 建造中止
• 設定: 「4」という数字を忌避したとも、開発中に原因不明の事故で消失したとも言われる。S.O.D.U内でも語ることがタブーとされている「呪われた妹」。
• DDG-X05『あきつかぜ(秋津風)』【五女:最新鋭艦】
• 現状: 北斗打撃群 主力艦
• 設定: 姉の『雅津風』をベースに、さらに攻撃的なアップデートを施された末っ子。気性が荒く、対艦・対空の乱戦を得意とする。52ノットという最高速は彼女が叩き出した。
• 二つ名: 「日本の風」
1. 限界領域のダンス
2026年8月、太平洋、マリアナ諸島沖。
日米合同演習「パシフィック・シールド」は、最終局面を迎えていた。
夕日が波頭を黄金色に染める中、米第7艦隊の将兵たちは、信じられない光景を目撃していた。
「おい、嘘だろ……。減速しないのか!?」
彼らの視線の先、S.O.D.Uの最新鋭駆逐艦『あきつかぜ(DDG-X05)』が、対艦ミサイル回避行動を行っていた。
現在の速力は、驚異の52ノット(約96km/h)。
通常なら、ここから大きく舵を切れば、遠心力で船体が横転するか、竜骨がへし折れる速度域だ。
だが、『あきつかぜ』は躊躇わなかった。
ズザアアアアッ!
海面を切り裂く轟音と共に、彼女は船体を斜めに傾けながら、直角に近い90度の急旋回を決めた。
船体からは、物理的限界を訴えるような金属の悲鳴が微かに響くが、決して壊れない。彼女は白い飛沫の壁を作りながら、ミサイルの射線を完璧にかわしてみせた。
『ブルー・リッジ』のデッキで見ていたマクニール中将は、双眼鏡を下ろし、乾いた笑いを漏らした。
「……物理学の教科書を書き直す必要があるな。あんなGに耐える船体など、聞いたことがない」
2. 祝杯の裏側
その夜。演習の成功を祝うレセプションパーティーが、米第7艦隊旗艦『ブルー・リッジ』の士官室で開かれた。
氷の触れ合う音と、談笑する声。
その喧騒から少し離れた窓際で、S.O.D.U連絡将校・如月二佐は、夜の海に浮かぶ『みやつかぜ』と『あきつかぜ』を静かに見つめていた。
「……素晴らしい船だ。美しく、そして強靭だ」
背後から声をかけられた。マクニール中将だ。彼はバーボンを片手に、如月の隣に並んだ。
「ありがとうございます、中将。彼女たちも、米海軍とのダンスを楽しんだようです」
如月は社交的な笑みで返す。だが、マクニールは鋭い眼光を崩さなかった。
「キサラギ。私は長年海に生きているが、直感というやつがあってね」
中将はグラスを揺らした。
「君たちの駆逐艦のナンバーだ。主力である『みやつかぜ』はX03。今日暴れ回った『あきつかぜ』はX05。
……間の数字が抜けている。01、02、そして04はどこにいる?」
マクニールは探るように如月の目を見た。
「まさか、X03以上の怪物が、まだどこかの海に隠されているのか?」
3. 砕けたプロトタイプ
如月は、手元のグラスに視線を落とし、ふっと自嘲気味に笑った。
「……怪物、ですか。ええ、あるいはそう呼ぶべきだったのかもしれません」
彼は顔を上げ、遠くの姉妹艦を見つめながら語り始めた。
「隠しているのではありませんよ、中将。彼女たちは……もう走れないのです」
「走れない?」
「DDG-X01『あまつかぜ(天津風)』。長女です」
如月の声のトーンが少し下がる。
「彼女は、S.O.D.Uが初めて50ノットの壁に挑んだプロトタイプでした。ですが……当時の合金技術では、その心臓の出力に耐えられなかった」
如月は、痛ましい記憶を掘り起こすように目を細めた。
「全力公試の最中でした。50ノットを超えた瞬間、船体中央に巨大な亀裂が入り……彼女の竜骨は砕けました。轟音と共に、文字通り空中分解しかけたのです」
マクニールは息を呑んだ。
「……なんということだ」
「彼女は沈みませんでしたが、二度と航行不能になりました。
ですが、その『砕けたデータ』があったからこそ、X03『みやつかぜ』の強靭なボディが完成した。
そして次女のX02『ときつかぜ』は、姉の事故を受けて武装を一切積まず、ひたすら安全性を検証するテストベッド(試験艦)として、今も裏方で妹たちを支えています」
如月はグラスを掲げた。
「今日の『あきつかぜ』のダンスは、動けなくなった姉たちの夢そのものなのです」
4. 触れてはいけない「4」
「……そうか。あの強さは、しかばねを越えてきた強さというわけか」
マクニールは納得し、深く頷いた。技術屋の端くれとして、開発の犠牲に対する敬意を感じたからだ。
しかし、彼はふと気づいた。
「待てよ。01と02の話は分かった。……では、X04は? 4番艦はどうしたんだ?」
その瞬間だった。
穏やかだった如月の空気が、一変した。
室内のエアコンが急に強まったかのような、冷たい気配。彼の瞳から「感情」の色が消え失せた。
「……中将」
低く、抑揚のない声。
「海には、触れてはいけない『凪』もあります」
「……?」
「X01の事故は、技術的な悲劇でした。ですが、X04……『浦風』については……」
如月は言葉を切り、マクニールを真っ直ぐに見据えた。
その目は、決してこれ以上踏み込ませないという、鋼鉄の拒絶を示していた。
「聞かないでください。それが……あなたのためであり、日米同盟のためでもあります」
「……!」
マクニールは背筋に冷たいものが走るのを感じた。
技術的な失敗ではない。「政治的」、あるいはもっと「倫理的」な何かが、その数字には埋まっている。
百戦錬磨の将軍としての勘が、警鐘を鳴らした。
『これ以上は聞くな』と。
5. 静かなる威圧
重苦しい沈黙の後、マクニールはわざとらしく肩をすくめた。
「……オーケー。分かった。私は何も聞かなかった。
ただ、日本の艦隊には『幽霊』も所属しているということだけ、覚えておこう」
「賢明なご判断に感謝します」
如月は、いつもの柔和なマスクを被り直した。
「それでは中将。明日も早い。私はこれで」
如月が去った後、マクニールは一人、窓の外を見た。
月明かりに照らされた『みやつかぜ』と『あきつかぜ』。
その美しいシルエットの背後に、砕け散った長女と、歴史から抹消された4女の影が重なって見えた。
「……S.O.D.U。底の知れない連中だ」
彼は残ったバーボンを一気に煽り、深く息を吐いた。
その夜の海は、秘密を飲み込んだまま、ただ静かに凪いでいた。
「DDG-X03 みやつかぜ(雅津風)」
「DDG-X05 あきつかぜ(秋津風)」
の土台を作り、
「天津風型」の物語に厚みを生む事が出来たのかなと思っています。




